マオウ軍幹部ニート大公

読了目安時間:7分

エピソード:12 / 18

第12話 カラス

 世の中に、進展が計画より遅くなるのは普通だ。  この世界の工事のことも。  でも、城の再建は予想以上に捗る  普通ならありえないことだ。  建築のことに経験があるウサミも当然、そんなことを知っている。  こうなったのは色んな原因があると思うけど、やっぱり大体はこのスク水少女のお陰だ。  剣を乗って、素早く材料を高い所に運ぶ。  凄い腕力で、巨大な岩でも平気で運んでくれる。  ドワーフ領から工事用のゴーレムも買ったけど、ウンディーネと比べたらあれが全然使えない気がする。  こうなったら、何かお礼をするのが筋だとウサミは思う。 「何か欲しいものやしてくれて欲しいこと、ですか?」 「はい。私ができることの限りですが」  ウサミは魔族になって、この魔王軍に入ったのは約二年前だった。  まだ日が浅いかもしれないが、心がもうこの世界の人間じゃなく、魔王軍の側にあるんだ。  だから、伝説の勇者に対して心から歓迎するとは言えなかった。  でも、敵対してくれないと宣言した以上、ウサミも自分から敵意を示さない。  これくらいで厄介な敵がなくなったら、もう安いものだと言える。  そして最近の接触で、向こうはただの世間知らず純粋な少女だと感じる。  ある意味で生活力がなさすぎて、つい面倒を見てあげることになる。  しかも魔族のみんなと同じように、人間の側にいた時は酷い扱いを受けたらしいから、敵より仲間意識が湧いていきた。  更に、あの男の命令だといえ、自分の工事にこうして手伝ってくれて、本当に助かった。  だからこの日、仕事のあとでウサミは少女の着替えをしながら、自分も何かしてあげたいと伝わった。 「いいんです。私はただ、大公の城が早く完成されたいだけです」 「いや、メランサ様の城ですけど」  何でもあの男を中心することはウサミにちょっと理解し難いけど。 「それに、ウンディーネ様は一番の貢献者なのに、全然給料を受け取っていません。ですからせめて何かのお礼をさせてください……」 「お礼なら受けましたよ。この服、ウサミお姉ちゃんが用意してくれたものだと大公様から聞きました」 「いえ、実はこれはメランサ様のもので、私は何もしませんでした」 「じゃこれから毎日唐揚げを……」  ウサミは考えた。  毎日みんなに唐揚げを食べさせるのは流石にダメだと思うけど、ウンディーネだけのおやつみたいで、毎日少しだけ唐揚げを作ったら……  それくらいなら容易いものかもしれない。 「いいえ。それより、今夜ウンディと剣術の模擬戦をしてくれますか?」 「唐揚げはもういいのですか?」 「いいんです。そんなものより、今夜は絶対来てください」 「かしこまりました」  大好きな唐揚げを「そんなもの」と呼ぶって、きっととても大事なことだろう。 「じゃすみませんが、また前の格好に着替えてもらえますか?」 「かしこまりました」  どうやらウンディーネはこのフリフリなものを身につけず、工事の時の格好で模擬戦をしたい。  今夜は割と真剣に剣を交えるつもりってことだろう、とウサミは考えた。  ――――――――  その夜の模擬戦はウサミの予想とはちょっと違った。  ウンディーネは一度も剣に乗らず、得意な機動力を放棄した。  その代わりに、純粋な剣術でウサミに付き合ってくれた。  まあ、あれは剣と言うより、巨大な鈍器という方が相応しいかもしれないけど。 「流石はゆう……ウンディーネ様です」  この魔王軍に入ってから、ウンディーネは勇者という称号があんまり気に入らないみたいで、ウサミは荒い息をしながら言い直した。 「ウサミお姉ちゃんの剣術が綺麗ですね。有名な師匠から学んだことがありますか?」 「そうですね」 「しかも王国に見たことがない剣術です」 「出身が連合の原因でしょうか」  この大陸の北東にある、商業都市の連合。  魔王軍との戦争に一番興味が低い国家。もしその連合も国家と言えるなら。 「でもウンディーネ様には全然及ばないのですね。ウンディーネ様はまだ全然平気なのに、私はもうこんなに」 「それはただ魔力量や神具……魔道具の違いで、剣術の差じゃありません」  今夜は剣術だけの模擬戦だった。  多分その原因で、ウンディーネは剣を乗って空に飛ぶことをしなかった。 「でも何だか、ウサミお姉ちゃんの剣術は殺し合うためのものじゃないと感じます」 「それは……」 「ウサミお姉ちゃんは、誰かを殺したことがありますか?」 「えっと……」  真剣な顔で聞いてくれたウンディーネに、ウサミは言葉が詰まった。  そしてウンディーネは急にウサミの前から消えた。  早速、ウサミは周囲を見渡して、ウンディーネの姿を探す。  そして目に入った。  ウンディーネが一躍で木を登って、剣を振ってカラス一匹を切った。  そしてまた別の木でそれを繰り返した。  何匹のカラスを切った後、ウンディーネはウサミの前に戻った。  素手で一匹を持ちながら。 「えっと、ウンディーネ様? どうしてあんなことを」  ウサミがウンディーネと出会った頃にも、ウンディーネはマオウとアラトを殺すつもりで戦っていたが、それが出来ずやめた。  つまり、ウサミは今初めてウンディーネが生命を殺す現場を見ていた。  伝説の勇者は、このように無数の魔族を殺したのか。  そう考えたら、ウサミの意志に関わらず、ウンディーネを見る目が少し変わった。 「これは王国の使い魔です。偵察用の」 「そう、ですか」  確かにウンディーネがそれを知ってもおかしくない。 「丁度ウンディ達の模擬戦に引き付けられて、一気に殲滅する機会でしたね」  確かに魔王軍のために、それを排除しなければならない。 「最近ウンディがやっていましたが、もう直ぐウンディが大公様と出張するらしいのですから」  最近よくウンディが剣に乗って、城の周りに巡回する姿を目にしたが、まさかこんなことをしていた。  そして出張のことをウサミも聞いた。  マオウは魔王の座を手に入れるために、これから幹部達を説得しにいく。  同行人はアラトとメランサ。そしてアラトの護衛のウンディーネ。 「その時はウサミお姉ちゃんにお願いできますか?」 「当然です」 「そしてカラスだけじゃなくて、侵入した人間を相手しても戦えますか?」 「勿論です。メランサ様の領地を守らなくてはいけません」  今まではずっと戦場から離れていたが、今回は初めてメランサにそう頼まれた。 「じゃ、今ウンディがこの使い魔を解放します。そしてウサミお姉ちゃんはその剣で一気に切ってください」 「えっ……」 「さあ。手を剣にかけて?」  ウサミはそうした。 「じゃ、行きますよ」  カラスは多分自分の境遇を理解したので、ウンディーネの手から解放された瞬間直ぐ逃げようとした。  ウサミはそれを許せず、レイピアでそのカラスを真二つにした。 「よく出来ました。じゃウサミお姉ちゃん。今夜付き合ってくれて、ありがとうございました」  ウサミはその後味を味わいながら、ウンディーネの意図を理解した。  見た目はまだ幼いけど、ウンディーネはもう何度も戦場に向かい、数え切れない魔族の命をその手で終わらせた。  だから一見で分かる。  ウサミには、人を殺したことがない。  それだけじゃない。  実は今の瞬間まで、ウサミは動物を殺したこともなかった。 「ウンディーネ様はどうして、ずっとその剣で戦い続けられるんですか?」 「ただ慣れただけです」  どう反応するか分からない答えを聞いて、ウサミはウンディーネの背中姿を目にしている。 「でも今は、大公様のために剣を振るいたいと思います」 「あの男のために?」  ウサミはちょっと眉を顰めた。 「そうです。ウサミお姉ちゃんも、大公様のことが結構気になりますね」 「いや。私はただあのロリコンのことが……」  気にならないと言ったら嘘になる。  むしろ最近は一番気になる者だといえる。 「それよりウンディーネ様も、あのロリコンに気をつけてください」 「大公様はロリコンかどうか分かりません。でももし本当にそうだったら、ウンディは嬉しいです。だってウンディ、多分一生この体型で変わらないと思います」  そう言って、ウンディーネは剣で飛んで、アラトの部屋の窓から入った。  アラトはウンディーネに、入る時はドアからって何度も言ったけど、今はもう諦めたみたいで、溜息を吐きながら開けた窓を閉めた。 「ワタライ、アラト……何でこの世界に」  窓を閉めるアラトの顔を遠くから見ながら、ウサミは呟いた。

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