マオウ軍幹部ニート大公

読了目安時間:8分

エピソード:4 / 18

第4話 水輪

 メランサの城から、南に川が見えて、東に海岸が見える。  そして川の向こうは人間の国、アルフヘイム王国である。 「つまり、ここが国境線ってこと?」 「そうですね」 「そして領主のメランサは前線に城を立てたって、流石だ」 「確かにそういう原因もありますが、もう少し魔王軍の中心部に入ったら殆ど砂漠ですから、この辺の土地は最も重要ですね」  城の外で、メランサと会話で俺はこの世界の情報を少しずつ手に入れている。  まあ、これもついでに、だけど。  何せ今のメインイベントは…… 「おお! これで本当に全ての属性の魔法が使えるんですね……凄いですわ、マオウ様!」  出した炎を氷で消して、今俺達に吹いてくる風を作り出したマオウに、メランサは褒め言葉を惜しみなく送っている。  ちなみに、俺とマオウはこの世界の言葉が分かる原因は翻訳魔法じゃない。都合のいいチートでもない。この世界の言語は日本語そのものだから。  そして文字は片仮名のみ。漢字がない世界なので、俺の名は「アラト」となり、舞央は「マオウ」になる。 「そんなに凄いものなのか?」 「そうですわよ! 火、風、土、水、雷、五つの属性の魔法の適性を全部持つなんて、今の魔王軍にもたった一人に過ぎませんわよ」 「いや、私に属性というものがないだけで……」  これはマオウの力だ。  魔法と呼んでもいいが、その実質は原理の分かる物理現象を起こす。  そして物理現象には属性がない。  例えば、温度というものは、実は分子の運動の激しさ。その運動の激しさを変えれば、火をつけることや氷を作ることができる。  つまり、火の魔法と氷の魔法はマオウにとって同じ「属性」のものだと言える。 「もしかして、貴重な光属性と闇属性も!」 「えっと……それはどういう属性なの?」 「光属性なら、代表は治癒魔法ですわね。丁度アラト様の怪我に少し試してください」  昨日ガラスの欠片を片付いた時に指が少し割れた。  大した怪我じゃないから、あんまり気にしていない。 「ええ、でも」 「あっ、私がいますから、失敗しても何とかできますわよ。こう見えて私、一番得意な属性は光ですわよ。何故かよく闇だと思われますけど」  難しい顔をするマオウを励ましているメランサ。 「分かった。でも……その……治癒はどんな原理かあんまり想像できなくて……」 「えっと、それは……」  メランサは魔法が得意だけど、その魔法に何の物理原理があるか全く分からない。 「じゃ細胞の生命活動を少し加速して見て」 「ええ? そんな適当に……」 「俺は大丈夫だから。それにもう少しメランサを信じて」  何があっても何とかしてくれるから。 「まあ……少し試したら……」  マオウは少し治癒魔法を俺の指にかけた。 「どんな感じ?」 「少し良くなった気がする。メランサはどう思う?」  俺は隣のメランサに聞いた。 「間違いなく効果があります。適性があると言えます……」 「遠慮しなくてもいいよ」  少し躊躇う様子のメランサを見て、マオウは少し結果に気付いた。 「でも適性はそんなによくありませんわね。実践的に使うのは難しそうです」 「やっぱりか」  マオウはあっさりその評価を受けた。 「それでも、もう十分凄いですよ! かなり珍しい属性ですから、これでもう殆どの魔族より凄いですわよ!」  マオウに失望する様子が全然ないが、メランサはまだ何かにフォローをしている。 「そう言えばメランサさんって、本当にもう大丈夫?」 「勿論です! 吸血鬼ですから、回復能力は誰より強いですわよ」  確かに今朝から随分元気に見える。  喋り方も昨日と比べたら元気満々って感じだ。 「えっ? でも吸血鬼って、こんなに太陽を浴びても平気なの?」  俺はメランサに聞いた。 「ああ、それは人間側によくある間違い知識ですわね。吸血鬼は日差しが平気ですよ。ニンニクも食べられますし、銀の十字架を首に掛けても何もなりませんわ」 「じゃ真二つに切られても平気なのも嘘だったな」 「それは事実ですけど」  おい。これじゃもう無敵じゃない?  流石は魔王軍の幹部、かな。 「あっ、マオウ様。魔石をチェックさせてください」 「はい」  マオウは左手を伸ばしてくれた。  今その指輪に赤い宝石が付いている。 「殆ど消耗されていませんわね」 「具体的に、魔石一枚にどれだけ魔力があるの?」 「私にも詳しくありませんが、魔石を魔力源にする魔道具に魔力が切れたことを聞いたことがありません」  マオウの魔法にも魔力源が必要だ。  そして残念ながら、マオウ自身には魔力がないみたい。  でもその指輪に魔石を嵌めたら、魔石の魔力を使って魔法が使えるようになる。  まあ、俺達の認識で、「魔力」というより「エネルギー」と呼んだ方がいいと思う。  昨夜、頭に来た情報もそうだったから。  魔石は結構貴重なものらしいが、メランサに頼んだら直ぐ貰った。「どうせ魔道具がないから使い道が全然ありません」からって、余った全部の魔石を送ってくれた。  まあ、全部と言っても、今俺の手に持っているこの小さな白い袋で収める量だ。 「そうだ! マオウ様、この魔石一枚の魔力を一気に使う必殺技を作ったらどうですか?」 「うんん……いいアイデアだと思う。アラトはどんな技が欲しい?」 「俺?」  必殺技。必殺技……  やっぱり強力なものがいい。  そうなったらやっぱり火の魔法みたいなものが選ぶか…… 「水素爆発はどうだ。ちょっと難しいけど」 「具体的には?」 「空気中の水気を少し集めて、電流や高温で水素と酸素に分解し、そのまま爆発させる」  単純な火の魔法なら、燃える為の燃料と酸素が大量に必要されて、出力に制限がある。  でもこうして必要な燃料と酸素を全て用意したら、その問題がなくなる。 「そして生成物の水を再び分解し、また一回の水素爆発をして」 「分かった! そんなことを短時間で無限に繰り返して、少しだけの量の水気があれば何度も爆発ができる……ね」  マオウは少し唾を飲んだ。 「試してみる?」 「うん! うん……まずは」  マオウは目をつぶって、脳内でシミュレーションを始めた。 「えっ? どういうことですか?」  さっきの対話が全く理解できないメランサ。 「メランサに安全を頼む」 「えっと、具体的にどうすればいいですか?」 「ここから数百メートルの所に凄い爆発があると思えばいい」 「分かりました。じゃ土……水……ちょっと無理ですが、念の為に結界も……」  メランサは真剣な顔で呟いている。 「もういいよ。今からいく?」 「メランサ、タイミングを頼む」  タイミングは安全役のメランサがやった方がいい。 「分かりました。じゃ三、二、一、ゼロ……」  爆発で凄い音がした。  俺達三人を守る為、メランサは土魔法で壁を作った。  そしてその壁の内側に、また水魔法で氷の壁を作った。防御として、同時に温度を下げる手段として。  更に光魔法で見えない結界も張ったらしい。全く見えないが、爆発で飛んでくる石ころが見えない何かにぶつかたことで分かった。  爆発の画面を見れば、俺は計算している。  原子爆弾の1グラムはイコール普通の爆薬の20トンらしい。20トンの爆薬じゃ有効範囲が半径二百メートルらしい。  そしてこの穴の大きさを見ると……  多分、この小さな魔石というものには、核燃料と同じくらいのエネルギー密度があるんだろう。  俺は取り出した一枚の赤い魔石を見つめながら、そう考えた。 「……凄い」  メランサはさっきの光景で少し絶句したみたい。 「そうかな? でも魔王軍ならこれくらい……」 「今の魔王軍にも、こんな全力一撃ができる者は殆どいませんわよ」 「でも、私はこんな一撃で魔石を消耗したから、続きは……」 「逆に考えたら、また新しい魔石を使ったら直ぐもう一撃ができますわね! なにより、詠唱も要りません!」 「詠唱?」 「そうです。普通なら魔法を使う時に詠唱が必要で、大規模な魔法であれば詠唱もかなり時間が掛かることになります。その結果、詠唱が終わる前にやられて、魔法自身も使いものになりません」  いや、さっきメランサって、一瞬で少なくても三重の魔法を使ったんだろう。でも何の詠唱も聞かなかったよな。  これも、流石は魔王軍の幹部ってことか? 「はあ……」 「ねえねえ、これ、何の技名ですか?」 「えっと……アラトはどう思う?」  興奮しているメランサに少し驚かせて、マオウはちょっと頭が回らないみたい。 「そうだな……水素爆発の繰り返し……水素爆発の(りん)……略して(すい)(りん)ってどうかな?」 「スイリン……いいですね! かっこよくて響きがいいですわね!」  いや、どこがかっこいいか全く分からない。というかもう爆発がなくなって、ちょっと意味が違うものだろう。中国語じゃ完全に水車の同義語だ。  メランサはもう水輪(もしくはマオウ)の熱狂的なファンになって、それに関する全てを肯定する傾向が丸見えだ。 「スイリン……スイリン……すい……」  そして急にメランサの唸りが中断した。  彼女自身が地面に倒れたから。 「メランサさん! 大丈夫か?」 「ええ。また少し魔力欠みたいだけですから」 「昨日みたいに? じゃ早く休まないと」 「いいですよ。私、吸血鬼ですから、回復力だけが誰にも負けません……ああ、やっぱり結界魔法はちょっと無理でしかか」  メランサは少しずつ立ち上がった。 「どういうこと? もしかしてさっきの魔法で……」  俺はメランサに聞いた。 「普通の魔法はもう楽勝のはずですが、結界魔法はかなり魔力を消耗するもので、どうやら今の私はまだダメみたいですね」 「マオウ。こいつを一緒に部屋まで運べ」 「分かった」 「いや、だから平気ですって……」  メランサの抗議が無力すぎて、俺達は更に彼女を運ぶ決心を固めた。

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