睫毛を抜くときの感触を、山城は気に入っていた。
やや伸びた爪先を沿わせ、指に適度な力を加えて引っ張り、狙いどおりに抜けたときの一瞬の感触が心地よかった。特に、抜くときのプチっという間の抜けた音も、山城に安心感をもたらした。
その一連の行為の中で、快感や恐怖や自責といった様々な感情が入り乱れ、しかし抜ける瞬間が訪れると、それらは収束して心地よさに昇華される。
心地よく感じるのは一瞬だけだった。指についた一本、あるいは二、三本の睫毛を目にして、山城はいつも落胆する。その瞬間を享受するために行っているのだと感じる一方、自身の悪しき面をいっそう歪めてまでそんなことをして、いったい何になるのだろうと冷静に絶望することも、週に一度か二度ほどはある。抜いた睫毛を口でふいて床に落とすと、しばしば芳江にごみ箱へ捨てるようにと注意された。
山城が鏡でまじまじと自分の顔を眺めるのは、歯磨きやひげ剃りをするときを除けば、睫毛を抜いたあとの目の状態を確かめるときだけである。芳江と比べて縦には短いものの糊代の多い顔も、結婚してから数年で以前より目立つようになった二重顎も、清涼感に乏しい
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玉椿 沢
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玉椿 沢
2020年11月5日 0時07分
sandalwood1124
2020年11月5日 0時11分
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sandalwood1124
2020年11月5日 0時11分
白胡麻もち
癖というのは無意識にやっているものだとばかり思い込んでいましたが、後悔しながらついやってしまうものも言うのですよね。ゴミ箱を増やすという対応が、夫婦らしさがあって良いなと思いました。
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白胡麻もち
2020年6月2日 1時42分
sandalwood1124
2020年6月2日 22時16分
有難うございます。良くないと分かっていてもやめられないという癖は、意外と多いのではないかと思います。容易にやめられるものでもないので、芳江の対応は賢いかなと思いますね(笑)
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sandalwood1124
2020年6月2日 22時16分
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