三国列女伝 劉備の娘

第6話 紅い瞳の少女!(6)

「母は長沙(チョウサ)王の末裔だって言っていた。そんなホラ信じないけどね」 「う、ホラねぇ。景帝の系譜はいっぱいだからなぁ……なんだかなぁ……」 皇帝の系譜 ……景帝 (前漢代皇帝)―長沙定王・劉発―劉買―劉外―劉回―劉欽―光武帝・劉秀 (後漢の初代皇帝)―……―献帝・劉協 (後漢14代皇帝/現皇帝)  簡単に2人の話を説明すると、ホラだなんだというのは、子孫が多すぎるからということがある。  さらに中央におらず、諸侯になってしまうと、酒浸りなどの原因で余計子孫繁栄してしまうのだ。  虚偽ではないが、劉姓つまり、皇帝の一族であると語ることは困難である。  子供の封にバッサリと出自の真偽はどうでもいいと言われると、劉備は困った。  それもそのはず―― 「劉備さまも、あの中山靖王(チュウザンセイオウ)劉勝(リュウショウ)さまのご子孫なんですよねぇ」 「お、おい、麋竺(ビジク)! やめやめ!」  景帝の7男が劉発、9男が劉勝である。  この竺が言う話も総合すると、備と封は先祖を辿ると遠戚のようなものだ。  封もそれに気づいて、胡散臭い目を備に向けた。さっき、竺は皇帝の血筋の劉備と言っていたような……。  備は最高潮に焦った。  うわー痛い、子供の疑いの目は刺さる刺さる。  冷めた目で、備をみる封の一方で、竺は目が輝いてきた。 「運命です! 劉備さまと、封の出会いは運命が結んでくれたんですよー!」 「私も仲間に入れてください、みたいな目やめてくれー。漢室がピンチなのは変わらないから、竺も大人になったら、国に仕えて働けばいい。オレもそうするし、封だって……」  劉備の声に、封は怒りを爆発させた。高貴な血が流れていようが、今の封は飢民の1人である。  父母が(くに)を美辞麗句並べて賞賛しても、その漢が2人を殺し、封の実弟も人身売買で連れ去られた。  漢を恨まずにいられないのだ。 「どうして、あたしが劉一族を恨まないでいられるって言えるんだい!」 「「うえッ?」」  劉備と麋竺は、封の怒声に、ひどく驚いた。漢が好きなのは2人とも共通であったのだ。  蒼と紅の瞳は交わるから仲良くしなければいけない。それは封も頷けた。  ただし、漢室の血? 劉一族である? そんな五行よりも胡散臭いものを信じろというのか。  家族を滅茶苦茶にした劉氏の国家を信じろと言うのか。 「あたしは劉氏なんて大嫌い! 漢室なんてぇ――」 「それ以上は言ってはならない! 亡くなった家族は戻って来ないんだ! つい10年前も内乱だった。戦地で散った者は、どう嘆き叫んでも、誰一人帰って来なかった。でも、オレは漢室の系統であるとこれからも心の支えにする! 彼らが散った漢という国を終わりにしたくないんだ!」  10年前、黄巾の乱。劉備は義勇兵として、漢を守るために、黄巾兵と戦った。漢の兵士として、多くの仲間が散った。  そして黄巾兵も違う所属ではあるが、漢に生まれた人たちであった。彼らを多く斬って殺した。  人を戦争は英雄にするという。  戦後、あの董卓やその他の諸侯たちは報奨に(あずか)った。だが、劉備はさほど褒美を嬉しいとは思わなかった。ただ漢が生き残って、ホッとしたのだ。  備は始めて、怒りと悲しみを子供たちの前で見せた。  涙ながらに真っ直ぐ訴える。橙色の瞳が震えている。 「(くに)をオレの前で悪く言わないでくれ。オレの心の支え、存在が否定されてしまうんだ」 「ごめんなさい……あたしが悪かったよ……」  劉備は、郷里に母がいる。ただ、劉備にとっては一緒に戦った者も家族同然であった。  だから、戦災で家族を亡くしたと劉備に言ったきり、怒った顔で口を閉ざしていた封のことが気がかりであったのかもしれない。  封は複雑だった。  それほど愛国心に燃えているわけでもないし、劉氏の血の話は嫌いだし、それはこの先あまり変わらないようにも思える。  だが、封は劉備が嫌いになれなかった。  こんなにお人好しで、話の聞き上手、それに歳や出自も関係なく、隠さずに真っ直ぐ話す大人の男を嫌いになれないのだ。

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