今日も自由な世界はなにかと騒々しい~古池商事第二営業部仮想現実対策室(仮)~

オフ会の約束

 貸し工房内のカーテンで仕切られた一角、この中でサチは本日使う弾丸を製作していた。  その様子をユキは興味深そうにのぞき込んでいる。 「うわぁ、すごい! サチさん、銃に詳しいんですね」 「そうね、親しかった知人の影響も大きかったかもしれないわね……」  懐かしそうな顔で天井を見上げるサチ、昔を少し思い出していた。  大学の頃、知人に薦められて顔を出していたサバイバルゲーム同好会。  そのメンバー達との飲み会で酔い潰れた先輩を迎えに来た妹が、今は亡き妻利佳子であった。  彼女も兄の影響か銃に関する話題が豊富で、時折顔を見せては幸男に銃の構造などをレクチャーしている。  やがて交際に発展した2人は数年後、利佳子の大学卒業と同時に結婚し新たな家庭を築くにいたった。  その後の久美の誕生と妻との死別、あの頃を思い出すと涙がこぼれそうになる。  瞳をうるませているサチを見て、ユキは直感した。 (これはきっと男だ!)  読みは大ハズレだが、その場の空気が読めない訳ではない。  勘違いしたまま、サチが作業を再開するのを静かに待つ。 「……あっ、ごめんなさい。 ちょっと昔の悲しい出来事を思い出しちゃって。 私すこし変な顔をしてた?」 「いえ、そんなことは……。 それよりもその弾丸、変わった作り方をしてますね」  サチの弾丸の作り方は、ユキの想像していたものとは少し違っていた。  まず薬莢となる部分、中心部分に極小の炸裂魔法を刻印しその上にBB弾サイズの魔石を置く。  そして薄い鋼板で魔石を包むようにしながら丸い円柱型に形を整え、最後に弾丸を固定すれば完成だ。  それを1つ1つ作るのではなく、1つの工程につき10発ずつまとめて製作するので効率が良い。 「1発ずつ作ると誤差も生じやすくなるけど、10発まとめて作ればわずかな誤差で済む。 とりあえず今日は20発もあれば良いわね」  サチは製作した弾丸を弾倉に収めると、銃を入れたケースを担いでユキと共に街の東側へ向かった。  狙撃場所を選定しながら、サチはユキに予備のスコープを手渡す。 「それを使って距離を測ってほしいの。 索敵魔法と遠視スキルの応用で、相手との距離が表示されるようになっているわ」  試しにユキはスコープ越しに目の前の木を覗いてみた。  すると射撃を邪魔しない部分に、小さく数字で272mと表示される。 「なんですか、このとんでもアイテム!? これも自作したって言うんですか?」 「そうよ、この銃の射程も正確に把握しておかないと弾が無駄になってしまうもの」 (この正確な情報収集にこだわるところ、なんだか上司と少し似ているな)  ユキは1人娘を溺愛している、凄腕上司の顔を思い浮かべた。  しかし目の前の美女との接点が、どうしても見つからない。  そのうち待ちきれなくなったサチに肩を叩かれて、考え事を中断させられる。 「ほら、そろそろ始めるわよ。 今日はあそこに立てた的がターゲットよ」  ユキが指差した先では、木製の的が毛先の先端ほどの大きさで視界に映る。 「……あれ、1km以上離れていませんか?」 「最終的には……1500m前後まで射程距離を伸ばしたいのよね」  とんでもないことを平然と口にするサチに、ユキは開いた口がふさがらない。  けれども倒されそうになったところを助けてもらった恩もある、サチから言われた通りまずは的からの距離を測ってみることにする。  スコープ越しに的を見ると、1187mと数字が表示された。 「ええと、距離1187mです」 「……そう。 これで撃って命中したら、次はさらに離れた場所から狙ってみることにしましょう」  そして繰り返すこと数回、現在の銃の射程が1300m手前だと判明。  サチはさらなる射程距離の向上に、強い意欲をかきたてる。 「あと200m射程を伸ばすには……アレやコレの強化が必要ね」  地面に何やら変な計算式まで書き始めるサチ、ユキは彼女が我に返るまでしばらく様子を見守ることにした……。 「ごめんなさい。 計算に夢中になって、あなたのことを忘れていたわ」 「いいえ、気にしないでください」  そう言いながらもユキは少し疲れている、サチが冷静さを取り戻したとき既に時間が1時間近く経っていた。  一緒にパーティーを組もうと誘っておきながら放置していたのだから、サチに非があるのは明白である。  申し訳なさそうにしているサチを見て、ユキはあることを思いついた。 「そうですね、では今度2人だけでオフ会を開いてくれるのなら許してあげます」 「オフ会? オフ会ってなに?」  サチはキョトンとした顔をしながら、オフ会とは何か聞いてくる。  同性をナンパしていると思われたくないユキは、遠回しな説明で誤魔化してみた。 「オフ会とは本当の名前を隠し、お互いのゲーム内での名前で呼び合う会合のようなものです。 でも会って数日でいきなり誘うのは、少し気が早かったかな。 あははははは……」  残念そうな顔をするユキを見て失望させるかもしれないけど、1度だけそのオフ会とやらを開いてみようとサチは考える。 「分かったわ、そのオフ会とやらをしてみましょう。 でもお互いの仕事もあるし、都合の良い日時を決められるかしら?」 「サチさんはどこの駅を利用されてます?」 「私は大和大銀丼(やまとおおぎど)だけど……ユキは?」  するとユキの顔がパッと明るくなった。 「すごい! 私の務めている会社も、大和大銀丼の近くなんです。 では明日18時に、駅の南口にある喫茶店で待ち合わせってのはどうですか?」  矢継ぎ早に時間と場所まで指定するユキに少し閉口しながらも、サチはその時間の待ち合わせを了承する。  そしてお互いの目印も合わせて決めておいた。  サチは茶色の帽子で、ユキは白い傘。  この日のパーティーはここで解散することにして、2人は街に戻ると明日の仕事に支障が無いよう早めにログアウトしたのである。  ログアウトした幸男は慌てた様子で、急にシャワーを浴び始めた。 「パパどうしたの? さっき風呂は済ませたはずでしょ?」 「ああ、いやなに。 ちょっと仮眠したら寝汗がひどくてね、シャワーで洗い流しているんだよ」 「ふ~ん。 パパにもまだ、そんなところが残っているんだ。 もしかして、誰かと会う約束でもした?」 (久美、どうしてそこまで分かるんだ!?)  妙なところで勘が鋭い久美に舌を巻きながらも、幸男はユキがどんな女性か想像をふくらませる。  妻以外の女性と外で会うのは、初めてかもしれない。  失礼がないように丁寧に身体を洗いながら、女性を演じていたことへの謝罪や今後の予定を聞くプランを事細かく計画する。  翌日やや浮かれたようすで家を出る父の姿を見た久美は、ある決意をした。 (今日は学校を早退して、奥さんに相応しい人かパパの後をつけてみよう)  波乱含みのオフ会が開かれようとしている……。

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