悪い魔導師に傀儡にされた白百合の姉と捻くれた黒百合の妹は薄汚れた世界に逆襲することにしました

読了目安時間:7分

初めて日間3位になれました。ブックマークやコメントにスタンプ、並びにビビッとありがとうございます。 週一更新ですがじわじわとPVも伸びていて、感謝しまくりであります。 少し更新ペースは落ちますが、お付き合い頂ければ幸いです。

紫の目の少年

 移送鏡(テレポーター)による老貴族の失踪事件から長い歳月が経ち、人々が鏡の存在すら忘れ去った頃。  ニフルハイムの城より北に少し離れた雪が降り積もる針葉樹の森に、紫の魔女(オルタンシア)は古い屋敷を隠れ家のようにして、ひっそりと暮らしていた。    雪の合間から所々見える古い赤レンガ造りの壁はツタが鬱蒼と生い茂り、まるで来るものを拒むかのような雰囲気を醸し出している。  冬にもかかわらず奇妙な形のキノコやシダの生い茂る庭には、館にそぐわない豪華な装飾の施された大きな(ソリ)が停められていた。  来客は既に館の中に居るらしく、(ソリ)に残された従者と大型の犬達は退屈そうに欠伸をしながら、陰鬱な雰囲気の館を眺めて小さな主が戻るのを待つのだった。 「ねぇ、この鏡で何処へでも行けるって本当なの?」  暗い藍色の髪をした少年は紫の瞳を輝かせながら、部屋に置いてあるくすんだ鏡を指さして、白髪混じりの老婆に尋ねた。  樫の木のベッドに半身を起した老婆は、少年の突然の言葉に少し片眉を上げるが、無愛想な表情のまま一瞥してポツリと語り始める。 「……本当でもあるし、嘘でもある。その鏡がお前の姿を映す時が来れば、それも叶うだろうね。ただし、帰って来れなくなっても知らないよ」  少年は袖でくすんだ鏡を拭いながら覗き込んだが周りの景色は勿論、目の前に居る少年の姿も全く映しださなかった。 「え、戻って来れないの? それはヤダなぁ ……せっかく、オルタンシアのお婆ちゃんとお稽古ごとのない世界に行きたかったのに」 「そんな暇な世界に連れていかれても困るんだけど。ところで、その話は誰から聞いたのかな? 私が誰かに話した覚えは無いのだけど」 「うん? このお家に居るミラっていう女の子から聞いたんだよ。お婆ちゃんの知り合いじゃないの?」  独り暮らしの紫の魔女(オルタンシア)の館に住むのは使い魔の黒猫ぐらいで、あとは時折森から来る小動物が館に迷う込む程度である ……が。 同居人として数えるなら屋根裏部屋に住まわせているマナ異性体(エキュオス)のミロワの仕業なのは間違いない。  近頃は少年の姿に留まらず、老若男女すべてに姿を変えることができるマナ異性体(エキュオス)となったミロワは、どうやら紫の目を待つ少年をからかって遊んでいるようだった。  その子は女の子ではないと答えそうになったが、何となく少年がガッカリしそうに思えて、言うのを紫の魔女(オルタンシア)は思い留まるのだった。 「そのミラという女の子はまだ館に居るのかな? ヴォルフラム、案内してくれるかね」    魔女の言葉にヴォルフラムと呼ばれた少年は笑顔で首を振った。 「ううん。用事があるって、お外に行っちゃったよ。近くの家の子なの? 外は寒いのに、あんな服装で大丈夫なのかな」  少年は何も映らない鏡に飽きたのか、老婆の寝室に無造作に置いてある奇妙な道具や置物を物珍しそうに手に取って眺めだした。  少年は手に取った置物や奇妙な道具について片っ端から聞いてくるため、いちいち答えるのが億劫になってきた紫の魔女(オルタンシア)ではあったが、その目は心なしか穏やかに見えた。 「壊しても構わないけど、怪我だけは気をつけるんだよ。私の娘……おっと、ヴォルフラムのお母様に怒られてしまうからね。さて、そろそろ帰る時間ではないのかい。お母様が心配しないうちに戻った方がいいよ」 「ええっ……まだ大丈夫だよ。だって、オルタンシアのお婆ちゃんと、もう少し居たい」  ヴォルフラム少年は口を尖らせて不満げな表情で紫の魔女(オルタンシア)を見詰めたが、老婆は表情を変えずに首を振った。 「その気持ちは受け取るけど……私がヴォルフラムのお母様に怒られてしまう」  それでも少年は暫くは駄々をこねていたが、魔女の態度が変わらないので手に取っていた奇妙な道具を元の位置に片付けると渋々帰りの支度を整えた。 「また遊びにくるね。オルタンシアお婆ちゃん。いつもの約束っ」  少年が小指を差し出し、指きりの仕草をすると、老婆は少し目を伏せながら彼の手を握った。 「……すまないが、私は暫く旅に出かけないといけなくてね。すぐ戻って来れないかもしれないから、約束はできない。また今度にお預けで良いかな?」  紫の魔女(オルタンシア)は少年の髪を撫でながら静かにそう言うと、起こした半身をベッドに戻した。  「えー、いつ帰ってくるの? 帰ってきたら手紙ちょうだいね。約束だよ」 「ああ、帰ってきたら連絡するよ……必ずね」  窓越しに見える、(ソリ)の上から館に手を振りながら去ってゆく少年の姿を見送ったあと、魔女は深い呼吸と共に目を瞑った。  暫くして暖炉にくべた薪も灰に近づくと、部屋の隙間から冷え込んだ空気が入り込むせいか、魔女の吐く息も白くなり始めた。   「さて。少し話しておきたい事がある。出てきてもらおうかミロワ」  魔女は目を瞑ったまま、誰も居ない筈の扉の向こうに語りかけた。  扉の向こうからはノックと共に、綺麗なドレスを着た少女が恭しく頭を垂れながら魔女の眠るベッドの傍までやってきた。 「ごめんなさい、あの子に余計な事まで教えちゃった。オルタンシアは怒ってる? お詫びにリンゴでも剥こうか。美味しいよ?」 「悪いけどリンゴを食べる暇も惜しいからいらない。実を言うと、私の残された時間は限りなく少ないんだよ」 「うーん、でもさ。お話を聞きながらリンゴを剥く時間ぐらいはあるでしょう? リンゴ食べなよ」 「なんでそんなにリンゴを食べさせたいんだか。魔女にリンゴとは何となく笑ってしまうけどね」  ミロワはベッドの脇のテーブルに置いてあった林檎(リンゴ)の皮を、手際良く果物ナイフで剥いて果実を何等分かに切ると、その一つを魔女のほうに差し出した。  魔女はベッドから半身だけ身体を起こすと、林檎(リンゴ)を受け取って一口齧ったあとミロワの方を向きポツリと呟いた。 「そこにある移送鏡(テレポーター)の事だが、きみに譲ろうと思う」  魔女の突然の言葉に、少女の姿のミロワは驚いた様子で目を丸くした。 「え、俺に任せるとか正気なの? だって、自分はマナ異性体(エキュオス)だよ? 知り合いの誰かの魔術師に預けた方が安全じゃない?」 「一度の事故のせいで移送鏡(テレポーター)を壊そうとした連中なんてあてにできないよ。少なくてもミロワに預けておけば、鏡を壊そうとしたりはしないでしょう?」 「確かに……そういう意味では信用してくれてもいいけどさ。死ぬ前まであの鏡の事を考えてるなんて不思議だね。何か想い入れでもあるの?」  ミロワの問いに、紫の魔女(オルタンシア)は目を細めながら何かを思い出すように語り始めた。 「その移送鏡(テレポーター)は師匠の形見でもあるから……私も鏡の素材集めの旅に師匠と各地を飛び回って苦労したからね。他の魔術師が造った移送鏡(テレポーター)とは構造が根本的に違うものだし」 「確かに。ただの移動用じゃなくて、思い描く世界に行ける……というより《《世界が作れる鏡》》だものね。こんな凄いものよく奪われないで隠せてるよね」  ミロワの言葉に魔女は片眉を少し上げたが、少しは元気が戻ったのか林檎(リンゴ)をまた一口齧った。 「鏡の向こうに箱庭を作る程度の力だよ。別に、たいそうな代物じゃないから……問題は一度空間を創り出すと再びマナを蓄えるまで、鏡としても機能しないガラクタにしか見えないという事だね」 「……確かに」    ミロワは部屋に置いてある、くすんだ鏡を覗き込みながら納得した表情で頷いた。 「誰かに預けて、棄てられても困るよね。分かったよ。この鏡を一旦預かっておくね」 「預かるとは? 私が鏡を引き取りに行けるわけがないのに、奇妙な事を言うんだね」  首を傾げる魔女に、ミロワはニコリと微笑みながら答えた。 「ほら。ヴォルフラム君とかが、もしかしたら使いたくなる時が来るかもしれないじゃない?」 「いやいや。どういう理由でそんな事になるのさ。そんな日は来ないから安心してミロワがずっと持っていなさい」 「えー、その日が来ないとは限らないよ? 賭けようか?」 「ミロワが無理やり、ヴォルフラムに鏡を使わせるように仕向けたりしては駄目だよ? 鏡の向こうの世界の事なんて、私ですら分からないんだからね……いや、少しは知ってるけど」  ベッドの傍に近寄って見つめるミロワに、紫の魔女(オルタンシア)は少し目を逸らした。 「ええと、じゃ。俺からは使うようには勧めないって事で。賭けは成立かな?」 「いやいや……余命幾許(よめいいくばく)もない私に、何を賭けろって言うわけ?」 「それじゃね。俺が勝ったらオルタンシアの笑顔を見せてよ? 一度も笑った顔を見たことが無いんだよね。なんなら、前払いでも構わないよ」  笑顔で答えるミロワに紫の魔女(オルタンシア)は視線を逸らすと、ふてくされる様にベッドに横になり目を瞑った。 「なにそれ……そんなもの、死の世界(かくりよ)で幾らでも見たらいいよ」 「かわいいねぇ、オルタンシアは。今まで大事に育ててくれてありがとうね、この恩は忘れないよ」 「いい年のお婆ちゃんに何がかわいいんだか……私もかわいい()()を持って幸せだったよ」  それが紫の魔女(オルタンシア)の最後の言葉となり、結局ミロワが彼女の笑顔を見ることは叶わなかった。

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  • あんでっどさん

    ワタル

    ♡1,000pt 2021年4月6日 12時55分

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    全俺が泣いた

    ワタル

    2021年4月6日 12時55分

    あんでっどさん
  • 殻ひよこ

    火花

    ♡600pt 2021年2月21日 9時07分

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    すき

    火花

    2021年2月21日 9時07分

    殻ひよこ
  • 野辺良神社の巫女

    べるえる

    2021年2月21日 13時29分

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    ▼▼

    ありがてえありがてえ

    べるえる

    2021年2月21日 13時29分

    野辺良神社の巫女
  • あんでっどさん

    ワタル

    ビビッと ♡100pt 2021年4月6日 12時55分

    《「いい年のお婆ちゃんに何がかわいいんだか……私もかわいい息(・)子(・)を持って幸せだったよ」》にビビッとしました!

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    ワタル

    2021年4月6日 12時55分

    あんでっどさん
  • あんでっどさん

    ワタル

    ビビッと ♡100pt 2021年4月6日 12時54分

    《「鏡の向こうに箱庭を作る程度の力だよ。別に、たいそうな代物じゃないから……問題は一度空間を創り出すと再びマナを蓄えるまで、鏡としても機能しないガラクタにしか見えないという事だね」》にビビッとしました!

    ※ 注意!このコメントには
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    ワタル

    2021年4月6日 12時54分

    あんでっどさん
  • あんでっどさん

    ワタル

    ビビッと ♡100pt 2021年4月6日 11時40分

    《「なんでそんなにリンゴを食べさせたいんだか。魔女にリンゴとは何となく笑ってしまうけどね」》にビビッとしました!

    ※ 注意!このコメントには
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    ワタル

    2021年4月6日 11時40分

    あんでっどさん

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