百合の鑑定士~大正浪漫×刀剣

とりあえず、小夜左文字編は一度閉幕。 今度は左文字一派の話をめいいっぱいする時にまた出てくるかもですが。

終:モミジともみじと黄葉

「よう、モミジ。相変わらず、重そうな身体してんな」 「あら、もみじ。相変わらず、品のない身体してますわね」  そんな煽り文句を互いに買わした後――二人は一度視線を合わせると、全く同じ動きで、同時に後ろへと下がった。その時、モミジの頭の紅葉の髪飾りが、対する彼女――もみじの頭の上の紅葉の装飾の簪が揺れた。  ――まるで鏡でも見ているみたい。動きが似ているというより、全く同じ。 「おらあ」「うらあ」  モミジは打刀を真上から振り落とし、もみじがそれを短刀でいなす。それに続く形で、モミジが斬りかかり、もみじが流していなす。そんな鏡芸のような動きが何度も繰り返される。 「このっ!」  ラチがあかないと思ったのか、モミジは一度大きく打刀で短刀を振り払うと、後ろに下がって距離を取った。 「今回はよくもやってくれましたわね」 「おいおい、ちょっとからかっただけだろ。ガキじゃねえんだ。そうムキになんなよ」 「人に濡れ衣被せておいて、何を言いますの!」 「おいおい。そもそも、オレは親切な方だぜ? わざわざ宣戦布告してやってんだから」  宣戦布告?  何かを仕掛けるつもり、という事だろうか。 「お前、黄色の娘っ子にも会ったんだろ? なら分かるだろ。まあ、あの娘っ子は気まぐれだから、偶然遭遇したってだけかも知れねえが……黄色に赤とくりゃ、偶然じゃねえよな」 「何を、始めようとしてますの?」 「そこまでよ」  話の展開が全く掴めないが、長い事放置されたため、悪いけど割り込ませてもらった。  私は臨戦態勢を取る二人の間に割り込むように立つ。 「さっきから何を話しているのか分からないけど……今回、うちの妹分に冤罪ふっかけたのが、あんたって事でいいかしら?」 「……はっ」  もみじは答えず、挑戦的に鼻で笑った。  ――こいつ、私の事、完全に舐めてやがる。  特に胸に意味深な視線を送るのは、わざとじゃないだろう。 「モミジ姉が、冤罪。なら、真犯人捕まえる」  独特な口調で初音も敵を見る目で窓の縁に立つもみじを見た。  三対一。どう見ても、こちらが有利だ。特に、こちらにはモミジと初音という少女の枠からはみ出た戦闘能力高い系女子もいる。  それに、ここは警察内部。逃げられるわけがない。誠一だって、すぐに駆けつけてくれる筈。  ――なのに、何だろう。あの人のあの余裕は。  と、その時、入り口付近から複数の足音が響いた。すぐに初音が反応して扉へ向かった。 「どうやら、騒ぎを聞きつけて、警察(まっぽ)達も駆けつけたようね」 「はっ、とことんおめでたい姉ちゃんだな」  見下すというより、呆れたように彼女は言った。 「そもそも、何で警察(まっぽ)が、駆けつけてきた奴らが味方だなんて思えるんだ?」 「……っ」  咄嗟に振り返ると、警察(まっぽ)の制服を着た男達がなだれ込むように数名入ってきた。そして、部屋の状態を見て状況を把握したのか、腰の刀へ手を伸ばし―― 「お初ちゃん!」  モミジが叫ぶのと、男が身近にいた初音に刀を振り落とすのは同時だった。いつもなら応戦出来ただろうが、今、初音の刀はモミジが持っている。さらに言うと、完全に警察(まっぽ)だと思っていた初音はかなりの至近距離まで接近していた。  これは――避けられない。 「……おい」  刹那――藍色の隊服が、初音の前に立っていた。  刀を振り上げた男の喉元に、駆けつけた誠一の鋒が突きつけられる。 「俺の妹に、何をしている?」 「くっ……」  男が後ろに下がろうとすると、誠一が少しだけ喉元を鋒で撫でた。 「動くな。次、逆らったら、首をはね飛ばす」 「いち兄……」  自分を背に庇う兄に初音が声をかけると、彼は振り返らずに言った。 「下がっていろ。兄ちゃんが護ってやる」 「うん」  そんな兄妹のやり取りを嘲笑うように、後方でもみじが声を上げて笑った。 「へぇ、警部補が出てくるのは意外だったな。オレの予想だと、色気のねえ姉ちゃんと斎藤一の方の嬢ちゃんを惨殺して、今度こそ殺人鬼として処刑される、っていう流れだったのに」 「本気でおっしゃてます?」  微かな殺気を放ちながらモミジが問うと、もみじはやれやれと手をひらひらと振った。 「まさか。ただの挑発だよ」  もみじがそう言い、モミジが何か言おうとした時――大勢の足音が響いた。 「侵入者だ、捕らえろ」  誠一がそう言うと、駆けつけてきた誠一の部下らしき男達が、初音に危害を加えようとした男達を捕縛しにかかった。  争う声が響き、モミジと共にもみじを捕らえるか、初音を保護するか迷っていると――真後ろに気配が立った。 「お姉様!」  背中に触れる柔らかい感触と、私の影を飲み込む人影を見て、すぐに誰か分かった。 「もみじさん、でしたっけ?」 「ああ、平仮名の方のな」 「あんた、目的は?」  私が振り返らずに問うと、彼女はケラケラと笑った。 「さーて、あるにはあるが、お前には多分理解出来ねえと思うぜ。先代の影に縋り付くだけの、お前にはな……これじゃあ、紅月(こうづき)牡丹(ぼたん)も気の毒だな」 「何で、あんたが先代の名前を……っう、ん!?」  思わず振り返ると、唇を塞がれた。 「……っ」  顎を掴まれて、体内の酸素を根こそぎ吸われる。突然の大人の行為(シーン)に、全員が動きを止めて、私ともみじを凝視した。初音だけは誠一の手で視界を防御されていたが。 「……っはあっ……」  呼吸が上手く出来ない。突然解放され、私は膝を折って失った酸素を吸い込む。 「お姉様!」  すぐにモミジが私に駆け寄る。 「やっぱり色気のねえ反応だな」 「……っ」  私が唇を袖で乱暴に拭きながら睨み付けるように見上げると、彼女は心底楽しそうに笑った。 「まあ、いい。これで、挨拶は出来たからな。じゃあな」  また一瞬でもみじは窓の縁まで移動すると、これ見よがしに胸の谷間に短刀を突っ込み、飛び降りた。 「あ!」  追いかけて窓の外を確認するが、彼女らしき姿はない。 「何なの、もう……」  モミジやらもみじやらわけが分からないし、短刀は奪われるし。それに――  ――モミジが冗談半分で迫ってくる時はあったけど、まさか本当に、あんな大人の方の……。  しかも、こんな大勢が見ている前で。  途端に恥ずかしくなり、その場にへたり込むと、背中に柔らかい感触がした。先程とは違い、危ない感じはなく、むしろ優しい温もりに包まれているようで―― 「お姉様」  背中から抱きつきながら、モミジが言った。 「ごめんなさい、お姉様。モミジが傍にいながら……」 「……」  いつもなら引っぺがす所だが、今日は気分がいいのと最悪な事が混じり合っているせいで正常な判断が出来ない。  だから、こんな事するのは、今日だけだ。 「お姉様?」  私は身体を反転させてモミジの身体を正面から抱き締める。そして、背中を撫でながモミジの額に唇を近付け――そっと触れた。 「お、お姉様!?」  いつもは大胆に迫ってくるくせに、自分が責められると弱いらしく――モミジは年頃の娘らしく頬を紅く染めておでこを両手で抑えた。 「く、口直し」 「お姉様……それでしたら、是非モミジの唇をお使いくださしまし。思う存分、気がすむまで! さあさあさあさ!」  そうだった。こいつ、こういう奴だった。  とりあえず、もみじとの戦闘で多少荒れた部屋を後にし、私達は誠一の部屋へと来ていた。  何があったか状況を説明するためだが、正直私自身よく分かっていない所が多い。  もみじの正体や目的。あの女は一体――。 「で、まんまと、あの痴女に預けた短刀を奪われた、と?」 「返す言葉もございません」 「それで、うちの末っ子を危険な目に遭わせた挙げ句、自分達の行為を見せつけた、と?」 「うぐっ」  かなり盛られているが、言い返す言葉が見つからないため、つい黙ってしまう。 「いち兄、誤解」  その時、初音が助け船を出してくれた。流石、可愛い方の妹分! 「百合姉とモミジ姉、いつもあんな感じ。よく身体、触ったり、密着したり、している。日常」  初音さんんんんんん!  そうかも知れないが、そうじゃない!  何とか訂正しようとするが、時既に遅し。  誠一は静かな怒りを瞳に宿し、静かに言った。 「お前達、警察署、出禁」  少しだけ初音に似た独特な口調で誠一は言った。 「ちょっと待って! い、今はそんな話をしている場合じゃないでしょ! 一体、何がどうなっているの? 私だって、知らない事だからで、混乱しているんだから」 「……」  誠一は腕を組んだまま、少しの間の後、喋り出した。 「まず、お前の助手の娘だが……そいつは釈放になった」 「えっと、つまり、小夜左文字の一件で、冤罪だって認められたって事?」 「いいや」  と、誠一は首を左右に振った。 「正しくは、被害届が無効になった」  つまり、あの坊やが被害届けを取り下げたって事だろうか。 「また、少し厄介な相手から、そこの娘を解放するよう申請があり、事件は有耶無耶になり、全てなかった事になった。つまり、迷宮入りって事だ」 「え? それって、根本の解決にならないんじゃ……」  それで機嫌が少し悪いのかな。 「あの、厄介な相手って、どなたですの? 一応、モミジが解放されたきっかけをくれた御方なら、モミジは知る権利があると思いますわ」 「……黄崎家だ」  苦虫を噛んだような顔で、誠一は言った。 「黄崎って事は……」  黄崎樒絡みか。  <原色>の一族の一つ、「黄」の一族。夜会ではこちらも痛い目に遭ったため、あまり関わり合いたくはないが。  そもそも、あの令嬢はモミジや初音を人以下呼ばわりし、身分差別が激しかった。  ――なのに、どうして助けてくれたりしたんだろう。 「それから、今回の事は他言無用で頼む。世間一般的には、今回の事件そのものが起きていない事になっている」 「ええ、承知したわ」  まあ、華族の坊やを殺人未遂した挙げ句凶器候補にして『浪漫財』の短刀を警察署から盗まれたとなっては、警察的にも面目が立たないものね。本当にごめんなさい。  ――小夜左文字、絶対に取り返してあげるからね。 「ですが、まだまだ謎がいっぱいですわね」  お前がそれを言うか。  腕を組んだせいで胸を持ち上げる格好になったモミジが、溜め息を吐きながら言った。あの胸やっぱり抉りたい。 「そもそも、何故警察内部に犯人の一味らしき人達がいたんですの?」  もみじの味方らしき男達の事か。初音に手を出したせいで誠一の怒りを買い、全員捕縛され――誠一からきつーい尋問を受けたと聞くが。 「アイツらは、元々、警察(まっぽ)だ」 「え? 侵入したんじゃなくて、本当に内部の人間だったの!?」 「ああ」  それで分かりにくいが機嫌が悪いのか。 「『もみじ』と名乗る女に、家族、或いは恋人を人質にとられて、やむを得ず、だそうだ」 「……!」  酷い事を。 「でも、確かにあの女ならやりそうね」  誠一いわく、彼らが協力した事は、一連の事件の進展具合や証拠が保管されている部屋までの案内や侵入の手伝い。現場でモミジが現行犯逮捕された時も、すぐに牢に入れられるように、冤罪らしく証拠の隠滅も行ったらしい。 「そういえば、あの坊やはどうなりましたの?」 「あ、そうだ。アイツ! よくも、うちの妹分に冤罪ふっかけてくれて……見つけたら、華族相手だろうとタダじゃすまさん」 「お姉様、”うちの嫁に手を出すなんて容赦しない”だなんて……モミジ、照れてしまいますわ」 「お前、本当にどういう耳してんの?」  私とモミジがいつも通り、そんなやり取りをしていると――誠一が静かに言った。 「その必要はないだろう」 「え?」 「何故なら、今回の被害者である沼倉良太は、死んだからな」        *  時同時刻。黄崎邸。  豪華な洋室の部屋で、(しきみ)寝台具(ベッド)に腰をかけながら、扇子で自分を扇いでいた。 「あら、おかえり」  扉を開くと同時に、樒は気配なく部屋の扉から顔を出した少女――黄葉(もみじ)に声をかける。 「あの、お嬢様」 「お礼ならいいわよ。たまには従者のおねだりくらい聞いてあげないとね」  まあ気まぐれだけど、と樒は付け足した。 「それでも、ありがとうございます」 「でも、お前も物好きね。蹴落とす相手である女を助けるために動くだなんて。あのまま平仮名と片仮名が、共倒れしてくれた方が、お前には都合が良かったんじゃなくて?」 「……それでは、意味がありませんから」 「真面目ね。でも、お前のそういう所、好きよ」 「……」 「あら? どうしたの? いつもなら、小言の一つでも出てくるのに」 「いえ、お嬢様は気まぐれかも知れませんが、今回に限り、本当に感謝しています。お蔭で……」  と、そこまで黄葉が言いかけると、彼女の背後に別の気配が立った。 「いいや、礼を言わなくてはならないのは、僕の方です。お嬢様と、黄葉様のお蔭で、僕は生き延びる事が出来たのだから」  そう言いながら、彼は部屋の入り口付近で跪いた。何故部屋に入らないのか、と疑問に思ったが、きっと樒がそれを許可していないからだろう。  ――ここまで変わるとは……本当に、人って面白い。 「あら、礼はお前を助けるように懇願した、そこのお嬢ちゃんに言ってちょうだい」  と、樒は適当にあしらう。あそこまで真っ直ぐな気持ちをぶつけられるのは少し苦手だ。だからこそ、自分は数ある『(もみじ)』から、彼女を選んだ。 「礼は不要です。むしろ、貴方こそ、本当に良かったんですか? 我々が貴方にした事は、貴方が歩んできた人生そのものを奪った行為でもあるんですよ」 「最初は戸惑いました。だけど、逆に良かったと思います。顔を捨て、名前を捨て、身分を捨て、全てを失ったからこそ、見える物もあります。ひとまず、自分には、この世界が違って見えます。きっと華族の坊やのままじゃ見る事が出来なかったでしょう」 「だいぶ変わりましたね。別人のようです」 「ようでなくて、別人ですよ、黄葉様。沼倉良太は、あの晩、通り魔に殺されて死んだ。そして……僕になったんです」

そんな具合で、いったん幕を閉じ、次回、新章にうつります。最近長ったらしいのばっかだったので、初心に戻り、オムニバス形式の短くて軽いやつに。 そんな具合なノベプラ納めでした。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


読者のおすすめ作品

もっと見る

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 書籍化を目指しています!

    ♡1,000

    〇0

    歴史/時代・連載中・17話・62,947字 桜姫

    2020年9月23日更新

    難病を患い入院していたあたし・織田原萌華は、ある日様々な時代の歴史上人物が居る異世界・冥王界に転移する。其処であたしを助けてくれたのは、ナゾの美少女(?)だった。 その中であたしは、不治の病を患う美青年にも出逢う。クールで毒舌な彼に最初は戸惑うあたしだったけれど、やがて彼の素顔と悲しい過去を知り……!? ❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀ 本作は、『涙色の夢路(ゆめ)』シリーズの本編の上巻になります。 ⇩他の『涙色の夢路(ゆめ)』シリーズは、下記URLから! https://estar.jp/series/11758398 〈注意〉 血に関する描写、暴力描写、死、過呼吸、病気に関する表現があります。 自殺未遂に関する表現がありますが、決して自殺を推奨するものではありません。 過激表現はしていませんが、BLに関する描写があります。 カクヨム、エブリスタ、アルファポリス、野いちごにも同じ小説を掲載しています。 タイトルの「夢路」は「ゆめ」と読みます。サブタイトルの「永久」は「とこしえ」と読みます。 意見・質問等があれば、ペコメまたはレビューからお知らせ下さい。 方言はしっかり調べてから書いていますが、万が一間違い等があれば知らせて下さると嬉しいです。

  • 家庭教師、タイムスリップ&ミステリもの!

    ♡2,500

    〇0

    歴史/時代・連載中・15話・26,251字 木春まむ

    2020年9月23日更新

    売れっ子家庭教師のわたし。 タイムスリップした先は、たぶん平安時代。このおてんば姫君の、花嫁修業指導?! しかもなぜだか、帝の暗殺未遂事件に巻き込まれて……?! 家庭教師、天下無敵、八面六臂の大活躍!(ウソです、ちょびっとだけです) ※「小説家になろう」で完結済みの作品を加筆改稿いたしました。