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詐欺師はこの世界に破滅をもたらすのか?

読了目安時間:7分

魔法の世界

学院の編入生

 広い通りを進む馬車。道に植えられた青い花。南東から吹く春風が、石造りの街を静かに流れる。  王国の北に聳える雄大な山脈。銀嶺は紺碧の空を切り裂くように、その白い刀身を陽光に煌めかせた。  山から流れ出る雪解け水が街の運河を満たす。澄み切った青は水路を下り、街の隅々まで運ばれた。  街を見下ろす丘の上には学園がある。聖ホルド魔法学園。知恵と魔法の中心地。魔法の素質を待つ子供たちの中でも、特に才能があると認められた英才たちの集まる学園。  アリシア・ローズは校庭の隅で、ベンチに腰掛けて本を読んでいた。日差しを遮る木の青葉。木漏れ日が白いページにふわりと落ちる。 「アリシア様」  フェルデリコ・デ・アラゴンは学園の中庭に咲く一輪の青い花を片手に、アリシアの前に片膝をついた。 「様はいらないってば……」 「良い香りにございます」  フェルデリコは花弁を高い鼻の前で一振りし、アリシアの前に差し出す。  露骨に眉を顰めるアリシア。  聖ホルド魔法学院第七十八期生、フェルデリコ・デ・アラゴンは、ピシッとした皺のない白い上下に、長い藍の外衣を羽織った。歳はアリシアより三つ上で、今年十七歳を迎える。 「いらないです。無闇に植物を傷つけないで」  アリシアが立ち上がると、フェルデリコは「はっ!」と頭を下げる。そして、何やら物欲しげな顔でアリシアを見上げた。無視して学園の中に入っていくアリシア。  森の民との戦争から、はや半年ほどの時間が経過していた。  魔術師として不甲斐なかった自分への失望。師であるクライン・アンベルクに破門されるのではないかと震えて過ごした毎日。魔術師の資格は剥奪されても、師弟関係はそのままだと分かったアリシアが、やっと取り戻した笑顔。  耳の奥に響く断末魔の叫びや、目の奥を流れる赤黒い血は消えていない。それでもアリシアは、時間が経つにつれて、戦争のショックから立ち直っていく。  半ば強制的に編入させられた学園での生活が始まると、徐々に、昔の明るさを取り戻していったアリシア。現在、彼女は友達が欲しいと願っている。 「アリシア様!」  後ろからフェルデリコが走り寄って来た。  さっと障壁魔法を唱えるアリシア。呪文にはオリジナルで、圧縮魔法と拡張魔法を混ぜ込んであり、伸縮性を持った障壁にぶつかったフェルデリコは、ボヨンと後ろに跳ね返った。  ため息をついたアリシアは、障壁を解くと、学園内に足を踏み入れる。  編入してからずっとだ。  孤児の身で史上最年少最上級魔術師にまで上り詰めたアリシア・ローズは、思春期の生徒たちの羨望と嫉妬の嵐にさらされた。その中でも特に執拗だったのが、アラゴン家の御曹司フェルデリコ・デ・アラゴンだった。貴族であり魔法大臣の息子である彼には、アリシアが許せない存在だったらしい。  あまりにもしつこく、また、嫌がらせの手口が陰湿だったフェルデリコ。流石に頭に来たアリシアは、フェルデリコを呼び出してボコボコに叩きのめす。暗い路地裏での惨劇。何故か、杖の代わりに花束を持っていた間抜けなフェルデリコ。  これで貴族の御曹司からの嫌がらせは無くなるだろう。  安心したアリシアだったが、どうにも執念深いフェルデリコは、さらに表立ってアリシアに付き纏うようになった。  アリシアは、何度もフェルデリコに決闘を申し込んでは叩きのめした。だが、めげるという事を知らない彼は、アリシアを追い続けている。  昼の学園内は騒然としていた。午前の研究を終えた生徒たちは仲間と談笑したり、一人研究を続けたりと、思い思いの時間を過ごしている。 「アリシア様だ」 「相変わらずお麗しい」  アリシアが学園内を彷徨くと、生徒たちは手を止めてアリシアを見つめた。どう反応していいのか分からず、下を向いて歩く友達のいないアリシア。  アリシアは学院奥の大ホールにたどり着いた。  古い教会跡をそのまま使用したホール。正面のステンドグラスには、七人の魔女を倒したと言われる伝説の勇者アノンと、聖女フィアラの肖像が後光に輝いた。高天井には世界を表すミデアの園が描かれ、幾つものシャンデリアが吊り下げられている。乱雑に並ぶ長テーブルで昼食を食べる生徒たちの笑い声。アリシアはその様子を羨ましそうに眺めた。  転移魔法で昼食を取り寄せたアリシアに、一人の生徒が舌打ちをする。顔を赤くしたアリシアは、背中に嫌な汗を感じながら、その場を移動した。  エスカランテ王国とその同盟国では、魔術師以外の者が魔法を使うことは禁じられている。魔法学院の生徒たちはまだ魔術師の資格を待っていない。独断で魔法を使えば、最悪の場合投獄される恐れもあった。  もちろん、ある程度融通は効いている。授業の場では当然魔法を使い、家で両親と魔法の練習をしたりするものもいる。そのため、生徒が魔法を使っても咎められることはあまり無かった。だが、貴族出身が多数を占める学院では厳格な家庭で育った者が多く、皆、魔法を公の場では使わないように気をつけて生活していた。  元最上級魔術師アリシア。戦争の英雄である"霊獣"クラインの弟子だという事もあり、上級魔術師の先生たちからも一目置かれている。誰もアリシアの魔法を咎める勇気は無い。そもそも生徒の中で、転移魔法などの繊細な魔法を使える者はほとんどいない。  アリシアは他の生徒たちとの温度差に寂しさを感じていた。  とぼとぼと、生徒の少ない端に移動するアリシア。  ふと、一番端でパンを齧る黒髪の男の子が目に入る。細身で髪の長い彼は、一見すると女の子のようだった。アリシアと同じように、孤児院出身の編入生であると噂される男の子。  魔法の力量は、他の生徒たちより格段に劣っているらしかった。だが彼は、言語能力が優れ、他種族の言語に加えて、なんと古代文字まで読めるらしい。 「こんにちは、ナツキ君。隣いい?」 「あ?」  ナツキと呼ばれた少年はさっと顔を上げた。その瞳に混じる怯え。少し悲しくなるアリシア。 「何、食べてるの?」  アリシアは気を取り直して話しかけた。ナツキは迷惑そうに眉を顰めると、パンを飲み込む。 「パンだけど」 「えへへ、そうだよね。あー……それ美味しい?」  アリシアは会話を続けられず、顔が赤くなった。友達のいないアリシアの必死の努力。 「ただのパンだよ。美味しそうに見えるか?」  ナツキはムッとしたようにパンに齧り付く。 「そうだよね。ごめんね」  どうすれば友達が出来るのだろう。  アリシアは泣きそうになりながら、昼食を詰めたバスケットの包みを解く。少し気まずそうに頭を掻くナツキ。 「あー、お前って誰だっけ?」 「えっ?」 「名前だよ。俺、ここ来たばっかだから誰が誰か分からなくてさ」 「そうだったんだ」  ならば、何故さっきは怯えた目をしたのだろう?   アリシアの微かな疑問は、会話が続く喜びに掻き消される。 「アリシアだよ! アリシア・ローズ! 私も編入だから友達いなくて……」 「あー、あの天才とかいう奴か」  ナツキは侮蔑するような目でアリシアを見た。どう答えるのが正解か分からず、黙り込むアリシア。一生友達など出来ないのではないかと、アリシアの目に涙が滲む。 「いい弁当だな、それ? やっぱお前も貴族の娘だったりすんの?」 「……」 「どうしたよ、天才さん?」 「天才っていうのやめて!」  アリシアは堪えきれず涙を零した。  驚いて固まるナツキ。 「私は貴族の娘なんかじゃないし、ママもパパもいない! これだって自分で作ったの!」 「……そ、そうかよ」 「なんで私に嫌がらせするの? 私、貴方に何か悪いことした?」  アリシアは涙が止まらず、何度も嗚咽した。ホールの生徒たちは唖然として、アリシアを見つめる。 「なあ、ほら、落ち着けよ」  ナツキは泣きじゃくるアリシアの頭を撫でた。「おお!」という騒めきがホールに広がる。 「パン、食うか?」  ナツキが食べかけのパンを千切って寄越してきた。嗚咽しながらパンを口に入れるアリシア。 「……固い」 「そりゃパンだもん」  ナツキは初めて笑った。アリシアも笑顔を見せる。 「悪いな、よく事情も知らずに皮肉っちまって」 「ううん、私の方こそ取り乱してごめんなさい」  二人は仲直りの握手をした。先ほどの悲しみなど何処かに飛んでいったかのように、爽快な気分になるアリシア。 「そうだ、私の昼食一緒に食べない?」 「お、マジか?」 「うん……その、代わりに何だけど」 「何だよ?」  アリシアはもじもじと指を動かした。爽快な気分は一転、不安に押し潰されそうになる彼女。 「その……」 「だから何だよ?」 「私と、友達になってよ!」  言ってしまった。  アリシアは祈るように目を瞑る。  友達の作り方は分からない。これでいいのだろうかと、不安で胸が苦しくなるアリシア。  呆れた表情のナツキ。その瞳の奥に浮かぶ冷たい光。 「いいぜ」 「えっ?」 「いいぜって言ったんだ。今日から俺たち友達だ」 「ほんと!?」  無邪気にはしゃぐアリシア。それを見たナツキはニッコリと微笑んだ。  

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