両手一杯のカルミアを君に

絶望の淵より-3

「骨折に打撲、それに……いくつかの病気も併発してるね」  私をベッドに寝かせると、診察を終えた女性はカルテを叩いてテーブルに置いた。 「きみ、名前」 「……うぅ?」 「名前だよ、声が出ないなら筆談でも良いーーーーって、もしかしても文字も書けない?」 「う、うぅう」  私は首を横に振るとペンを取り、紙に「なまえはない」と書いて見せた。  文字は知っている。ロッドが牢屋に置いていた本を読みあさり、簡単な小説くらいは読めるようになった。流石に言葉の意味までは理解出来ないものもあるが、牢屋で暮らす分にはそれでも構わなかった。  知識を得て何になる。  私はこの牢屋で一生を終えるのだ。  そう考えていながらも、何処かで違う未来を想像していた。本の中にある様な、外の世界で自由に笑える未来があるのでは無いかと。  結果として、私は外の世界に出る事が出来た。  私の不安が入り混じる瞳を見て、女性は紙にペンを走らせると、「私はハティ、よろしく」と書いてみせた。  その他愛も無い行動に、普通の事に、私は湧き上がる喜びを隠せなかった。  ーーーー私をただ、ひとりの人として見てくれている。  そんな当たり前が、これ程までに嬉しい事なんだ。 「泣かないでよ、でもまぁ無理もないね」  ハティと名乗った女性は私の涙を拭うと、そっとベッドに寝かせてくれた。 「治療とか色々、痛いけど我慢出来る?」 「うぅ」  こくりと頷く。痛いのは慣れている、平気だ。 「……それに今日は、君達に新しい道が拓ける日になる」  ポツリと呟くと、外で大きな音が鳴り響いた。 「ひとりの男が、やっと重い腰をあげたのさ」  私がその言葉の意味を知るのは、それから二日後の事だった。

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