今日も自由な世界はなにかと騒々しい~古池商事第二営業部仮想現実対策室(仮)~

想像以上に世間は狭い?

 6柱の中の1柱であるセツナが、アレムの街を珍しく1人で歩いていた。 (あ~あ、つまんない。 折角ログインしたのに、カグツチが急用で来れなくなったから今日のレベル上げは中止。 久しぶりに初心者さんの護衛でもして、暇潰しでもしようかな……)  リーダーが不在の場合は、残りのメンバーでパーティーを組まない。  それがメンバー全員の話し合いで決めた、暗黙のルールである。  司令塔であるカグツチが居ない時に誰かを代理にすると、その者が増長して指示に従わなくなる恐れがあった。  パーティー内が分裂するような火種は作らない、勤め先の上司に言われたことでもある。 『プロジェクト内にリーダーは1人さえいればいい、複数で仕切ろうとすると必ずと言っていいほど揉める。 どちらが抜きん出ているか張り合おうとするからだ、1人に任せて残りの面子全員でリーダーを補佐しろ。 それが結果的に良い成果を残す』  その上司の言葉通りカグツチを全員でサポートする形を作ってから、破竹の勢いで 攻略は進んだ。  6柱と呼ばれトッププレイヤーの仲間入りもしているが、カグツチも含めた全員がこのゲームが大好きな同士なのである。  いつまで一緒にプレイ出来るかは分からないが、こちらの世界が消える日まで共に歩んでいきたい。 「そこのあなた、ちょっといいかしら?」 「あっ、はい」  そんな感傷に浸っていたセツナだったが、知らない女性か突然声をかけられ現実に引きずり戻される。 「さきほど初心者の護衛でもして暇潰しをしよう、と独り言を言っていた気がするのだけど?」 「えっ!? もしかして口に出てました?」  どうやら無意識に独り言を言っていたらしい。  セツナは恥ずかしい気持ちで一杯になる。 「もしよろしかったら、私の護衛をしていただけませんか? 今日は遠く離れた場所から、大切なものを守るというクエストをするので」 「離れた場所から依頼主を守る。 そんなクエストあったかしら?」  これまでに得た情報の中には、そのクエストは含まれていない。  特殊条件のクエストならば、報酬も期待出来る。  セツナは目の前にいる女性プレイヤーの名前も聞かずに、護衛の依頼を引き受けたのだった……。 「……ところで、何をされているのですか?」  小高い丘の上で寝そべりターゲットが来るのを待つ依頼主に、セツナはとりあえず質問してみる。  この女性の装備にもツッコミを入れたいところだが、今回のクエストで守る対象がいまだに分からないのだ。  眼下では1組の男女がペアで狩りをしている、女は20代半ばで男は18歳くらいの美少年。  姉弟もしくは年の差カップルかは不明、男の方から女性にアプローチしているようにも見える。  すると突如伏せていた依頼主が、女性に向けて発砲した!  渡されたスコープで覗くと、女性の頬を弾が掠ったらしく血が滲んでいる。  セツナは短剣を構えると、PK行為を働こうとする依頼主の背後に回り込んだ。 「もう1度おたずねします、あなたは何をされているのですか? 同意の無いPKは通報案件です、運営に報告してあなたのアカウントを凍結させることも出来ますよ」  システム画面からGM呼び出しボタンを出すセツナ、だが依頼主は銃を撃つ姿勢のまま動こうともしない。 「大切な息子()を悪い()から守る、それが私のしているクエストよ」  堂々とした口調ではなす依頼主に、セツナは呆気に取られる。 「私の名はサチ。 あそこでプレイしている息子の……は、母親です」 「母親!?」  息子と仲良さそうにしている女性に向けて、ライフルをぶっ放す母親……。  それだけでも異常なのだが、さらにとんでもないことをサチは口走る。 「このあいだのジャイアントオーガみたく、あいつの頭を吹き飛ばせばこんな心配もしないですむのかしら?」 (このあいだのジャイアントオーガ? もしかしてアレを倒したのって、この人!?)  剣と魔法の世界を舞台としたゲーム内にライフルを持ち込むような女性だ、1人であの化け物を倒すことくらい余裕だろう。  だがそうは言ってもこんな守り方では、息子も終いには怒り出すのではないか?  すると案の定サチが装着していたイヤリングから、男の子の声が聞こえてくる。 『ちょっとパパ! ユキさんとの2人きりの時間を、邪魔しないでくれる?』 「い、いや、だがな久美。 パパはお前のことが心配で……」 『パパは私と幸夫さんが付き合うのが、そんなに嫌なんだ?』  会話の一部始終が聞こえてしまったセツナは目の前の女性の中身が男で、娘が彼氏と一緒にいるのを邪魔しているだけなのだと理解した。 「あの~娘さんの邪魔をするのはそれぐらいで……」 「もしかして、会話全部聞かれてしまったのか?」 「父娘間の問題だったので、運営に報告するのは止めておきます」  サチは立ち上がると、セツナの手を握りながら感謝を伝える。 「親子の問題に巻き込んでしまい、大変申し訳なく思っている。 私の本当の名前は丸林幸男(まるばやしさちお)、古池商事という会社に務めている」  リアルをゲーム内で打ち明けるのはマナー違反なのだが、そんなルールがあることを知らないサチは自分から話してしまう。  するとセツナは何故か激しく狼狽した。 「ぶ、部長。 どうして女性キャラでプレイされているのですか!?」  このセツナというプレイヤーも、どうやら部下の1人だったらしい。  社内での自分の評価が変わりそうな予感を、幸男はひしひしと感じていた……。

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