マオウ軍幹部ニート大公

読了目安時間:8分

エピソード:3 / 18

第3話 宝石を嵌めた

「いえ」  唇にあった柔らかい感触が消えた。首にかけられた重さも。  知らない人の声を聞いた舞央は直ぐにいつもの振舞いに戻って、何もなかったように答えた。 「えっと……」 「初めまして。私はメランサというものです」  何を聞くのか分からない舞央に対して、向こうは少しスカートを上げて、礼をしてくれた。  とりあえずこっちも身を上げよう。この一緒に来たソファから。 「どうも。渡来舞央です」 「渡来新人です」  流石は舞央だ。慌てる様子が見えていない。  少なくても表面上に。 「アラト様とマオウ様ですね。冷静で話が通じて助かりました。実は私、ある願いを叶う為にお二人をここに召喚しましたが……その話はまた明日にしましょう。まずはお二人の食事と……」 「いえ、結構です」  私は向こうの話を中断させた。 「今ここでそちらの目的を教えてください」  知らない人は信用出来ない。だから最初から相手の目的を聞きたい。 「お約束の勇者召喚ですか? どっかの魔王を倒して世界を救って欲しいですか?」  そうとなったら不味いな。  俺も舞央も、危険な戦いに巻き込まれるのはごめんだ。 「いいえ。そんな危険なことではありません。そもそも魔王はもう先日なくなりました」  少しホッとした。 「私の願いはただ」  メランサの肩の上に小さな黒い渦巻きが現れ、そこから紫の宝石二枚が取り出された。  小さいけど、綺麗な輝きで目を奪う。 「これを貰ってください」 「貰ったら、俺たちはどうなる?」  怪物になったりはしないの? という目で向こうを見ている。 「すみませんが、私も知りません」 「おい」  メランサは本当に申し訳なさそうな顔をしている。 「この宝石に凄い力が貯まっているはずですが、一体何の力か私にも分かりません。色んな方が試しても何の反応がありませんでした。ですから私はこの宝石の力を引き出せる者を召喚しました。  あやふやな条件ですから、全魔力を使ってもダメなら諦めるつもりでしたけど、まさか本当に出たなんて思いもしませんでした」  魔力がギリギリ切る前に、とメランサが言った。 「つまり大切なものだろう? 俺たちが貰っていいの?」 「いいんです。どうせ私はもう長くありませんから」 「えっ?」 「あっ」  メランサは何か思いついたような顔だ。 「異世界の方には自己紹介が足りませんでしたね」  また片足を後ろにして、割と短いスカートを少し上げて、改めて自己紹介をしてくれた。 「私はメランサと申します。今は魔王軍の幹部として、この辺の領主をやっています。どうぞよろしくお願いします」  優雅な動きをしているメランサは、その眼帯を被っていない赤い目で俺と舞央を見ている。  ――――――――  断りと決めたらいつでも返すことが可能だと言われて、ひとまず宝石を受け取った。  でも、たとえ彼女の願いを叶ってあげなくても、メランサは必ず俺と舞央の面倒を見ると宣言した。俺達を勝手に召喚したから、これくらいをしないと、と言うのはメランサの主張らしい。  そしてこっちは敬語禁止された。自分の方はそのままだけど。  その後、メランサは自分の城に俺達を招待した。 「随分立派なお城……だったらしいな」 「確かにボロボロですね。これも先日の戦争のお陰です。でもアラト様とマオウ様に快適な部屋くらいはまだありますよ」  少し前に、人間軍が攻め込んで来たらしい。  そして地形の原因で、前線になったのは魔王城とこの領地だけだったらしい。 「それにしても、随分静かだね。誰もいないみたい」  お城の前に、舞央は感想を言った。 「これも戦争で領民を避難させましたから。あっ、そのせいでしばらく使用人もいませんが、そのへんはお許しください」  中に入ったら、メランサは俺達の部屋の位置を教えてくれた。  そして晩ご飯の所も。  メランサの言葉によると、今夜の料理は使用人が避難した前に作ったものらしい。 「水魔法で氷を作って保存して、食べる時にこうして火の魔法で温めます……」  少し料理の匂いが出た。 「こんなものしか用意できませんが……」 「いえ。食事だけでもう十分にありがたい話だ」 「そしてこんな汚い場所で……すみません。私、お掃除や料理とかしたことがなくて」  舞央は俺のことを見てくれた。  俺は頷いた。 「じゃ私達にやらせてくれないか?」  舞央は提案した。 「いえ、そんな」 「使用人達が帰るまでの間だけ。それに、どうせ私と新人はやることがないし」 「それでもアラト様とマオウ様に……っ……」  メランサは急に頭がテーブルに落ちた。 「申し訳ありません。どうやら今日の召喚は魔力の消耗が思ったより激しくて……」 「じゃメランサさんはお先に休んでいいよ。あとは私と新人で何とかする」 「でも……いや、お言葉に甘えて……」  メランサはテーブルから離れて、自室に向かう。 「部屋まで運んであげるか?」 「大丈夫です。これくらいは……」  メランサは言葉が急に切れて、地面に倒れた。 「凄い汗。顔が赤い。呼吸は……ある。心拍……乱れるけど、結構ある」  舞央は色んな所を確認した。 「どうする?」 「やっぱり、俺達が部屋に運んであげようか」  原因は魔力らしい。でも俺と舞央はそんなものが全然詳しくない。  だからそれしか出来ない。 「そうだね」  そして俺と舞央は彼女を一番上の部屋に運んで、大きなベッドに寝かせた。 「心拍はもう大分安定しているらしい」  舞央はメランサの真っ平な胸を触って確認した。 「これからはどうする?」 「そうだな。とりあえず、少し部屋の掃除をしよう」  このお城は汚いことがない。随分綺麗に清掃されていて、ほこりもあんまりない。  でも多分先日の戦争のせいで、壁にかけた絵が落ちそうに見えて随分危なく見えることとか、割れた灯の欠片が地面にあっちこっちにあってちょっと危ないこととか……  綺麗かどうかはともかく、少し片付けないと安全を確保出来ないみたい。  だから、俺と舞央は清掃道具を持って、メランサの部屋と、食事の場所と、俺達の部屋を少し片付けた。 「舞央はどう思う? あの人のことを」  多分そんな関係だと思われたから、俺と舞央は一つの部屋を用意された。  でも今はこれが好都合だ。異世界に来たばかりの俺達にとっては一緒に居る方が心強い。  ベッドは一つだけだけど、俺がソファで寝るだけでいい。  一緒にこの世界に来たソファもメランサに魔法でこの部屋に運ばれた。  お陰で俺と舞央は今でもいつものソファに座っている。 「メランサさんのこと?」 「そう。どのくらい信用できると思う?」  残念だけど、俺はまだまだ人を見る目を養う必要がありそうだ。  そのへんなら、舞央の方が余程上手だろう。 「多分大体のことが大丈夫だろうと思う」 「そう?」 「もう直ぐ死ぬ人間は滅多に嘘をつかないから」  そんなことを俺も聞いたことがあるけど。 「でも長くないっていうのも嘘だったら?」 「それはないと思う。だって」  舞央は俺を見つめている。 「何だかあの子、あの頃の新人みたいな感じだ」 「そうか」  舞央がそう言うなら多分間違いがないだろう。 「あっでも、新人はちゃんと注意してね」 「何のこと?」 「どれだけ良い人に見えても、いきなり会ったばかりの人間を完全に信用しないでよ」 「そう……だな」  こんな当たり前なことを十歳下の妹に注意された。 「じゃ……これはどうする?」  机に置いたのは、紫の宝石二枚。 「新人はどう思う?」 「そうだな。やっぱり受け入れた方がいい」  俺は自分の意見を言った。 「別にメランサへの信用に関係がない。この世界に生き延びる為に、多分力があった方がいい」  魔法が存在する。  でも俺達はそんな力が使えない。  もしメランサはその気があれば、一瞬で俺と舞央を始末できるんだろう。  たとえ彼女が宣言の通りいつも俺らを守る側だとして、彼女の敵はそう限らない。 「そうだね。でも受けても、伝説の力を手に入れることはないみたいね」 「じゃただの綺麗なアクセサリーを手に入れたと思えばいい」  俺は宝石一枚を取って、舞央の指輪の傍に並べた。 「結構似合うと思わない?」 「そうだね」  舞央も一枚を取って、俺の指輪の傍に並べた。 「このまま嵌めよう。丁度その為の位置があるから」  サイズも随分ピッタリだ。 「もしかして、何かいいことがあるかもしれないね」 「いや、でもこういうことは、未来の旦那様に……」 「新人」  あの時のように、舞央の顔が近い。 「あの頃の私はね、変なことを考えていた」  あの頃って、召喚された頃だろう。 「祈里ちゃんはダメなら、他の子を探すべきだった。祈里ちゃんよりいい子は滅多にいないけど、それを解決するのは私がやるべきことだと決めた。でも」  舞央は顔を上げ、俺の目を見つめている。 「理由がそんなことだったら、私、自分でやるしかないね。たとえ世間的にダメでも、それしか方法がないよね」  あの頃のように、いい匂いが鼻を刺激する。 「そんな時、私は、ああ、もし異世界に行ったらいいな、なんて馬鹿な考えをした。だからこんな異世界に召喚されたんじゃないかな、って……そして新人はこんな不幸に巻き込まれて……」 「実は俺もだ」 「ん?」 「あの時、異世界なら許されるかな、なんて、思っていた」  異世界に駆け落ちみたいな感じ?  ありえないことだけど。  でももし本当になったら、八十禁のことも解禁されるんだろう。  そんなことを聞いた舞央は笑った。 「つまり、同じことを考えたね」 「そうだな。こんな理不尽な世界に来たのも不幸じゃなく、本望だな」 「じゃ……宝石、嵌め合うか」  そして俺と舞央は、お互いの指輪に同時に紫の宝石を嵌めた。  この空気で、このあとはどうなるんだろう。  でも俺にはそれを知る機会がない。  その瞬間、指輪に嵌められた宝石が急に強く輝いて、俺は思わず目を閉めた。  指輪の所が暖かい。  その暖かさが手や腕を沿って、頭に上がったみたいな感じだ。  同時に脳に直接、何かの情報が入っている。  再び目を開けた時、指輪に宝石はもう見えない。  その代わりに、みたいなことだが、舞央の右目は紫になった。 「なるほど。こんな力か」  呟いた舞央も、多分似たような経験をしていたんだろう。 「新人も知っているよね? この力を」 「そうだな」  脳に入った情報は、自分の力のことだけじゃない。  相手の力のことも。  だから、 「どうやら、舞央が何の魔法が使えるようになった代わりに、俺は何の魔法が使えないんだな」

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