悪い魔導師に傀儡にされた白百合の姉と捻くれた黒百合の妹は薄汚れた世界に逆襲することにしました

読了目安時間:4分

第二章始まりですが、こちらは過去編となっております。 第三章が始まるまで週一更新となりますが、充填期間と思って見守って頂けたら幸いです。

紫の魔女

「元凶はやはりこの鏡だったか」  風に揺れる黒色の長髪を気にしながらも、女魔術師は廃墟に無造作に置かれた何も映さないくすんだ鏡を見つめる。 彼女が受けた依頼は原因さえ知っていれば、とても単純明快なものだった。  それは親族からの依頼で、富豪としても名高い老貴族の失踪の原因を突き止める事。 余命幾許(よめいいくばく)もない老貴族の遺産を虎視眈眈(こしたんたん)と狙っていた親族たち。 一夜にして廃墟と化した豪邸と泡のように消え去った高価な芸術品と財宝の数々は、まさに寝耳に水の出来事だった様だ。    魔女は別に富豪の親族から成功報酬が欲しくて、この事件に関わった訳ではない。 ただ、老貴族の所持していた芸術品の中に、彼女の館から盗まれた鏡が紛れ込んでいないか確認をする為だ。  それは妖精銀(ミスリル)製の意匠を凝らした鏡。 芸術品としても相当の価値を持つが、何より鏡に映った者を思い描く場所へ転送する事の出来る移送鏡(テレポーター)だった。    その鏡はニフルハイム領にいくつか存在し、遠方を行き交うための交通手段として貴族達に利用されていたが、ある貴族の青年が移送鏡(テレポーター)を通ったまま行方不明になる事件が起こった。  ニフルハイムの魔導師団、フロストロードは青年の捜索にあたったが手掛かりは掴めなかった。 そのうち鏡の一つに魔物が住みついて、人を鏡に閉じ込めると言う噂が貴族達に流れ始めた。  フロストロードたちの真相の究明も空しく、失踪の恐れのある移送鏡(テレポーター)の利用は禁止となった。  ほとんどの鏡は貴族や魔術師たちにより破壊され廃棄処分となったが、ひときわ凝った意匠の枠飾りのついた鏡は芸術品として一人の女魔術師が引き取った。  その移送鏡(テレポーター)は彼女の館にて厳重に管理されていたのだが、破城槌で館の壁を破壊してまで強引に侵入した強盗団によって、ある日盗まれた。  女魔術師が鏡を盗んだ強盗団の足取りを追ううちに、辿り着いた場所がこの老貴族の屋敷……だったと思われる廃墟だった。  魔力を失ってくすんだ鏡は、目の前にいる女魔術師を映しだす事は無かったが、その原因は恐らく老貴族が移送鏡(テレポーター)を用いた所為なのは間違いがなかった。  老貴族が何処へ旅立ったのかは、彼女には大体の見当がついていた。 恐らく彼は死に際に、財宝と共に死の世界(かくりよ)へと旅立ったに違いない。   「地獄の沙汰も金次第……とは聞くけど。死んでまで金に囚われるのか」  老貴族の愚行に溜息をつきながら、女魔術師はくすんだ鏡に手を掛けようとした。 「お前……もしかして紫の魔女(オルタンシア)か?」  表面がくすんだの移送鏡(テレポーター)の裏から、ボロボロの服を着た尖った耳の少年がいつの間にか顔を出していた。  少年の言う通り、女魔術師の着ているローブは紫色で、その眼の色も紫だった。  紫の魔女(オルタンシア)と呼ばれた女は、初めて見る少年に名前を知られている事を不思議には思ったが、あまり相手にしないように少年からは視線を逸らした。 「さあ。世間にどう呼ばれているのかは興味はないね。そこのきみは人ではなさそうだね。鏡に魔物が住むなんて噂は聞いた事はあるけど……」 「えっ、魔物いはひどくない? って、もしかして無視してます?」  紫の魔女(オルタンシア)は少年を一瞥すると、何も言わずに鏡を回収しようと手をかける。 「ねぇ、ちょっとー? そもそも俺が何なのか知ってる? 俺自身がよく分かってないんだけどね。実は」 「……知っている。マナ異性体(エキュオス)でしょう。まさか鏡からも生まれてくるとは知らなかったけど」  魔女はそっけない返事をしたが、マナ異性体(エキュオス)の少年は驚いたように自分の身体を自分で触れて確かめていた。 「……俺、マナ異性体(エキュオス)っていうのか初めて知った。で、マナ異性体(エキュオス)って言うのは何?」 「魔術の源となるマナが密になる場所に生き物の感情が干渉すると、形を作ってきみのようにマナ異性体(エキュオス)が生まれたりするみたい。でも、まさか鏡を回収してお土産(オマケ)が付いて来るとは思わなかったね」  紫の魔女(オルタンシア)は大きなため息をつき鏡を持ち上げて回収しようとすると、マナ異性体(エキュオス)の少年も鏡を持つのを手伝った。 「この鏡って、紫の魔女(オルタンシア)が作ったんでしょ?その鏡から生まれた俺も責任もって育ててみない?」 「移送鏡(テレポーター)は私と仲間の魔術師の作品だよ。私だけ物じゃない。だから壊したくは無かったんだけど……マナ異性体(エキュオス)なんて育てた覚えが無いから、野垂れ死んでも文句は言わないでね?」 「言わない言わない! だって、こんな所に一人でいる方が辛そうだもん。紫の魔女(オルタンシア)さんありがとう。ママって呼んでいいかな?」 「それはどうだろう、遠慮したい。まぁ、きみをマナ異性体(エキュオス)と呼ぶのも素っ気ない気がするね……ミロワとでも呼ぼうか」  ミロワと呼ばれた少年は目を輝かせ、ニコリと微笑む。 「ミロワ! 俺の名前はミロワ! なんかいいね、ありがとう! ところでこの鏡どこまで持って帰るの。重いんだけど」  確かに人の大きさもある金属の鏡である。ミスリルという軽い金属では出来ているものの遠くに運ぶのには一苦労だった。 「確かに……そうだ、ミロワ。きみが馬になれ」 「えっ、そんな能力持ってないんだけど」 「私が姿を変える魔術が得意なだけだよ。鏡を運び終わったら戻してあげるから、よ・ろ・し・く」 「ええっ、ちょっとまっ……ぎゃー!」  ミロワが抗議する前に紫の魔女(オルタンシア)は呪文の詠唱を済ませると、少年の姿が霧に包まれあっという間に馬に変わった。  紫の魔女(オルタンシア)は馬の背に鏡をロープで括り付けると、自らも馬に飛び乗って彼女の住む館のある森へとミロワを走らせるのだった。

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  • あんでっどさん

    ワタル

    ♡1,000pt 2021年4月6日 11時36分

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    これは期待

    ワタル

    2021年4月6日 11時36分

    あんでっどさん
  • 殻ひよこ

    火花

    ♡300pt 2021年2月17日 17時43分

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    最新話お待ちしていました

    火花

    2021年2月17日 17時43分

    殻ひよこ
  • 野辺良神社の巫女

    べるえる

    2021年2月17日 19時57分

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    いつも応援ありがとうございます

    べるえる

    2021年2月17日 19時57分

    野辺良神社の巫女
  • あんでっどさん

    ワタル

    ビビッと ♡100pt 2021年4月6日 11時34分

    《紫の魔女(オルタンシア)は馬の背に鏡をロープで括り付けると、自らも馬に飛び乗って彼女の住む館のある森へとミロワを走らせるのだった。》にビビッとしました!

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    ワタル

    2021年4月6日 11時34分

    あんでっどさん
  • あんでっどさん

    ワタル

    ビビッと ♡100pt 2021年4月6日 11時34分

    《「移送鏡(テレポーター)は私と仲間の魔術師の作品だよ。私だけ物じゃない。だから壊したくは無かったんだけど……マナ異性体(エキュオス)なんて育てた覚えが無いから、野垂れ死んでも文句は言わないでね?」》にビビッとしました!

    ※ 注意!このコメントには
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    ワタル

    2021年4月6日 11時34分

    あんでっどさん
  • あんでっどさん

    ワタル

    ビビッと ♡100pt 2021年4月6日 11時33分

    《「この鏡って、紫の魔女(オルタンシア)が作ったんでしょ?その鏡から生まれた俺も責任もって育ててみない?」》にビビッとしました!

    ※ 注意!このコメントには
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    ワタル

    2021年4月6日 11時33分

    あんでっどさん

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