after-the-end

やすみの願い

 本来ならもう、この時間帯は面会なんて許されちゃいない。草木も寝静まった丑三つ時。  それでも、いつものように俺達は密会をする。  やすみの入院する病院の屋上。  正面の入り口から入らなくても忍び込める秘密のルートがあるんだ。鍵の掛かっていない裏の非常階段。  音を立てないよう、見つからないように進む。  鉄骨の階段だから、少し気を抜くと音を立てて忍び込んだのがばれてしまう。  何度か当直の看護師さんに見つかって、厳重注意を喰らっていたもんだから気を張って、ゆっくりと俺は鉄骨階段を登る________  無事、音を立てずに階段を登り切ると笑顔のやすみが待ち構えていた。 「五分、遅刻だよ?」  やすみの手には、携帯電話が握りしめられている。  きっと、いつものようにネットに投稿する小説でも書いていたのだろう。 「無茶言うなよ」 「冗談だよ」  やすみは舌をだしておどけて見せる。  そして、携帯電話を後ろ手に持ち変えて屋上の端へと歩き出す。それに俺も続く。  そこが、いつも俺達が密会しているスペースだった。 「涼君さ、人が死ぬってどういう事だと思う?」 「なんだよ急に……」  彼女の口から『死』という単語が出てきた事で俺の思考は時間を止めた。  なぜ、俺がフリーズしているのかと言えば、その言葉があまりに重すぎるからで、やすみには持病があり、そう先が長くないと彼女の口から聞かされていたからだ。 「はははは。涼君、変な顔」  やすみは腹を押さえてカラカラと笑う。  余命幾ばくもない、死の宣告を受けている少女がする態度とは到底思えない。 「……お前、あのな________っ」  言いかけてやめた。  笑っていると思っていたやすみの頬には一筋の雫が伝っていた。それを見つけてしまったから。 「あのね.検査の結果がでたの。私、また寿命が縮んじゃった________」  返す言葉がなかった。俺も、やすみもまだ16歳。  こんな時にどんな言葉を掛ければいいのか、人生経験にかけていた。  やすみは立ち上がり、泣き顔を隠す事無く月明かりに自ら晒す。  淡い光に照らされるその泣き顔はとても純真でこの世で一番綺麗な物のように思えた。  そして、少しでも触れれば今にも壊れてしまいそうな…… 「______だからね、涼君に最後に一つだけお願いがあるんだ」 「……なんだ?」  出来ることなら、なんでも叶えてあげようと思った。俺が彼女にしてあげられる事は限られている。  それでも、俺が施してあげられる範囲の事ならなんでも全て________ 「________あのね、涼君の手で……私を殺してくれないかな」

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