両手一杯のカルミアを君に

託す者、託される者

 ◆ 「ーーーー失礼します」  部屋に入ると、アルメダはベッドに座るユノに頭を下げた。その手には湯の入ったバスタブとタオルが持たれており、ユノの傍に座ると、衣服を脱がしてその身体を拭いた。 「ごめんねアルメダ。今日は少し気分が優れなくて……」 「大事な時期です。安静にしていて下さい」 「ありがとう。ところでニーナとカルミアは?」 「ニーナがカルミアに屋敷の仕事を教えています。この屋敷を出るまでに一人前にするのだと息巻いていましたから」 「……ふふ、スヴェンならニーナを安心して任せられるわ」  ユノはあの好青年の笑顔を思い出し、目を細めた。 「ねぇアルメダ」 「……はい?」 「私もね、一つお願いしてもいい?」 「……何でしょうか、なんなりとお申し付け下さい」 「じゃあね…………」  自らのお腹に手を当て、数秒の間目を閉じると、ゆっくりと振り向いて、アルメダを真っ直ぐ見つめた。 「私が死んだら、この子と……あの人をお願い」 「ーーーー⁉︎」  ガツンと頭を殴られた様な感覚がアルメダの脳裏を揺すった。意図せぬユノの言葉に、手に持っていたタオルを床に落としてしまう。  それを拾おうとするアルメダだが、その手をユノは握り、そして自らの腹部に添えた。 「貴女のあの人に向ける想いは、それは主従を超えたものだと知っていたわ」 「ッ⁉︎……申し訳、ございません」 「まぁほとんど〝女の勘〟だったのだけれど。あの人も貴女の事を考えて口にはしなかったし」  ユノは笑顔のまま続ける。 「少しは嫉妬したのよ? だけれど、貴女の気持ちを考えると、怒る気はしなかったわ」 「……奥様」 「最近ね、あの人を見ていると……胸が痛いの。あの人は大きな業を抱えて生きている。そしてそれを償う為に、身を粉にして、この世界を正そうとしている。そんな姿を見ているだけしか出来ない自分が歯痒くて辛いの」  ミゲルの屋敷で全てを知ったユノは、それでもヴィオに寄り添うと決めた。だが、ヴィオは家庭にそれを持ち込まないと頑なである。  自身も知らずに擦り切れていく夫に対し、普段通り接する以上の事が出来ない自分をユノは呪った。 「この子をしっかり産んで、出来るだけ長く生きてあの人を支えようと思っているわ。だけど、それには限界がある。人間って不思議なものね、何となくだけど、自分の終わりが見えてくるみたい」 「……旦那様を支えられるのは、この世界で奥様しか居ません」 「ふふ、ありがとう。でもね、きっとあの人は一人にしてはいけないの。誰かが支えてあげないと、絶対に道を踏み外してしまう。正しくあろうとすればするほど、その影の部分に近付いてしまうものよ」 「……それは」 「だから、私が唯一、あの人を渡してもいいって思える女性として、貴女を選んだの。何処の馬の骨とも言えない人間に渡すものですか。ああ見えてあの人、とてもモテるのよ?」 「それは……分かります」 「よろしい、だから……もしもの時はお願い」  ユノはアルメダの手を強く握る。そしてアルメダもまた、その手を強く握り返した。

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