マオウ軍幹部ニート大公

読了目安時間:8分

エピソード:8 / 18

第8話 魔族というものは

 メイドのウサミは特別にマオウにお粥を作ってくれた。  俺はありがたくそれを持ってマオウの所に行った。 「結構美味しいね、ウサミさんのお粥って」 「じゃもう一口?」  俺はスプーンをマオウの口の中から引いた。 「いえ。そろそろ唐揚げも食べたいな」 「じゃ、あー」  マオウは意外に食欲がないわけじゃないみたいで、唐揚げも結構食べられそう。  でも自分の手を動かすのが難しくて、こうして俺に夕飯を食べさせられている。 「これも美味しい」 「じゃもっと食べて。ほら」  お箸でまた一個を食べさせた。 「何だか、アラトの好きそうな味付けね。ほら、アラトも、私に食べさせるだけじゃなく、自分も食べて?」 「分かった」  マオウに食べさせるつもりだった一個を自分の口の中に送った。 「どう?」 「中々いい」 「でしょう? やっぱりアラトの好きな味だ」  確かに、ウサミの料理が凄い。 「でも俺にとって、やっぱりマオウの唐揚げが一番いい。だから」  また一個をマオウに食べさせた。 「また作ってくれよ」 「……うん。分かった」 「次はまた粥?」 「いいよ」  こうしてマオウと二人きりで夕飯を済ませた。 「あのう……もう入っていいですか?」  ドアの所に立っているメランサ。  隣にウサミもいる。 「あっ、もしかして待たせた? それはごめん」 「いえ。それより、マオウ様の着替えをしますから……」  メランサは靴を、ウサミがそれ以外を持っている。 「分かった。よろしく」  俺は部屋から出た。  今からマオウに回復効果のある服を着せるって、夕飯の前にメランサから少し事情を聞いた。  服と言うより、実際は一種の魔道具らしいって。 「もういいですよ。アラト様も入って?」  着替えは思ったより早く終わった。  部屋に入ると、目に入ったのは純白な姿。  灰色になった髪には薄い布が付いている白い花の髪飾り。首には薄い白いネックフリル。腕には薄い白いロンググローブ。身につけたのは白い上着とスカート。靴は透明な水晶で出来たものらしいので、白タイツに包まえた足が見えてまた白だ。  唯一の例外は靴に付いた、エメラルドみたいな花だろう。 「どう? これ、何だか、その、ウェディングドレスみたいな、なんて……」  可愛くて綺麗だ。  でもそれより、もっと大事なのは、 「もう、動けるようになったのか?」 「そうだよ。って、アラト? どうしたの、いきなり……」  ああ。良かった。  マオウが立っている。また動けるようになった。  そう思ったら、視線が朧になっている。  ―――――――― 「あら。マオウ様を置いて、深夜に私と密会しに来て、本当に宜しいですか?」 「そっちの方が俺を呼んだんだろう」  俺はこの世界のことに関して、メランサに聞きたいことが沢山ある。  メランサの方も俺と話をしたいらしい。  その結果、今夜この地下室で会うってメランサが伝えた。 「何でわざわざこんな場所で?」 「あら。もしかして、お気に入りませんかしら?」 「それは……なるほど。これが理由か」  メランサは魔法で作った光で、俺は周囲を見渡す。  目に入っているのは本。そして本。  どこにも本だ。 「魔法に関する本はこのあたりで、こっちはこの世界の歴史の本です。それと……」  俺は手当たり次第に一冊を取った。  表紙には『ダイセイジョリリーデン』というタイトルで、リリーという大聖女のことを記録した伝記らしい。 「ちなみに、ここでは人間の図書館に見えない本も読めますわ」 「そうなの?」 「人間の国は自分に都合が悪い本を許しませんから。でもここは違います。たとえ魔王軍の悪口を言う本でも、わざわざここから捨てることをしません」 「それは偉いね」  でもまあ、ここの本は全部人間が書いたものだと聞いたから、魔王軍の悪口を言わないものが殆どないだろうね。  この『ダイセイジョリリーデン』を元の位置に戻して、またランダムで一冊を取った。  今度は『エデンテイコクシ』。ある国の歴史らしい。 「でもここの本に載っていることも、全てが事実じゃ限りませんわ」 「例えば?」 「この『マゾクヒャッカジテン』。吸血鬼は血を食料し、銀やニンニクが苦手だと記載されていますが、実際は全然違いますわ」  前もメランサから聞いたことがある。 「じゃその場合はどうする?」 「色んな手がありますが、一番推奨するのは私に聞くことです」 「もしかして、結構知識が豊富って?」 「それなりですわ。何せ、もう二百年以上に生きました」  全然そんな歳に見えないけど。  流石は吸血鬼なのか?  あっ、歳といえば、 「じゃ早速だが、勇者……ウンディは幾つなのか?」  六十年前から伝説だったと聞いた。 「もう七十過ぎたと思います」 「その間にずっと魔王軍と戦っていたのか?」  それは地獄みたいな日々だったな。 「ずっと、と言うより、六十年前に勇者ウンディーネが単刀直入で魔王軍に攻め込んできましたわね。私と会った時は、丁度あの子が先代魔王様を真二つに切った頃でした。ムカついたので、つい全力の一撃をしました」 「それと?」 「この六十年の間にずっと眠り続けたと聞きました」  そういえば確かに、メランサは自分がいるから大丈夫みたいなことを言ったな。 「やっぱりメランサって凄いね」 「お陰で教会から『金色の魔女』という称号を貰いましたわね」  なるほど。その金色の髪と凄まじい魔法とはピッタリな名だ。 「でも今回は流石に無理でしょうね。ウンディーネの前に言ったあれも、ただの虚勢に過ぎませんでした。だからアラト様がいてくれて本当に良かったです。魔王軍を救った英雄だと言っても過言じゃありません」 「いや、あれはただの偶然だった。こっちこそ、マオウのことはありがとう」 「いえ、それも私の責任ですから」 「でもあれって、メランサはかなりの決心を決めたよね?」 「何のことかしら?」 「マオウがあの服を着る姿を見る時の表情、しっかりと見たぞ」  何故か苦しい顔だった。 「それと、あの服はスタイルがメランサのものと随分似ているが、全く逆の色合いで印象が違うんだね」  確かに色んな違う所がある。  例えば、靴下はタイツじゃなくガーターストキャスティクス。手袋はちょっと短くて肘に達していない。髪飾りも、暗い色に変えただけじゃなく、花の種類も変わったみたい。  他のも色々があるが、やっぱりデザイン的には似ている気がする。 「もしかして、何か嫌な思いがあった?」 「うん……アラト様から見れば、あれは何ものだと思いますか?」 「マオウはウェディングドレス、だと言った」 「確かに似ていますね。もし、その髪飾り位置を少し後ろにして、布の部分の面積を大きくして」  透ける感じのベールになるんだ。 「スカートの長さを伸びて、上着と一緒にワンピースにしたら」  まさしくウェディングドレスだ。 「この世界の女の子が結婚する時の格好になりますわね」  俺の世界と同じみたい。 「でも実際、昔はそうじゃありませんでした。聖リリー教がまだ広がっていない頃、ですね」  実は俺の世界も同じだった。白いウェディングドレスはキリスト教という宗教の影響で、その前は違うらしい。 「もしかして、教会に恨みがある?」 「まあ、敵同士ですし。どう? こっちの方が魔王軍っぽいでしょう?」  展示してくれるように少し裾をたくし上げて、メランサは俺に聞いた。 「確かに」 「だからわざわざこんな衣装を作りましたわ。魔道具じゃなく普通の服ですけど、こっちの方が邪悪な感じをしますわね」 「でも違う方向で綺麗なものだと思うよ」 「邪悪なのに?」 「邪悪というより、可愛いと思うけど」  素材(メランサ)の方からも全然邪悪な気配を感じていない。  実際の歳はともかく、見た目はマオウみたいな可愛い女の子だ。 「ゴホン。というわけで、ここは自由に使ってください」 「助かった」  早速だが、俺は『マゾクヒャッカジテン』を読み始めた。 「じゃ次はアラト様の番ですわ」 「ん?」 「もう! 今日は私に『スイソ』というものを教えてくれって約束しましたわね!」 「あっ、ごめん。じゃ今から始める?」 「はい!」  多分マオウの魔法に感動され、メランサは俺の世界の知識に結構興味を持っている。  こうして色んなことが聞かされて、水素爆発から水爆まで解説した。 「今日はここまでにしよう」 「そうですね。残りは明日からですわね」  明日もか。  まあいいけど。マオウのことを助けてくれたお礼として安いものだ。 「それにしても、アラト様は教えることが上手ですわね。教師でもやっていましたか?」 「そうだね。家庭教師くらいはやったことがある」 「なるほど。じゃまた明日、せん、せい」 「いや。俺もメランサに色々と教わるし、先生と呼ぶな」  ある生徒のことを思い出させるから。 「お互いってことですね。じゃ帰る前に一つだけ、何でも私に聞いてください」 「何でも?」 「そう。どんなことでも」 「じゃ」  俺はずっと気になっていたことをメランサに聞いた。 「魔族って、一体どんなものだ?」  異世界だけど、小説じゃあるまいし、簡単に変なものを出すな。 「つまり、この私が一体どんなものだと聞いていますわね」 「いや、そういう意味じゃなくて……」 「分かっています。でも答えはあんまり面白くありませんわよ?」 「それでもいい」  まあ、どうせ最初からいる、みたいな話だろう。 「実は私、人間でした」 「えっ?」 「私だけじゃなく、他の魔族も。まあ、親が魔族で生まれてから魔族であるものもいますが、それ以外は全員元人間です」  俺は頭ちょっといいって自慢したが、今は脳が回らない。 「えっと、これ、この世界の常識なの?」 「人間ならごく一部の人間しか知りませんわね。例えば、国王様は多分知っていますが、他の王族は知らないでしょう。でもこの魔王軍でみんな知っていますわ」  メランサは淡々と事実を述べた。 「何せ、体が改造されて、こんな殆ど砂漠の地域に捨てられた当事者ですもの」

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