パンデミックが起こっても、銃器密造家はしぶとく生き延びる

読了目安時間:5分

P90

今日は特別な日。新しい事を始める日。 軽から降り、取り寄せた鋼材を家に持ち込んだ。 ここは田舎。周りには畑しかない。 ならば少々大きな音を出しても構わない。 季節外れのセミもそう言ってる気がする。 念の為、玄関の鍵を締めてカーテンも締め切る。 人に見られてたら大変。即刻タイーホされちゃう。 ロッド状のマンガン鋼を旋盤に固定。 超硬合金製のドリルを取り付けて、微調整の後電源を入れる。 ウイーーンというモーターの駆動音。高速で回転するドリルは、円柱状のマンガン鋼の中心に正確に穴を開ける。 保護メガネ越しに見えるロッド。ドリルと接触した部分からは、金属の削りカスが不規則に吹き出している。勿論、金属と金属の擦れ合う、何とも言えない音のおまけ付き。 結構煩いので、都会でやると2秒で通報される。 だがここでは無問題。それどころか、ジジババの振るう草刈り機といい勝負が出来そう。あれも大概な爆音なのだ。 数十秒かけて、ドリルは柱の反対側から突き出てきた。 その様子を確認したら、旋盤の電源を落とす。 ウイイィンン...と電動機が鳴りを潜めたら、ドーナツのように真ん中にスッポリと穴の空いた金属筒を取り出す。 今度は2台目の工作機械にセット、 金属筒の周りを削って仕上げを。 0.1ミリ単位まで気を遣い、採寸してズレがないのを確認すると、今度は内側に4本の溝を掘る。 一番辛い地獄の作業。内径5.7mmの硬い金属筒の中に4本のラインを掘るのだ。考えてみてほしい。 一番時間のかかる悪魔的作業である事は自明の理、神経がすり減っていくらあっても足りやしない。 数時間かけてライフリングを彫り終えると、もう空には赤みが掛かっていた。 あ、晩御飯の用意してないじゃん。 まあいっか、昼の残り飯でも食べまっか。 悪魔の囁きに従った俺は、そのまま作業を続ける事にした。切削切削。騒音被害なんか考えずにどんどん行こう。 ピーッ!ピーッ!書斎からタイマーの音がする。 プリンターからだ。回収しにいきまヒョ。 ガチャッ。 電子レンジのような形の取り出し口から、 "ソレ"を取り出す。 軽いABS樹脂の集合体。3Dプリンターによって成形されたそれは、どこか違法な香りがする。 これは本体、それの一部分だ。 出力したばかりでまだほんのり暖かい。 重要なパーツは金属を削り出して、そうじゃ無い物は3Dプリンターで出力する。3Dプリンター製の部品は軽いが耐久度はレゴブロックと同程度。 レゴブロックをハンマーで叩き割った人なら分かるだろうが(そんな野蛮な事はやって無いが)あれは結構脆い。重要なパーツにあれを使うと後で地獄を見ることになるので絶対にやらない。 あくまで時間短縮目的でしか使わない。 そう決めている。 3Dプリンターに合成樹脂を補充して、新たな3Dモデルのデータを挿入。スタートボタンを押してリビングに戻る。 もしかしたら今日中に終わりそうかも。 残り少ないし、金属部品は早い間に作り終えよう。 その考えのもと、その日はほぼ徹夜で作業をした。 終わったのは深夜の3時だった。その後はすぐ寝た。 明日は日曜日。少々ゆっくりしても問題ないのだ。 だが今はそんなつもりは無い。 なんとしてでも完成させる。 朝、8時に起きたらすぐ3Dプリンターの様子を見に行った。予想通り、予想を上回る精度で部品が出力されていた。 合成樹脂はすっかり冷めていた。 4時頃には既に出来ていたのかな? 朝を食べたら早速作業開始。 最後のパーツのデータを入れて機械を動かせる。 これまで作った数多の部品を組み立てたら、後は待つだけ。緑茶を一杯、飲んでから二度寝をかます。 タイマーの音で目が覚めた所で、部品を回収。 出力した部品に金属パーツをズレなく接続。 最後に何箇所かをネジ留めしたら完成。 「いっちょあがりいっ!」 大きく背伸びして深呼吸をしたら、引き出しの中からブツを取り出す。これまでとは違い、ずっしりと重い。 半透明な細長いケースの中には、何やら金色に光る鋭い円筒形の何かが規則正しく詰まっている。 そう、これは弾倉。 5.7mm弾が25発並ぶ。それが上下に2列。 合計50発。50連マガジンといったところか。 それを先程完成させた、黒い機械にカチャリとはめる。 P90の挿絵1 これはPDW(personal defense weapon)だ。 開発会社はベルギーのFN社。 銃の名称はP90という。軽くて嵩張らない、なのにアサルトライフルに引けを取らない火力。最新鋭の銃火器だ。 やの人に流せば700万以上の値がつくだろう。 だがそのような事はしない。勿体ないから。 銃オタクはこれを持っている事に価値を見出す。 撃つために密造するんじゃない。 何時でも撃てる状態にする為に密造するんだ。 台所直下の隠し物置のハッチを開ける。 作品はここに隠す。今までの作品も全てここにある。 万が一に備えよう。泥棒に盗られるのは癪だ。 それでこの事が露呈するともっと嫌だ。 G36、M4、OTs-14...。 ここには各種銃器とその弾薬が格納されている。 因みに手榴弾もある。ピンを抜けばすぐ使える。 だけどチキって一度も箱から出していない。 作ったっきりそのまんまだ。 銃火器ラインナップにP90を追加したら、ハッチを締め、偽装のためその上にタンスを移動させた。これで安心。 まあ今日はゆっくり寛ごう。明日から仕事だ。 大企業は正義だ。給料もバカみたいに貰える。 おかげさまで工作機械を躊躇なく買えるし。 やることをやり終えた俺は、今日のところはネットの海に潜ることにした。だがそこで衝撃的なニュースを目にする事となる。 ニューヨークで大規模な暴動が起こったらしい。 死者が数百人単位で出ている。銃の乱射事件か。 全く、銃は乱射するためにあるもんじゃないのよ。 少々の呆れを覚える。 使ったのはどうせ改造したAR-15だろう。 全くあぶねー野郎だ。 鍵を掛け、荷物をまとめて外出する。明日から仕事。 田舎の邸宅から首都圏のクソボロアパートへ移動だ。 会社出勤のためだけに借りている。正真正銘のクソボロ。 だが家賃がバカ安いのでお咎めは無しとする。 そんな事を考えながら、俺は軽のエンジンをかけた。 緑ばかりの田舎道を赤色の軽が走り抜ける。 クソボロアパートに辿り着いた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。車から降り、仕事の為の荷物を部屋に運び込む。 内実ともにクソボロの名に相応しい。 禄な警備も無いし、部屋面積は下手すると4畳以下だ。 だが幸いな事に治安はよろしゅう御座んす。 近くには大学がある。まあ学生向けアパートって所か。 両隣の部屋には大学生が入ってる。住居はクソボロだが心までは蝕まれていない。挨拶には挨拶で返してくれる。 嗚呼ありがたやありがたや。 冷蔵庫を開けて作り置き味噌汁を机の上に置く。ラップに包んだおにぎりも電子レンジに突っ込んで解凍。 風呂に入って飯を食ったら、その日はさっさと寝た。

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