思い返せば、山城の人生は“抜く”という行為に振り回されてきたものであった。
山城に限ったことではなく、誰しもが多かれ少なかれ類似した体験をしているはずだが、山城はそれらのひとつひとつを必要以上によく覚えている。
今朝もそうだ。
自宅リヴィングでまわしている扇風機のコンセントを、山城はいつも抜いてから外出している。外出の直前に抜く、などと決めているわけではないが、自身の中で当然のルーティーンと化しているため、わざわざ時間を置いて二度、三度と確認することもない。
それでおおむね問題ないが、今日のように時折、忘れたころに煩わされる。それも、駅の改札を抜けて急行に飛び乗った直後などという、この上なく間の悪いときにふっと思い出すのだ。家の鍵ではあるまいし、仮に一日忘れたとしてもたいして不都合は生じないと判っていても、そういう場合は結局、往復一時間ほど浪費をしても引き返すことになる。芳江が非番で家に居ればなんの問題もないものの、山城がそのように惑うのは決まって芳江が朝早くに出社して家が空になっている日であった。
そうして戻った場合、扇風機のコンセントは正しく抜かれており、ため息ののちに冷蔵庫から麦茶の入ったピッチャーを取り出して水分補給をするところまでが、山城にとっての第二のルーティーンとなっていた。
昨日の出来事もそうだ。
昼休み、職場の近くに新しく開店したラーメン屋に入った。
さほど珍しくもないチェーン店だが、訪れたことがなかったので、山城はいつもの定食屋を素通りして入店した。
その店で最も人気の味噌ラーメンを注文すると、三分ほどで提供された。腹が減っていたので鼻歌まじりに割り箸を割り、どんぶりに目をやると、チャーシューの横に髪の毛が混入していた。
店員に伝えて新しいラーメンの提供を要請するも、店員は平謝りののちにどんぶりから髪の毛をさっと抜き取るのみで、交換などできないと
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白胡麻もち
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白胡麻もち
2020年6月9日 6時49分
sandalwood1124
2020年6月9日 12時02分
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sandalwood1124
2020年6月9日 12時02分
玉椿 沢
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玉椿 沢
2020年11月6日 12時55分
sandalwood1124
2020年11月6日 21時06分
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sandalwood1124
2020年11月6日 21時06分
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