悪い魔導師に傀儡にされた白百合の姉と捻くれた黒百合の妹は薄汚れた世界に逆襲することにしました

読了目安時間:4分

嵐の前の静けさ

 私の強引な決定に対して、明らかに反感的な表情のフレースヴェルグ卿の臣下達。  今まで仕えていた領主が暫定的とはいえ、身体の弱かった姉のアルフラウに引き継がれると聞いて、はいそうですかと快く認めてくれる訳が無い。  第一私は、フレースヴェルグ卿の次女であるというだけで今まで政治に何の関与もしていない。  フロストロードを姉が始末したという実績を開示していなければ、今すぐにでも拘束されていた可能性もある。  アルフラウの魔術に対する未知の恐怖が、大広間にいる者達に広まった今。  父の不在の隙をついた事実上の乗っ取りに対して、表立って抗議できる者は居なかった。 「……フレースヴェルグ卿が戻られた時、いかに姉妹殿であろうと、この決定はタダでは済まされませんぞ」  声を絞り出すようにして、老いた元執政官は私とアルフラウを睨んだ。 「そうだろうね。ならばフレースヴェルグ卿を今からでも呼び戻すといいよ。食糧と移動用の胡獱(トド)(ソリ)は用意しよう」 「ぐっ……いえ。霜の巨人(ザンギュラ)だけではなく、北限熊や皇帝人鳥(カイザーペンギン)もいる氷原に捜索に向かう事など自殺行為。フレースヴェルグ卿が戻られるのをお待ちします」 「うん。それが賢明だと思うよ。今までよくニフルハイムの執政官として仕えてくれたね。礼を言うよ、ありがとう」  執政官は私の礼には答えず、俯いて大広間を後にした。   「伝えたい事は以上だ。この決定に何か意見があれはこの場で応対しよう。挙手してくれ」  また大広間は少しザワザワとするが、手を挙げた者は辺りを見回したところ居なかった。  執政官と私のやり取りを見て、何を言っても取り付く島が無いと判断されたのだろう。  歓迎する空気なんて元から期待はしていないので、足固めはこれからしていけば良い。  一度死ぬ気になった身なのだ、何があっても恐れることなど無い。  本音を言えば、アルフラウの心の内よりも怖いものなんて私には無い。  姉に純粋に慕われるだけの価値が、私には本当にあるのだろうか。  今まで嘘で紡いできた姉との関係を私自身が、信用できていないのが一番辛い。  まだ完全に癒えてはいない胸の疵が、チクリと痛んだ。 「意見が無いようなら、解散とする。では、解散」  大広間に集められた臣下達は、それぞれの持ち場へと戻っていった。  何人かの兵士がまだ残っているので、アルフラウを守る様に一応の警戒をしながら様子をうかがっていると、短髪の若い男が笑顔で近づいてきた。  氷壁騎士団の団員のアルドラは、私が剣術を学んでいる時に一緒に稽古をしてきた仲である。   「やってくれたなあ、オリフラム。いつかは上に立つ奴だとは思ってたけど、下剋上とは恐れいった!」 「あのさ、タメ口はやめてくれない? 別に下剋上じゃないから。あと、オリフラム様と呼ぶように」 「おおっと、すまない。周りの手本にもならないよな。気をつけます」  それほど恐縮した訳ではなく、苦笑いしながら頭を下げるアルドラ。 「俺はアルフラウ様もオリフラム様も支持するよ。シリウス団長も同意してくれている。氷壁騎士団の連中は安心して使ってくれ」 「分かった。けど、敬語は弁えて」 「うう、厳しいな。分かりました。我々は戻りますが、何かあればお申し付けください。それでは!」 「ありがとう、頼りにさせてもらうよ」    ニフルハイム領の精鋭である氷壁騎士団との繋がりをそういえば持っていたんだなと、改めて思い出した。  私の味方は、アルフラウ一人だけじゃないと少しだけ安堵する。  それでも暫くは単独行動は控えた方が良いだろう。  大広間に誰もいなくなった事を確認してから、姉の肩をそっと叩いた。 「姉さん、しばらく落ち着くまでは私がアルの部屋で寝るね」 「オリフゥが来てくれるの? 嬉しい。ずっと一緒に寝ても良いんだよ?」 「いや、流石に狭いしずっとは無理かな。広い部屋に移動しても良いけど、アルの部屋にある本棚を移動させるのは、かなりの手間だしやめておくよ」 「うん。残念だけど、仕方がないね」  アルフラウは肩を落として残念がっていたが、しばらくすると気を取り直して私の方を上目遣いで見詰めた。 「今日は沢山の事があった一日だったね」 「うん。忘れられない一日になりそう」 「()()()()()()()()()()()()、オリフゥ」  答えの代わりにアルフラウの髪を優しく撫でて引き寄せた後、しばしの抱擁。  アルフラウの言葉の本当の意味を、私はその時まるで気づいていなかった。

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