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天使の占い師

 帰宅途中、いつも通っている駅前の商店街で、見たことのない看板が掲げられている。時刻は22時。シャッターが下りきった道で、異様な存在感を放っている。 『天使の占い館』  察するに、占いを行う店のようだ。私は占いを信じない。朝のテレビで12位だって気にしたことは無い。  そんな私が興味を持った。本当に当てれるんだろうか。そういう興味。仕事帰りの疲れた体を携えて、私は店の扉を開けた。  店内は整然としており、奥の方に、蝋燭が置かれた机があるだけだった。その机を前に座っているのが、占い師だろう。大きな白いフードを目深に被っていて、口元しか見えない。  私が机の前まで進むと、占い師が口を開いた。   「ようこそ。そちらの椅子にお掛け下さい。」  綺麗な声だった。幼い少女のようで、淑女のような。透き通るその声に従い、机の前に置かれた椅子に座った。  すると、机の上の蝋燭に火が灯った。原理はよく分からないが、良い演出だ。 「本日は、何を占いますか?」  そうだった。私は占いに来たのだ。占いを信用していない私は適当に答えた。 「そうですね。恋愛運とかどうですか?」  占い師は、何も反応しなかった。何か悪いことでも言ったのか?私は。態度が悪かったか?  私が考えていると、占い師が気まずそうに話し始めた。 「えっと……違うのにしませんか?貴方は今、恋愛では悩んでいないはずです。彼氏はいなくても、幸せな日々を過ごしています。 例えば、対人関係とか、仕事のこととか。 そういった事で、占いをしませんか?」  こいつは私の何を知ってるんだ。会って数分だぞ。おこがましい。私はますます占い師を疑った。まぁ、とりあえず従ってみよう。 「分かりました。じゃあ、仕事のことを占って下さい。」 「かしこまりました。それでは始めます。」  占い師は言うと、被っていたフードを脱ぎ、天井を見上げた。その顔は、美しいかった。まるで天使の肖像画のようだ。彼女の周りには、ぼんやりと光が見える。  彼女は数分の間、何も言わずに天井を見上げた後、小さく息を吐いて私の方を見た。 「お待たせしました。結果を聞く準備はよろしいですか?」  準備も何も、眉唾な話を聞かされるだけだ。私は大きく首を縦に振った。 「ありがとうございます。それでは、申し上げます。今の貴方の職業は、貴方には合っていません。すぐにでも、転職された方がいいです。」  占い好きな女子は、こういうのを信じるのだろう。大事な人生を、こんな言葉で棒に振るなんて、全く悲しい人たちだ。  占い師は、話を続ける。 「次の職は、今とは全く違うものを選ぶのが良いでしょう。例えば……天使とか?」 「……は?」  思わず声が出た。天使?人間が転職先に選べるものなのか?比喩か何かか?  開いた口が塞がらないうちに、占い師はまた話し始めた。 「驚くのは無理もありません。職業として捉えたこともないでしょうし。どんな仕事かも分かりませんもんね。」 「問題はそこじゃないですよ!天使ぃ!? 私、人間ですよ!どうやってなるんですか!ふざけるのも大概にしてください!」  仕事で疲れている上に、こんな冗談を聞かされたら、誰だって腹を立てるだろう。  占い師は、慌てて私に言う。 「お、落ち着いて下さい。ふざけているわけじゃないんです!私は、天界からあなたを見ていたのです。」 「……天界?あなた、一体何者ですか?」 「私は天使です。あなたをスカウトしに地上に来ました。」  理解が追いつかない。私の目の前に座る彼女が実は天使で、その天使が私をスカウトに来た?悪い夢でも見ているようだ。 「どうですか?私と天界に行きませんか?」 「いやいやいや……それって、死ねって言ってるのと同じじゃないですか。そもそも、何で私なんですか。訳わからないです。」 「確かに貴方は、周りから見たら、口は悪いし、慈愛の心をもっていない人間でしょう。 ただ、思ったことを素直に言える。自分に正直に生きる貴方は、私の目には、天使になり得る人材に映りました。」  こいつ、サラッと悪口言いやがった。何が天使だ。私は悪徳占い師に投げかけた。 「もういいです。ありがとうございました。私はこれからも今の会社で働きます。詐欺を働くなら、もっと人が良さそうな占い好きをターゲットにした方がいいですよ。」  黙って聞いていた占い師は、寂しそうな顔で、こちらを見つめた。 「そうですか。残念ですが、諦めます。これからもお元気で。私はいつでも貴方を見守っていますからね。」  占い師か詐欺師か、天使か宗教勧誘か分からない存在に、礼儀として会釈をして、私は店の外に出た。  全く、無駄な時間を過ごしてしまった。私は時間を確認するために携帯を取り出した。  ……ん?どういうことだ?22時02分と表示されている。店に入ったのは、22時ちょうど。あれから2分しか経っていない?そんな馬鹿な。  私が振り返ると、先ほどまであった看板が消え、シャッターが閉まった本屋が、そこにはあった。  怖くなった私は、急ぎ足で家へ向かった。家に着くと、すぐにお風呂に入り、勢いそのままベッドへダイブした。  あれは天使だったのか?だとすれば、あの占いは本当なのか?考えているうちに、私は夢の中へ誘われた。  天使からの啓示を受けた私は、会社を辞め、昔からの夢だった音楽活動を始めた。すると、出す曲は全てヒットし、一躍時の人となった。  音楽番組に出演した私は、司会の有名人に聞かれた。 「何か、好きなものとかあるの?」  考えるまでも無い。私は即答する。 「占いですね。めっちゃ信じます。」 「案外、普通の女の子なんだね〜。」  現場に笑い声が響く。 何を言うか。私は普通の女の子ではない。 天使に愛された女の子だ。天使候補だったんだぞ。 「それでは、演奏準備お願いしま〜す。」  私はギターを肩にかけ、マイクの前に立った。 あなたのおかげで、私は夢を叶えた。  天界の彼女にも届くように、今日も私はシャウトする。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。 非日常との遭遇。私たちの生活の中にも様々な遭遇がありますよね。天使とかは無いですが…… そんな非日常を大事に出来れば、少しだけ幸せになれると思います。

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