マオウ軍幹部ニート大公

読了目安時間:6分

エピソード:5 / 18

第5話 ニート大公

 気を失っていないメランサはベッドに戻ることを拒否した。  丁度昼だったので、彼女を食卓の所まで運んだ。  メランサはまた魔法で料理を温めようとしたけど、俺とマオウに阻止された。 「魔力欠の状態で魔法を使うなんてダメだろう」 「でも」 「私がやるから。丁度魔法の制御の練習を兼ねて」  さっき冷蔵室から料理を持ってくれたマオウ。 「それとも、メランサさんは私の魔法を信じてくれないのか?」 「うん……確かにたった半日でこんな細かい操作はちょっと」 「じゃ念のため、メランサさんはしっかり見てくださいね」 「あっ、はい。分かりました……うん?」  会話を誘導されたことに少し気づいたが、メランサは反論をやめた。 「じゃ行くよ」  具体的に言うと、この料理を温めると火の魔法だけじゃなく、水や風魔法も少し使っているらしい。 「すごい。完璧ですわ、マオウ様」 「少し複雑な所があるけど、水輪と比べたらそんなに難しくないかも」 「温める方法も、随分とこの料理に合いますね」 「この料理のことを知っているから」 「えっ? 本当ですか?」  メランサはちょっと信じていない顔だ。 「うちのメイド長の独創だと聞きましたけど」 「『西红柿炒鸡蛋』か。確かに日本にも滅多に見えない料理だな」  俺も少し驚いた。 「料理名まで知っていますか!」 「俺は昔食べたことがあるから。そのまんまの味だな、これ」  日本人としてちょっと珍しい体験かも。  シホンシチャギダン……日本語でトマトとたまごの中華料理と言うのが分かりやすいかも。中国に一番よくある家庭料理だと聞いた。  ちなみに、日本の中華料理の店に行って注文したら、多分中国の家庭料理と全く違うものが出る。  でも目の前のこれは、外見も味も本当の中国のそのもので、尚更珍しい。 「まさかこんなこともありますわね。次に会ったらうちのメイド長に少し聞きます」 「そう言えば、まさかこの城にお箸があるなんて、びっくりした」  今、メランサはスプーンでトマトとたまごの料理を食べているけど、俺とマオウはお箸で。  異世界と言ったら西洋風の印象だから、お箸が出た時ちょっと驚いた。 「私は使いませんが、使用人の中にそれを使う者がいますわね」  そして領民の中にもお箸を使う者がいるって。  聞く限り、この領内の領民もお互いに異なる習慣を持っているらしい。 「あっ、私、明日ちょっと出かけます。うちのメイド長と共に避難した領民を帰らせるために」 「大丈夫? そんな体で」 「大丈夫ですよ。今日も、その結界魔法を使わなかったら何もなかったはずですわ。やっぱりもうこんな魔法が使えませんか……」  どうやら、結界魔法はかなり魔力が必要なる。 「明日のご飯ですが……」 「もう冷蔵室の様子を見たよ。材料もたっぷりあるし、器具も色々と揃っているから、自分で作れる」 「そうか。それもそうですね。マオウ様なら、多分こんなものより美味しいものが作れますね」 「いえ。メイド長さんの『西红柿炒鸡蛋』は結構美味しいよ。私じゃこんな味が作れないと思う」  午後はマオウの自主訓練。  色んな細かい操作で、水輪を基にして新しい技を作っているらしい。  でもまたあんな大規模な爆発は流石にちょっとダメで、そして貴重な魔石を使いすぎたらちょっとまずいので、練習の時に威力はかなり抑えられた。  念のためにメランサも見ていたが、危険がなかったから朝みたいに手を出すことがなく無事に終わった。 「これじゃ私という監督がいなくても問題がなさそうですわね」  そして明日の自主練を許可した。  翌日、マオウは魔法の訓練を続ける。  万が一があっても城を壊さないように、俺達は近くにある小さな山を登って、少し離れた場所に行った。  マオウが作った弁当を持って……ちょっとピクニックな気分だ。  制服姿のマオウが火花を出す光景を一時間見て、俺はトイレの為に少し離れて、森に入った。  道に迷わないように、川に沿っている。  よし、この辺の森で解決しよう。  そう決めて、俺はズボンを脱いだ時、水の音が耳に入った。  それは自然の水の流れの音じゃなく、何というか、お風呂の時に人が水に出入りする音に聞こえる……  おい。まさか。  ちょっとまずい予感だが、人間の本能で目を音が来た方向に向けた。  そこには、急に川の中から出た小さい女の子の上半身だ。  勿論服を着ていない。  ちょっとまずい。  そして更にまずいのは、そっちも俺を見ている。  ここは素早く行動するべきだが、俺は下半身から液体が出ている最中で、行動したくてもしばらく実行出来ない。  変態扱いされても仕方がないが、警察を呼ばないでください。  この辺に多分警察がいないけど、俺はズボンの状態を直しながら、この水色の短髪の女の子への言い訳を考えている。  グー。  向こうのお腹からかなり大きな鳴き声だ。 「あ……食べ物があるが、食べる?」  向こうは目が一瞬で大きくなって、凄い勢いでしきりに頷いている。  俺は地面に座って、袋から弁当箱一つを持ち出した。  そして頭を上げると、いつの間にか女の子がもう俺の目の前だ。  マオウより少し小さい身長で、随分痩せた体型だ。 「ほら。食べる?」  弁当箱を開けて、唐揚げの匂いが出た。 「いいの?」  サファイアみたいな目に期待が溢れる。 「いいよ」  それを聞いて、彼女は立っているままで食事を始めた。  道具を使わず、素手で唐揚げを取って口の中に送った。  そして何故か、いきなりボロボロと涙が出た。  えっ? どういう状況?  もしかして食べ物が熱くて、手のひらに火傷を受けた?  それとも……やっぱりさっきのことを思い出して、目の前の俺が変態だと思って怖くなった? 「さっきのは、その……ごめん。わざとじゃなかったから」  向こうは小首を傾けた。  いや。まさかと思うが、この子はさっきのことで何も思っていないのか……  否定できないかも。  今も何も気にせず、裸のままで俺の目の前に唐揚げを食べている。 「そう言えばお前、人間?」  メランサみたいに完全に人間に見える魔族もいるから、一応聞いた。 「はい。人間、です」  向こうは凄い勢いで弁当を食べながら答えた。  もう半分しか残っていない。 「お兄さんは、凄く綺麗な服を着ていますね。国の大貴族ですか?」  異世界の基準で、俺の服がちょっと珍しいものだろう。  なるほど。高くなりそうな服で、偉い人だと思われたか。 「実は俺……」  は魔王軍で客をやっている、と言いたかったが、言っちゃまずいことになると気付いた。 「お前の言う通り、この辺の貴族だぞ」 「なるほど。ちなみにどんな爵位ですか?」 「聞いて驚け。俺はなんと、『ニート大公』をやっているぞ」  それらしいと聞くため、適当に爵位を捏造した。  ちなみに、本名を使うことを避けるために、「ワタライ」や「アラト」じゃなく、昔自嘲した時よく言った「にいと」を使った。 「おお……大公様ですか。それは凄い人ですね」  そう言えば、この辺が魔王軍と人間の国の辺境だっけ。  ならこんな幼い子が居たら危ないんじゃ。 「この辺は危険だぞ。お前も少し離れた方がいい」 「ん?」  また首を傾けた。  仕方がない。適当に理由をつけてこいつをここから離れさせよう。 「実はここ、もう直ぐ戦場になるんだ」 「おお。流石は大公様。こんなことまで知っていますね」  弁当箱はもう直ぐ空っぽになる所だ。  ちなみに、これはマオウの分じゃなく俺の分だから、とてもこの歳の女の子が食べきる量じゃないはずだ。  あっ。そいえば俺、ずっとこの子の裸を見ているな。  向こうは気にしていないみたいけど、早めにやめた方がいい。 「じゃな。それを食べたら早くここから離れてよ」  俺は身を上げ、振り返って、この場を後にした。 「美味しいお肉をくれて、ありがとうございます」  後ろから感謝の言葉。  振り向いたらまた見ちゃいけないものが目に入るから、俺は少し手を振っただけで、そのままマオウの所に向かった。

次回にバトルシーンの予定です。

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