悪い魔導師に傀儡にされた白百合の姉と捻くれた黒百合の妹は薄汚れた世界に逆襲することにしました

読了目安時間:6分

冬ごもり

 吹雪はますます勢いを増し、ニフルハイム家の姉妹をこのシベルアに閉じ込めようと誰かが画策しているかの如く、冷たい風と雪が身体の体温を奪っていく。  騎乗海豹(アザラシ)の移動は出来るものの、これ以上進むことも留まる事も侭ならない程に私の身体は活動の限界に近づいていた。  片手で抱えているアルフラウの身体が氷のように冷たく、目を瞑ったままでまったく動かない事も私の焦燥感を募らせた。  騎乗海豹(アザラシ)の手綱を握ったまま、いつの間にか眠ってしまっていたようで、急に海豹(アザラシ)が止まった衝撃で私は再び目を覚ました。  眠っていてもアルフラウをしっかりと握りしめて、途中で落としてこなかったことに安堵する。海豹(アザラシ)の止まった先には、明りの灯っていない山小屋が建っていた。ここでとりあえずは吹雪を凌げそうだ。 「ゴマー、ありがとう……後で美味しいお魚いっぱい食べさせてあげるからね」 『キューン』  海豹(アザラシ)の名前を呼んで身体を撫で撫でした後、山小屋の外に待機させた。 山小屋の扉に鍵は掛かっておらず、中に入ると無人で誰かが使用しているような気配はなかった。床は埃を被っていたが、幸い毛布が何枚か置いてある。  暖炉には燃え尽きていない炭も灰の中にあり、その横には薪も積んであったので暖をとる事ができそうだった。 誰の住んでいる山小屋なのかは分からないが、九死に一生を得た幸運に私は心から安堵した。先ずは暖炉の火を(おこ)すのが優先だろう。  私は師匠のシオンの研究所から勝手に貰ってきた発火棒(マッチ)の箱を懐から取り出すと、発火棒(マッチ)の先端を箱に付いたヤスリ状の面に擦り付けた。 発火棒(マッチ)は強烈な勢いで発火し、あまりの熱さに砕いた炭を撒いた暖炉の中に、直ぐに放り投げてしまった。 「熱っ! なんでこんな火力強いんだ!? 火を(おこ)す道具じゃないのかこれ!?」  あっという間に発火棒(マッチ)から引火した炭は、パチパチと音を立てて燃え盛る。  あとは暖炉の近くに置いてある薪をくべるだけで、山小屋の中はそこそこ暖かい空間となった。  私は冷たく濡れたアルフラウの赤いローブを万歳させて脱がせた後、下着も解けた雪で濡れていたのでとりあえず脱がせた。雪のように白い肌があらわになると、身内といえどもちょっとドキドキしていまう。  濡れた衣類は暖炉に近くに置いて、翌日には乾くように準備する。  その後、暖炉のそばで温めておいた毛布でアルフラウを包むと、もう一枚の毛布を敷布にしてそっと寝かせた。  手でそっと顔に触れると、身体はまだ冷たかったものの硬直している訳ではなく、ほんの微かに呼吸も感じることができた。 「アル、ねぇ。目を覚まして?」  軽く頬をペチペチと叩くが、まったく反応が無かった。  どれほど深い眠りに落ちているのか、声を掛けても揺さぶってもまったく動かないので、私はある一つの結論に至った。 「もしかして、アルは()()()()()()()()?」  普段から大量にご飯を食べているのは実は、いつでも冬籠りできるための準備だったと考えると合点がいってしまう。 しかし問題は、このタイミングで冬眠されてしまったら、誰があのザンギュラを倒すというのか。  春が来てアルフラウが起きるのを待つ余裕など、ブリック子爵にもニフルハイム領にも無い事は明らかだった。 「暖炉のそばに寝せておくだけでも、違うとは思うけど……」  私が何か方法はないかと思案していると、昔読んだ恋愛小説に雪山で遭難した二人がたまたま見つけた洞窟で一夜を越すために、お互いを温め合った挿話(エピソード)をふと思い出した。 「いや、それはちょっと……どうなんだろう。ねぇ?」  目を瞑ったアルフラウに問いかけてみるが、勿論反応は無い。温める為に暖炉の近くにアルフラウを置いて火傷させてしまったら、それこそ死んでしまうかもしれない。 「やはり、人肌か」  私は服を脱いで暖炉の近くに綺麗に畳むと、もう一枚の毛布を掛け布団のようにしてアルフラウの毛布の中に一緒に入った。 「うわ。すごく冷たい……こっちが風邪ひきそうだけど、アルを冬眠から目覚めさせる為だし。やましい気持ちなど一切ないので」  誰に言い訳してるのか自分でもよく分からないが、時折暖炉に薪をくべて火が絶えないように気遣いつつも、私はアルを抱きしめて一晩を過ごすのだった。  ――翌日。  窓から差し込む朝陽の眩しさで、私は目を覚ました。  相変わらずアルフラウは隣で健やかな寝息を立ててはいるが、その身体に触れるといつもの体温にまでは戻っているように感じられた。  朝日によって地図の方向が把握できたお陰で、アバーシへの帰路も何とかなりそうだ。 「アル、朝だよ……起きて?」  寝顔のアルフラウの頬を指で軽くつついてみる。 「ん……あふ。おはよう、オリフゥ」 「良かったー、もう目を覚まさないかと思ったよ」  寝ぼけ眼をこすって返事をするアルフラウに、喜びのあまり私は姉をぎゅっと抱きしめた。  着替えもすっかり乾き、二人は出発の準備を済ませると騎乗海豹(アザラシ)に乗ってアバーシへと帰還した。 「そういえば青白い雲(ザンギュラ)に会った時に、(よこしま)なる何とかって言ってたよね。あれって何の事?」 「(よこしま)なる? そんな事を言ってたんだ?」  海豹(アザラシ)から落ちないように私の背中に抱きついているアルフラウは、まるで覚えていないような風に答えた。 「え、言ってたよ? まさか覚えてないの?」 「……覚えてないけど()()()()()については知っているよ」  ()()()()()とは人間よりも先にこの世界に住んでいた肉体を持たない知生体らしく、その誕生は創世神話の時代にまで遡るとアルフラウは語り始めた。  その呼び名は、古い書物の断片的な記録しか残されておらず、白い壁の結界の狭間に潜んでいる説や深き海より這い出るという説、地中深くに眠っている説など、魔術師達の研究では推測の域を出ていない。  マナ異性体(エキュオス)よりも本能的に人を襲う傾向にあり、邪なるものに乗っ取られた肉体は人並外れた力を持つ異形へと変化するらしい。       邪なるものに対抗するためには、かつて世界(シヴェターシ)を支配した神々の恩寵(グレイス)を賜った者の力が必要だと言われている。  神々の恩寵(グレイス)を賜ったものとは、言霊師(ルーンマスター)を含め氣を操る能力者、魔剣使い(ウェポンマスター)など。ほどんどこの辺境の地ではなく、大陸の中央にあるフレナ聖帝国に恩寵(グレイス)持ちが集っている事などを私に説明してくれた。 「……それって、邪なるものはアルが居ないと倒せないって事だよね。よかった、アルが冬眠しなくて」 「冬眠なんてしないよ。クマやカエルじゃないんだから」  実際に冬眠してたんだけど、という私のツッコミはアルフラウの機嫌を損ねそうなので黙っておくことにした。  それとザンギュラが、アルフラウの体内に入っても何もせずに出てきたことも聞いてはおきたかったが、身に覚えのない姉に私が教える事で気持ち悪い思いをするのは可哀そうだったので、こちらも胸の内に秘めておくことにする。 「さって、対策は何となく立てられそうだけどザンギュラはフレースヴェルグお父様でもあるんだよなあ」  アバーシの街にて氷壁騎士団に合流してから、元君主を討伐するという非常事態をどう伝えるべきか、私は苦悩するのだった。 「恐らくもう生ける屍(アンデット)だとは思うけど、親殺し……になるのかな。今から気が重いよ」  溜息をつく私に、アルフラウは顔を近づけて耳元で囁いた。 「オリフゥには私がいるから大丈夫だよ」 「うん。そうだね……ありがとう」  私は振り返って、優しくアルフラウの髪を撫でた。白銀(プラチナ)のように見えるアルフラウの長い髪は、そよ風を受けてキラキラと靡いていた。

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  • あんでっどさん

    ワタル

    ♡500pt 〇100pt 2021年2月13日 16時29分

    自身の身体が冷えるリスクを伴いながらも大好きな姉を暖め救う。序盤の不仲からここまで愛が育ったと思うと感動ですね。お父さんはアンデッド化。私の仲間……じゃなくて、討伐しなければならないのか、何か救済の道があるのか、期待です!

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    ワタル

    2021年2月13日 16時29分

    あんでっどさん
  • 野辺良神社の巫女

    べるえる

    2021年2月14日 19時18分

    おわあー!応援ポイントにノベラポイントまでありがとうございます!序盤の不仲は何だったんだってぐらい邂逅してますね。今後の二人の動きにもご期待下さい。お父さんがワタルさんの仲間に笑いました。クライマックスまで気合入れます!

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    べるえる

    2021年2月14日 19時18分

    野辺良神社の巫女
  • 女魔法使い

    甘党

    ♡6,000pt 2021年2月6日 9時14分

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    応援しています

    甘党

    2021年2月6日 9時14分

    女魔法使い
  • 野辺良神社の巫女

    べるえる

    2021年2月6日 11時23分

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    燃えてキタ~‼

    べるえる

    2021年2月6日 11時23分

    野辺良神社の巫女
  • 女神官

    ちー

    ♡2,000pt 2021年4月22日 22時39分

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    応援しています

    ちー

    2021年4月22日 22時39分

    女神官
  • 殻ひよこ

    火花

    ♡500pt 2021年2月5日 17時49分

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    てぇてぇ

    火花

    2021年2月5日 17時49分

    殻ひよこ
  • 野辺良神社の巫女

    べるえる

    2021年2月5日 20時12分

    スタンプありがとうございます!姉妹愛がうまく伝わるように書きつつ、ちょっぴりお色気を目指してみました。良い反応頂けて嬉しいです。

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    べるえる

    2021年2月5日 20時12分

    野辺良神社の巫女
  • あんでっどさん

    ワタル

    ビビッと ♡100pt 2021年2月13日 16時26分

    《邪なるものに対抗するためには、かつて世界(シヴェターシ)を支配した神々の恩寵(グレイス)を賜った者の力が必要だと言われている。》にビビッとしました!

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    ワタル

    2021年2月13日 16時26分

    あんでっどさん
  • 野辺良神社の巫女

    べるえる

    2021年2月14日 19時21分

    ビビッとありがとうございます。シオンが言ってた「邪なるもの」の解説がようやくここでできました。魔剣使いでも倒せるのですが、この場には居ないのでアルフラウ頼りというお話の流れです。「邪なるもの」は今後も出るのでお楽しみに(?)して下さい。

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    べるえる

    2021年2月14日 19時21分

    野辺良神社の巫女

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