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今日も三題噺!

読了目安時間:6分

8日目 神様、DS、バカな罠『しんせつな人』

 昔々、あるところに正直者のおじいさんが居ました。おじいさんは大変人柄が良く、そのためかいつも損ばかりしていました。 「あんた、今日はきちんとまっすぐ帰らなくちゃダメだよ」  おばあさんが嗜めます。そうなのです。おじいさんは言い含めておかないと、すぐに誰彼構わずおせっかいを焼き、いつも帰りが遅くなってしまうのです。いつか手痛い火傷を負うのではないか。おばあさんは気が気ではありませんでした。 「もし。そこのご老人」  ある日おじいさんが仕事を終えて帰路についていると突然声をかけられました。はて、人の気配はなかったはずなのに。おじいさんは不思議に思いながら振り返ると、ぽつねんと人が立っていました。 「どうかされましたかな」  あちこちほつれた編笠を深々と被っているため人相は不明でしたが、とにかく困っていることは声音でわかりました。そうとわかればおじいさんが放っておくはずがありません。  編笠が少し傾けられると、申し訳なさそうな声が響きます。 「金子を、金子を貸していただけませんか」 「もちろんですとも」  おじいさんは人を疑うことを知りません。困っている人相手なら、なおさらです。気持ちいいくらい間髪ない返答に、相手が戸惑ってしまうくらいでした。 「ありがとう。このご恩は決して忘れません」  編笠は、何度もお礼を言っておじいさんの元を去っていきました。  またおばあさんに叱られてしまうな。無一文になったおじいさんは、しかしながら足取り軽く帰路に着くのでした。 「全く、あんたのお人好しは死んでも治らないね」  憎まれ口を叩くわりに、口もとを綻ばせるおばあさんに、「面目ない」とおじいさんも朗らかに笑うのでした。  またある日のことです。  仕事を終え、用事のために市場をぶらついていると、またしても声をかけられます。 「もし、そこのご老人」  民家の中から響く声は、あの日お金を貸した編笠のものに違いありません。また困りごとだろうか、とすぐさま中へ駆け寄ります。はて、こんなところに建物などあったかな。疑問は後回しです。  中に入ると、人当たりの良さそうな好々爺が、おじいさんを歓迎するように手を広げています。 「この間は本当に助かりました。お金の代わりと言ってはなんですが、こちらを好きなだけお持ちください」  おじいさんは、腰を抜かすような思いです。ついぞ前まで襲っていた大飢饉が嘘かのような、立派な米俵が所狭しと並んでいるのです。 「これは、一体……たまげたなあ」 「安売りの店を開こうと思ったのですが、思いのほか持て余してしまったのです。さあ、さあ遠慮なさらず」  お言葉に甘えて一俵だけ持ち上げると、荷車もお貸ししますので、と次から次へと積まれてしまいます。 「いやいや、こんなにいただいても私の枯腕では、とてもとても」 「では、若い衆をお貸ししましょう。おい」  音もなく現れたのは、見上げてしまうくらいの大男でした。荷車を片手で動かして始めると、今度は、おじいさんまでも担ごうとするものだから慌てて止めました。 「では、ぜひ持って帰ってください」  そこまで言われては仕方ない。おじいさんは厚意を受けることにしました。 「これは、一体……たまげたわねえ」  家に帰ると、おばあさんが呆然と米俵の山を見つめます。 「私たちだけでは食べ切れないなあ」  おじいさんも並んで、米俵を見上げます。運んでくれた男は、現れた時と同じように音もなく消えてしまったので、家に運ぶのは自分たちでやらなければなりません。大変だなあと2人で笑い合いました。 「おや、景気がいいな」  老夫婦が力を合わせて運んでいると、お隣のお爺さんが因縁をつけるように声をかけてきました。 「どこから盗んだのかね」  触れることができるなら、さぞかし粘着質だろう言葉は、老夫婦にとっては馬耳東風も同然です。 「いやあ、それがですな」  案の定、おじいさんは包み隠さず話してしまうのでした。  いいことを聞いたぞ。お爺さんは、ほくほく顔で市場を歩いて行きます。  親切をしたお礼だということがすっかり抜け落ちたおじいさんは「たくさんあったから分けてもらえるかもしれませんよ」と勝手に件の民家の場所を教えてしまったのです。  確かこの辺りと言っていたな。お爺さんは、一軒一軒舐め回すように中を覗いていきました。 「もし、そこのご老人」  5、6軒を回った頃でしょうか。早くも騙された、と顔を赤くしていたお爺さんに声がかかります。がめついお爺さんは、その一言だけで件の米長者だと決めつけました。 「たくさんあるのだろう。一俵くらい分けてくれても罰は当たるまい」  お爺さんは相手の話も聞かず、あがりがまちに、まくし立てます。好々爺に出迎えられたと聞いていましたが、目のお前にいるのは汚い編笠を被った男が一人いるだけです。ですが、おじいさんの話を適当に聞いていたため、あまり気にしませんでした。それよりも、家内には米俵どころか農耕器具の一つすら見当たらないことの方が問題でした。  ────あのじじい、俺を罠にかけやがった。人のいい顔してとんでもない嘘つきだ。  怒りとともに踵を返そうとすると、編み笠が呼び止めます。 「あなたは特別なお人ですね。こちらへどうぞ」  普段人に褒められないお爺さんは『特別』という言葉にすっかり舞い上がってしまいました。やはり日ごろの行いがよいからだ! とまで考えたかはわかりません。  編笠に従って歩いていくと、大変みすぼらしい小屋に案内されました。お爺さんは訝しみながらも共に入っていきます。  ほとんど物がない点では、先ほどの民家と変わらないのですが、一つだけ大きく違うものが置かれていました。てっぺんに逆三角形上の筒が添えられ、それから水車を思わせる円形の物体が続き、数本の木々がそれを支えています。どうやら農耕器具の一種だと推測できました。それを指さし、編笠は尋ねます。 「これを何に使うかご存じですか」  編笠はいいます。その声音が恐ろしいほど冷たく、お爺さんはつららを喉元に突き付けられたような思いでした。黙って被りを振ると編笠は続けます。 「唐箕といいましてね。米と不純物を仕分けするのに使うのです」 「なるほど。して、米はどこにあるのかね」 「ええ。ここに」  編笠はお爺さんを指さして、ゆっくり口角を吊り上げました。前にみた絵巻物の閻魔だってこんなに恐ろしい顔をしていませんでした。お爺さんは、恐怖で腰が抜けてしまいました。それをさも愉快に眺めながら編笠は続けます。 「あのお人よしのじいさんも役に立ちますね。あなたのような、この世の不純物を連れてきてくれるのですから」  何をするつもりだ。もはや声を出すことも叶いません。 「ご存じですか。人間から不純物を取り除くと、それはそれは素晴らしいお米が精製できるんです。特にあなたのような下賤な輩からとれるお米は格別でしてね」  おお神よ。世界はまた一歩理想に近づいた。天を仰ぎ見て叫ぶ編笠を、ただ黙って見上げることしかできませんでした。 「大丈夫です。痛いのは初めのうちだけですから」  ふふふ。ふふふふふふ。

補足 DS→ディスカウントストア。安売り店。

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