悪い魔導師に傀儡にされた白百合の姉と捻くれた黒百合の妹は薄汚れた世界に逆襲することにしました

読了目安時間:3分

思わぬ誤算

「明日、夜の舞踏会。十の鐘が鳴る頃にニフルハイム城の地下倉庫で落ち合おう」  いつもの通り街の郊外でヴォルフラムと待ち合わせをしたリーゼロッテは、彼から計画の報告に嬉しそうに頷いた。 「ええ、約束の日がついに来たのですね。この日をどんなに待ちわびた事か……それでは、明日の夜にまた会いましょう、ヴォルフラム」  アンネリーゼ伯爵夫人を装いながら世間を忍び、ヴォルフラムと逢う日々も明日で終わり。  ヴォルフラムと二人だけが暮らす事のできる世界へ旅立った後も、アンネリーゼを演じ続けなければならないが、それはただ自分の名前を捨てるだけの事。  そう思うとリーゼロッテの心は高揚し、ヴォルフラムと別れた後もこぼれ出る笑みを抑える事ができなかった。  リーゼロッテが、氷蒼の塔へ帰る準備の為に呪文の詠唱に入ろうとしたところ、近くの木陰の視線に気付いた。 ふと詠唱を止め、リーゼロッテは視線の先を追った。  そこには、ヴォルフラムの友人と紹介された青色の目をした少年が、あまり隠れる様子もなく立っていた。   「あなた……名前は聞いて無かったけれど、あなたが駆落ちに協力してくれるんですよね? 私からもお礼を……ありがとう」  彼女がお辞儀をすると、青い目の少年は頬をポリポリとかいて目を逸らした。 「いやー、お礼されてもまだ成功するって決まった訳じゃないし。まぁ、無事に二人が向こうの世界へ旅立った時にでも受け取っておくよ」 「あなた……本当に何者なの。そもそも、何をどこまで知っているの?」  リーゼロッテは、自分の正体が実は少年に知られているのではないかという不安が募り、ついつい探りを入れてしまった。 「いや、あんまり自分の事もよく分かってないんだけど。とりあえずヴォルフラムとは友達だよ。何をどこまで知ってるって話かよく分かんないけど、移送鏡(テレポーター)の使い方はちゃんと知ってるから安心してよ」 「移送鏡(テレポーター)……分かりました。それでは、頼りにしていますね」  リーゼロッテは軽く少年に頭を下げてから再び魔法の詠唱に入ると、その姿は白鳥へと変化して氷蒼の塔を目指して羽ばたいていった。  彼女が飛び立った後姿を目の上に手をかざして見送ったミロワは、空飛ぶ魔術も紫の魔女(オルタンシア)に教えて貰えばよかったなと、羨ましがるのだった。  ――約束の舞踏会の日。  いつもの通りフロストロードの魔術師の服装から、アンネリーゼ伯爵夫人の着るドレスに着替えたリーゼロッテは、約束の時刻より少しだけ早く倉庫に辿り着きヴォルフラムが来るのを今か今かと待ち侘びた。  手元に取り出した懐中時計を確認すると、時刻はもうすぐ夜の十時。 暫くすると、角の丁字路の廊下からカツンカツンと靴の音が少しずつ大きくなってゆくのが聞こえて来た。  リーゼロッテはそれをヴォルフラムの足音と確信して、彼の姿が見える前に小走りに通路の方へと近づいていった。 「待っていましたよ。ヴォルフラム。さぁ、私を早く連れて行って!」  リーゼロッテが丁字路の角から少し姿の見えたヴォルフラムにそう叫ぶと、彼は驚いたように立ち止まり、彼女の方を訝しげな表情で睨んだ。 「……君は、誰だ?」  予想外の言葉にリーゼロッテは一瞬、言葉を詰まらせたが平静を装い笑顔を作った。 「何を言っているの、ヴォルフラム。私は……」  ヴォルフラムは少しリーゼロッテを見詰めたが、直ぐに丁字路の向かい側へとその視線を逸らした。 ヴォルフラムの視線を追うように、リーゼロッテは向かい側の通路の方へ視線を向けると、ここにいる筈の無い人影を見て絶句する。 「あら。こんな所にどうして居るのかしら、リーゼロッテ。そんなにおめかしして……舞踏会の会場なら此処ではありませんよ?」  無邪気な微笑みを浮かべながら其処に立っていたのは、彼女がずっとヴォルフラムを偽り続けた、リーゼロッテの姉にして伯爵夫人。 舞踏会からヴォルフラムに連れ出された、アンネリーゼ=ニフルハイムだった。  リーン……ゴーンと十つの鐘が地下の通路に鳴り響く。 鐘の音と共に、思い描いていた状況と違ったリーゼロッテの頭の中は、一瞬にして真っ白になってしまった。

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • どうか聞いてほしい。昨日昼すぎのことなんだけど。 パーティーで万年手入れ番の僕、フィル=ブリンナーは突然宿屋の二階から降ってきた少女ウィンウィルと、かーなーりアグレッシヴな出会いをしたんだ でも、強引に『銃』の手入れを押し付けてきた子だったけど、別にそんなにいやじゃなかったんだ。 金はちゃんともらえたしね。 それに僕の仕事をすごく評価してくれて、うれしかった。 だけど、その日――。 僕は有名A級バウンティーハンターチーム、【ウォラック興産】から追い出されてしまったんだ。 『手入れなんて店で出来る! 時間のムダだ!』だってね。 そのリーダーのエリオットっていうのが時間にうるさい人でさぁ。 ただ、僕には【起死回生(クリーニングアップブースト)】っていう能力があったんだ。 これはクリーニングする度、銃の性能を毎10%ずつ、雪ダルマ式に向上していく能力。 けど、もういまさらって思って、心を新たに友達のジャスパーフェネック・キキといっしょに町を出ようとしたんだ。 でもその矢先――。 そう、僕は二階から降ってきたあの少女、ウィンウィルに引き留められたんだ。 「探したよ! 昨日手入れしてくれた銃だけど命中率がすごいの! だから一言お礼を言いたくて、良かったらお兄ぃとお姉ぇのもお願いしたいんだけど……え?行くところがないの? じゃあウチにくればいいじゃない!」 強引なウィンにつれられ、スケベでロマンを求める熱い兄のレヴィンさん。 そしてシャーマンの血を引くヌー族のおとしやかなシ義姉リリーさんが温かく受け入れてくれたんだ。 このチームで心機一転がんばろうと意気込んだのはいいものの。 話はそれで終わらなかったんだ。 実はこの荒野広がる大陸「ナエスタ」に住む全ての人間には、【烙印(スティグマ)】が刻まれていて。 その【罪】とは逆の力を宿している。 それはウィンウィルも例外じゃなくて……。 最強パーティーで万年手入れ番だった僕の人生を変えた少女との出会い! どうして僕がガンスミスに!? でももう二度と後悔しない! 起死回生の逆襲劇の始まり! (注)小説家になろうで現在掲載中のもので、各投稿サイトで統一を図るためにこちらでも掲載することにしました。

    読了目安時間:3時間25分

    この作品を読む

  • 婚約破棄から始まるとんでも異世界冒険譚~黒猫の騎士とポンコツ姫~

    チートで無双⁉️もう、止まらない‼️

    6,650

    0


    2021年6月18日更新

    ほとんど過労死した社畜の俺だったが、気がつくと猫頭のボディビルダーとちゃぶ台を挟んで向き合っていた。 猫頭は、俺と、宿敵の黒猫を一緒に転生させると、言った。 「よい人生を」 エブリスタにも掲載しています。

    読了目安時間:2時間21分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 蒼空世界のメカ娘~レミエと神とあの空の話

    生意気最強メカ娘と往く空中都市の冒険譚

    763,231

    3,693


    2021年6月13日更新

    機械の四肢で空を駆けるメカ娘『奉姫』が人を支える空中世界『カエルム』 空の底、野盗に捕えられた奉姫商社の一人娘『アリエム・レイラプス』を助けたのは奇妙なAIと奉姫のコンビだった。 『奉姫の神』を名乗るタブレット、カミ。 『第一世代』と呼ばれた戦艦級パワーの奉姫、レミエ。 陰謀により肉体を失ったというカミに『今』を案内する契約から、アリエムの冒険が始まる。 カエルムと奉姫のルーツ、第一世代の奉姫とは? 欲する心が世界の秘密を露わにする、蒼空世界の冒険譚。 ・強いて言えばSFですが、頭にハードはつきません。むしろSF(スカイファンタジー) ・メカ娘を率いて進む冒険バトル、合間に日常もの。味方はチート、敵も大概チート。基本は相性、機転の勝負。 ・基本まったり進行ですが、味方の犠牲も出る時は出ます ・手足武装はよく飛びますが、大体メカ娘だ。メカバレで問題ない。 ※2020.3.14 たのの様(https://twitter.com/tanonosan)に表紙およびキャラクターデザインを依頼・作成いただきました。この場を借りて感謝申し上げます ※2020.8.19 takaegusanta様(https://twitter.com/tkegsanta)にメカニックデザイン(小型飛空艇)を依頼・作成いただきました。この場を借りて感謝申し上げます

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:20時間54分

    この作品を読む

  • さきゅばす☆の~と!【改稿版】

    【書籍化・コミカライズ】異世界×ラブコメ

    1,512,688

    22,904


    2021年6月18日更新

    恥ずかしがりやの夢魔リリス。みんなみたいにお色気で男を誘惑なんてできない! というわけで、まずは夢ノートで意識調査。お気に入りの一人を探して誘惑するはずが……。 間違えて渡したノートは世界を大改造するノートだった! 暮らしている人は同じなのに、世界だけが作り変えられた異相のパラレルワールドで、綾瀬紬(17♂)の恋と友情と冒険の日々が幕を開ける! ※書籍化・コミカライズ済みの作品です。 ――――――――――――――――――――――――― ※改稿版では、WEB版としての読み易さを重視して手直ししております。 【主な改稿点】 ●各話三千文字以内を目安に、長めの回は分割。 ●上記の変更に合わせ、サブタイや章構成を一新。 ●主人公の出ない三人称のシーンを、一人称での視点変更に修正。 (一部、改稿が間に合っていない部分がございます) ●小ネタの加筆や削除。会話の流れが自然になるよう修正。 ●若干の設定変更、その他細かい部分のブラッシュアップ。 ※第1~2章(約45000文字)で作品の雰囲気をある程度掴んで頂けるよう書いております。 お口に合うかどうか、その辺りまでお読みいただいてご判断いただければ幸いです。 ※サブタイトルに★が付いている回(主に序盤)は挿絵を入れております。 ――――――――――――――――――――――――― 【関連リンク】 ※書籍情報:MAGNETMACROLINKレーベルより、第一巻発売中です。 ※本作はMAGNETMACROLINK様、カクヨム様でも公開中です。 ※WEB表紙、及び書籍版のイラストはRiv様に担当して頂きました。 Riv様ツイッター:https://mobile.twitter.com/rivleaf ※コミカライズ(LINEマンガ版):Makxma様 Makxma様ツイッター:https://twitter.com/Makxma ※画像使用等に関する許可は版権元の編集部様より頂いております。 ※ノベルアップ+以外の投稿先やコミカライズのリンクについては下記URLにてご確認下さい。 ※作者ツイッター:https://twitter.com/hikaly ※ファル様のHPにて紹介して頂きました(実況朗読あり!) →https://aetherdesign.studio/fal-20200608-1187/

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:15時間59分

    この作品を読む