両手一杯のカルミアを君に

打開策

 ◆  ガイザックに約束を取り付けたのは、トルヴィオを訪れてから二日後の事だった。  バテルに会った事、そしてシルから譲り受けた本の内容を共有する為、ガイザックが経営するモーテルの事務所へと顔を出す。彼は相変わらず皺一つないスーツを見に纏い、前と同じ銘柄の煙草に火をつけようとしていた。 「ようこそヘルメス卿……おっと、失礼」 「気にしないでくれ。我々はもう、運命共同体なのだから」 「ではお言葉に甘えて……」  ガイザックは一礼して煙草に火をつけた。独特の香りが鼻先を掠めると、ヴィオはソファーに腰掛け、シルから譲り受けた本をテーブルに置く。  その古めかしい本に視線を落とすと、ガイザックは「それはもしや?」と、何かを知っている風な態度を見せた。 「エンプレスエルフ……その命をもって造られる秘薬の精製方法が記された本だ」 「成る程、やはり噂では無いのですね。バテルから話を聞いた時は、そんな馬鹿なものな存在してたまるかと思いましたが」  一本目を半分ほど吸い終わり、それを灰皿に押し付けた。 「だとすれば、ミゲルが不老不死だと言う噂も……」 「残念ながらそうらしい。簡単に確かめる術は無いがね」 「その線が消せれば、私はこの手で奴を消すつもりでもいたのですが、それは叶わないらしい」  卑屈に笑いながら、ガイザックは二本目の煙草に火を付けた。前から気になってはいたが、ガイザックはチェーンスモーカーらしい。 「焦りは禁物だ。まだ手が無い訳では無い」 「……何か策があるのですか?」 「不老不死の話は嘘では無いが、実は〝穴〟があるらしい」  ヴィオは本を開くと、その後半のとあるページを示した。そこには「贄としたエルフの個体差により、効能の期間が決まる」と書かれている。 「効能の期間……つまり、不老不死と謳っておいて、いつか効果が無くなるという話でしょうか」 「ああ、例えば秘薬の持続時間が十年だとすれば、その間は不老不死でいられる。だが、期限が来れば普通の人間に戻る。もっとも、上乗せで秘薬を飲めば期間は伸びるだろうね」 「この情報をミゲル自身は知っているのですか?」 「残念だが知っているだろう。だからあの男は、それを危惧して新たなエンプレスエルフを手元に置きたい筈だろう。そしてそれにも検討がついている」  ミゲルの部屋の奥に隠された牢屋。そこに囚われている、ヴィオが過去に犯した罪の残滓。 「恐らくあの男が売り捌かずに隔離していると言う事は、間違いなく彼女がエンプレスという証拠だろう」 「しかし……この本の通りだと、紅い月は百年に一度ですが。つまり、ミゲルの飲んだ秘薬の効果はそこまで持つと?」 「分からない。だが、まずはその秘薬の贄になったエルフの情報が必要だ。それさえ分かれば、もしかすると割り出せるかもしれない」 「成る程、それなら私の方で若い連中を手配しましょう。人は多い方がいい」 「いや、それには及ばない。寧ろ、扱う人間が増えれば管理が追いつかない。もし離反でもされた場合、我々は直ぐに海の藻屑だろうからね」 「……では、どうすると?」 「バテル殿の協力があれば、最短で答えに近づけるのだがーーーー」  バテルだけに危険な仕事を任せるのは気が引ける。だが、それでも自分が役に立てるとも思えない。  ヴィオは自分がいかに無力なのかを思い知らされた。 (もう一度、バテル殿に会って話そう)  他力本願など許されない。無力だとしても、それを甘んじないヴィオは抗おうと決めた。

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