境界線上の魔王

読了目安時間:4分

エピソード:64 / 142

6-8 策を越えた無策

 祝賀会は、じつに平和的に閉幕を迎えた。  この『平和的』という言葉の意味を、ポーラは当初『ラフィア国民に対する嫌悪』をさしているものとばかり思っていた。しかし、経緯を見届けてきたレオンや、報告を受けたジーンがもっとも懸念していたことは、祝賀会への龍の襲撃であった。  ……龍。空想上の存在とされていたその生命体が、人里に潜入している。そのことを知ったレオンは当初、しかし特に対策を打つわけでもなかった。 『情報不足により考慮外』  すべきことが山積していたこともあっただろうが、現実的には龍の件はこの一言で片付けられてしまった。  正式に対策をするとなれば、国家単位での情報共有が必要な相手である。しかし『境界線』が誕生して以来二十年、大規模な事件や事故は鳴りを潜めていた。つい一年ほど前に、フェルミーナ郊外の村が全焼した、という前例はあるにはあったが、それ以前も以後も、そもそも宮廷魔道師が派遣されるような事故そのものが起こっていなかった。  しかしどういうわけか、直後に立て続けに龍があらわれた。それも白昼堂々、姿を隠すわけでもなく、さらにはその目的も不明瞭なまま、戦後処理の合間に音もなく姿を消した。  この情報を正式なものとするには、あまりにも証左が不足していた。そして正式なものになりえたとしても、一般兵では足止めにすらならないであろう人智を超えた力を目の前に、レオンたちはただ警戒することしかできなかった。  それでも、一同に酒を呷るていどの心の余裕があったのは、ポーラの兄ヘイゼルが健在であったことが何よりも大きかった。  まず、今回の祝賀会に際して、レオンは要人が一堂に会する大規模なものであるとして、結界魔法の使用を宮廷魔道師団に公布した。団員はもちろんのこと、改めて見聞したレオン自身すら驚くほどに、ヘイゼルの結界魔法は完成度の高いものであった。  魔法の使い手ですら意識しなければ気取られないほどに薄く、広大な王宮の敷地を覆い尽くしてなお余力のある効果範囲。それは魔法大国フェルミーナですら前例のないほどの見事なものであった。 「周辺警護の概念を覆す力になる」  作戦の道中、セイジがぼんやりと考えていたヘイゼルの力の有用性は、斯くして早々に立証されることとなった。  むろん、結界魔法そのものの抵抗力はさほどでもない。  破られることもあれば、使い手ならば魔力の波長を合わせてすり抜けることも可能である。が、それら全ては術士であるヘイゼルの知ることとなる。 ――知ってしまえば、どうとでもなる。  それが、レオンが国王ジーンとの協議の末、導き出した結論であった。  一同には、男児の龍やアリアの力も借りたとはいえ、上位の個体である緋色級の討伐に成功した、という自負がある。  しかし、その戦闘の直後、緋色級の龍がさらに二体同時に襲来している。と聞かされた一同に成すすべはなかった。魔力も体力も精神力も、文字通りすべて使い果たし、這々の体で地面に座り込んで祈ることしかできなかった。 「たとえ体調が万全だとしても、おれたちは足手まといにしかならねえよ」  マリーの後を追おうとしたクリスを、そう言って制止したのはレオンであった。  発言だけを切り取れば、騎士としてあるまじき非情な言い訳にすぎない、と批判を受けるだろう。しかしそれが口惜しいながらも事実であり、セイジならあるいは、とその場の誰もが胸中に秘めたことも事実であった。  そして、満身創痍の一同の前に間もなく帰還したセイジは、あろうことか傷ひとつすら負っていなかった。閉口するばかりの一同の前で、セイジは経緯を説明し、リュートを守れなかったことについて、ポーラとヘイゼルに何度も頭をさげた。挙げ句、レフィリア宅での戦闘のことを知ると、警戒を怠った、とまたしても頭を抱えた。 「レオ兄、これ、危ないと思ったら蓋を開けて空に投げてほしい。すぐ駆けつけるから」  まるで作戦に従事できなかったかのような慌ただしさで、セイジは持っていた袋をひっくり返した。ラフィアの作戦中に使用した警戒用の魔法具をレオンたちに押し付けると、『人手、足りてないだろうから、国境の警戒だけ行ってくる!』と言い放ち、呼び止める間もなく北の空に消えていった。 「……なあ、あたしもちゃんと騎士として修練したら、ああなれるんかな?」 「……なれると思うか?」 「……なれんやろなあ……」  満身創痍の面々のなかで、比較的余力のあったポーラが、苦々しげに頭を掻いた。 「悔しいなあ……『人のこと構うばっかりで、自分のこと大事にせえや』って、セイジに言いたいんやけど、そんなん言える実力差やないわなあ……」  語尾にもう一度『悔しいな』と呟いたポーラの頭を、レオンは無言で抑えつけた。言葉なくして、同じ思いであることを、セイジを見送る視線が語っていた。 「そうだな……おれもお前も、もう少し頼られるようにならんとな」  ……襲撃がある。それを知ってしまえば、相手がなんであれどうとでもなる。なってしまう。 『セイジひとりさえ健在であれば、無策でも問題はない』 『セイジがいないのであれば、どんな策を弄しても意味はない』  みずからそう導き出したその事実は、誰かを守るため騎士を名乗るレオンたちにとって、じつに苦々しい保証なのであった。

週1ペースじゃ終わらない気配がしてきたので頑張って更新します…!

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  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    くにざゎゆぅ

    ♡100pt 〇300pt 2022年7月14日 22時26分

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    ・・・深い

    くにざゎゆぅ

    2022年7月14日 22時26分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)
  • ミミズクさん

    羽山一明

    2022年7月15日 3時20分

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    実は狙ってました。

    羽山一明

    2022年7月15日 3時20分

    ミミズクさん
  • メタルひよこ

    うさみしん

    ♡1,000pt 〇200pt 2022年6月12日 5時26分

    今後への指針を決めた、というかセイジ頼りに先延ばしにする事を決めた今、無力である事を自覚させられた面々はこれからどうするのでありましょうか。こういった根本的な解決が困難な問題を抱えると言うのは、今後の展開にあたって厳しい制約が課せられるものですが、どう料理されてゆくのか楽しみです

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    うさみしん

    2022年6月12日 5時26分

    メタルひよこ
  • ミミズクさん

    羽山一明

    2022年6月12日 10時13分

    レオンに関しては昔っから「おれにできることを」と裏側からセイジをフォローしていましたが、子供たちはそうもまいりません。クリス、ポーラ、ヘイゼルが強くなろうとした決意の源泉です。ポーラは本当にどうしようかまだ悩んでおります。

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    羽山一明

    2022年6月12日 10時13分

    ミミズクさん
  • ひよこ剣士

    種山丹佳(くさやまにか)

    ♡3,000pt 〇100pt 2022年5月6日 23時50分

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    土器もドキドキ…!

    種山丹佳(くさやまにか)

    2022年5月6日 23時50分

    ひよこ剣士
  • ミミズクさん

    羽山一明

    2022年5月7日 3時49分

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    実は狙ってました。

    羽山一明

    2022年5月7日 3時49分

    ミミズクさん
  • マンドラゴラ(覚醒ver.)

    ……くくく、えっ?

    ♡2,000pt 〇100pt 2022年4月26日 17時47分

    主人公ひとりに寄りかかるリスクヘッジに、昨今ネット界隈に目にするブラック企業を辞めた途端に、元の上司が慌ててパソコンの電源の入れ方を聞きに電話をかけてくる……みたいな? そんな危うさを内包しちょりますねコレ。それはそうと……なんでノベルアップには、18禁レーベルが無いんだ(血涙)

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    ……くくく、えっ?

    2022年4月26日 17時47分

    マンドラゴラ(覚醒ver.)
  • ミミズクさん

    羽山一明

    2022年4月26日 23時31分

    とはいえ主人公がいなければここまで大事にはなっていなかった可能性を加味すると、はて、誰が悪いのか。誰も悪くない。そう言いたい。ただひとりだけ、その背をいまだ追いかけようとしているようですが…‥。18禁レーベルがあっても書きませんよ?!

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    羽山一明

    2022年4月26日 23時31分

    ミミズクさん
  • メタルひよこ

    うさみしん

    ♡1,000pt 〇100pt 2022年2月11日 4時28分

    厳しい話の流れになってきましたね。セイジさえ居ればどうにでもなるって考えが共通認識になっちゃうと如何ともし難いのです。さて、ここからどう料理をされるのか非常に楽しみです押忍!

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    うさみしん

    2022年2月11日 4時28分

    メタルひよこ
  • ミミズクさん

    羽山一明

    2022年2月11日 5時27分

    こと正面きった戦闘、という点においては、残念ながらただの事実です。クリスたちが放置される一方、セイジだけがやたらと警戒されるのにもやはり相応の理由があるわけで、何の捻りもなくセイジが頭3つぐらいぶち抜いているからですね。さて、どうやって窮地にしようか(混乱

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    羽山一明

    2022年2月11日 5時27分

    ミミズクさん

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