両手一杯のカルミアを君に

亀裂

 ◆ 「……できた!」 「ええ、とても上手に焼けてますよ」  カルミアはフライパンの中のオムレツを褒められ、ぎこちない笑みを浮かべた。必死に笑顔を作ろうとしているのだが、上手く笑う事が出来ないらしい。アルメダもそれを理解しており、「喜んでもらえますね」とカルミアの頭を撫でた。  事の始まりは、カルミアの料理を作りたいというお願いだった。アルメダは簡単な料理をと思ったが、まだ包丁はまだ上手く扱えないだろうとの事で、まずは第一段階として卵料理から手をつけた。  カルミアはバターをたっぷり使ったオムレツを皿に乗せると、それを嬉しそうにユノの所まで運んだ。躓かないか心配だったがーーーー大丈夫だ、ニーナよりはちゃんと配膳出来ている。  それを見届け、アルメダは残りの朝食の支度を済ませた。 「見てユノさま、これカルミアが作ったの」 「まぁ! とっても美味しそうね」  頭を撫でながら、ユノは少女の成長を心から喜んだ。  最近はヴィオが仕事で家を開ける頻度も増え、言葉にはしないが寂しい思いをしていた。それはメイド達も同じだが、ユノは主人が不在の間、この家を預かる者として、彼女達の事を一層気にかけていた。  目を見張るのはカルミアの成長であり、前よりよく喋るようになり、言葉も多く覚えた。寝る前には絵本を読み聞かせていたが、カルミアはそれを毎晩の楽しみにしていた。途中からは自分が読み聞かせたいと言ってきた事もある。  精神年齢の低かった筈のカルミアだが、ようやく見た目相応のものに近づいていると言っていいだろう。 「じゃあ、朝食にしましょうか」 「うん!」  アルメダとニーナが配膳を終えると、ヴィオの居ない食卓を囲んだ。  ◆ 「ねぇユノ様、ヴィオ様は明日の朝に帰るんですよね?」 「そうね、多分朝食の後にはなるけれど……」  ニーナの言葉に、ユノはスプーンを咥えたまま天井を仰いだ。そう言えば、最近は仕事の話を夫婦間でしていない。 「カルミア、早くヴィオさまに会いたい。オムレツ、作れるようになったって言うの」  綺麗に焼き上がったオムレツに視線を落とし、カルミアは呟いた。それを見たユノはオムレツを一切れ頬張り「早く食べさせてあげたいわね、とっても美味しいから」とカルミアに笑みを向ける。 「……うん!」  カルミアもオムレツを食べ、まだ帰らない主人に想いを馳せる。その光景を、アルメダは嬉しそうに見つめていた。 「鬼の顔にも笑顔かな?」 「あら、残してますよニーナ」 「あ、アタシのトマトぉ!」  大好物を取られ、ニーナは半泣きになる。タイプの違う二人だが、それ故に仲が良い。大体はアルメダにマウントを取られるのだが、ニーナも負けじと食らいつくのが日課だった。  そもそも、ニーナの明るさはアルメダには眩しかった。物事についてハッキリと自分の意見を投げかけ、疑問に思えば質問する。  シンプルな事だが、アルメダの性格上、話の背景を読み取り言葉を選ぶ癖がある。過剰なまでに気を使い、自分の意見は押し込み、協調性を保とうとする。  ヴィオに対する想いも、それが行き過ぎだ結果だと後から後悔もした。 「……えい」 「ーーーーあ」  カルミアは、アルメダの皿に乗ったソーセージをフォークで突き刺し頬張った。突然の出来事に、似合わない間の抜けた声を出してしまう。 「やーい、アルメダも取られてやんのー!」 「…………」 「え、ちょっと本当に怒った? えっと、ええと」  俯いて震えるアルメダを見てニーナはおたおたし始める。しかし、小さく途切れ途切れの笑い声が聞こえたかと思うと、アルメダは見た事もない笑顔を浮かべ笑っていた。 「ユノ様、アルメダが壊れちゃったよう!」 「あらあら」 「ふふ……す、すいません。可笑しくて、つい」 意外な伏兵の攻撃に、笑いが込み上げてくる。カルミアがそんな事をして来るなんて思いもよらず、故に可笑しかった。 「? ……カルミアのせい?」 「ええ、カルミアのお陰です」  アルメダは残ったソーセージをカルミアの皿に移した。 「……?」 「これはお礼です」 「あ、ずるいぞカルミアだけ! アタシにも寄越せーーーー!」 「どうぞ、パセリです」 「苦いのは嫌だよぉッッ!」  主人の欠けた食卓。  そこには、残された家族の明るい姿があった。  しかし、不穏な影は、すぐそこまで迫っていたのだ。  ーーーーコンコン。  屋敷のドアがノックされる。  随分と早い時間だが、こんな時間に来訪者など普段では有り得なかった。 「ひょっとしたらスヴェンかな? アタシ見てきます」  そう言えばブローチを持ってくると言っていた筈だ。きっとカルミアの喜ぶ顔見たさに先走ったに違いない。思いっきり揶揄ってやろうと、ニーナは無防備に扉を開いた。 「ーーーーえ?」 「食事中に悪いな、お邪魔するぜ?」  そこには、屈強な男を二人引き連れた、ミゲルの姿があった。

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