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夢の別の名前

読了目安時間:10分

生きる

 タカヒコを止めることができず、寧ろ流されるままに魔王の屋敷までやってきてしまった裕之。  そしてハヤトは魔王アイレスに大きな傷を負わせ、アイレスは傷を癒すために長い眠りにつく。  自身の行動に半ば呆然としながら、裕之は隠れ里へ帰った。  ……そこで待っていたのは、厳しい顔の長老。なんと言うことをしでかしたのだ。怒鳴られ、そのまま土蔵に押し込められて数日。  彼の前に現れた長老は、告げた。 「ハヤトを殺し、魔王様に詫びなさい」  愕然とする裕之。だがすぐに彼は気付く。自分が行かなければ、誰か別のものがハヤトを殺しに行く事に。  すぐに追い出される形で彼は里を出た。  その足で向かうのは、風谷の村【ウインディア】。戦いを終えたハヤトが住む村だ。  誰にも気づかれることなく彼はハヤトの家までやってきた。  鼓動が早く、呼吸も乱れている。周囲の気配にも気を配れない。そんな中で裕之は草むらに身を潜めると、 「ハヤト様」  囁くように言った。  すると声が届いたのか、ハヤトが窓から顔を覗かせる。こちらに気づいてくれた。  どくんと身体が跳ねるような感覚を覚えながら、裕之はハヤトを連れ出すことに成功する。そして彼を人気のない森の中に誘った。  空は今にも雨が降り出しそうな曇り空。裕之の心中を現したかのようである。 「どうしたんだい?」  二人が向き合ったところでハヤトはようやく口を開く。  俯く裕之。やがて彼は掠れそうな声で全てを語った。  少年の頃に刻まれたヒトへの憎しみ。タカヒコの出自。シノビと魔王の関係。自分がハヤトと共に行動したことにより一族に危機が訪れた事。  そして…… 「ハヤト様を殺すように、言われてきました」  今ここに自分がいる理由を。  彼の言葉を最後まで黙って聞いていたハヤトは穏やかな顔をしていた。まるで、彼が来るのが分かっていたかのようである。だが裕之は自身のことで精一杯で気づかない。 「僕は……あなたを傷つけたくない……でも、僕がやらないと次から次へと仲間があなたを……」  遂にぽろぽろと涙が溢れてきた。どうしようもない感情の渦に飲み込まれる裕之。  そんな彼を、ハヤトは優しく抱きしめる。震える裕之をあたたかく包み込んだ。  ぽつぽつ、と雨が耐えきれずに降り出した。すぐに雨脚は強まってゆく。  木々に遮られるとはいえ、二人の身体にも滴は容赦なく降り注がれる。 「……早いほうがいい、裕」 「……ハヤト様……?」  最初裕之はハヤトが何を言っているのか分からなかった。  ハヤトはそんな彼の腰にある短刀に手を伸ばす。 「!」  そこで裕之は気がついた。  ハヤトは死ぬ気だと言うことに。 「さあ」  言われるがままに短刀を握る裕之。刃物がこんなにも恐ろしいものだと、今まで感じたことはなかった。 「あなたを殺して、僕も……」  刃をハヤトの腹に向ける。  震える手を、ハヤトの手が優しく包み込む。 「裕……君に会えて、よかった」 「ハヤト様、すぐに参ります」  ゆっくりと刃が腹に突き刺さってゆく。ハヤトの身体がびくりと震える。ここまで来てはもう後戻りできない、と裕之は一気に奥まで差し込んだ。赤い血が噴き出し、二人の手を真っ赤に染める。  がくりとハヤトが膝を折った。裕之は短刀を引き抜こうとするが……ハヤトが手を離さない。 「ハヤト様!」 「裕……君は、ここで死んではいけない……」  口から血を吐き出しながら、ハヤトは裕之を見上げた。その瞳は相変わらず、優しい。 「でも……」 「君の力は、いつか、必要になる……」 「ハヤト様……」  雨と涙と返り血で、裕之の顔はぐちゃぐちゃだった。 「行きなさい、そして……生きなさい……」  彼は柄から手を離し、数歩下がる。ハヤトが大きく頷いた。 「……失礼します……」  崩れ落ちるハヤトの身体。この場から逃げるように駆け出す裕之。  斜面を下るが足元の石が雨で滑り、彼は足を取られて大きく転んだ。  水溜りに拳を打ちつけ、彼は涙を零す。  最早動く気力が、なかった。  そんな彼を見下ろすように現れた気配。 「それがお前達のけじめの付け方、か」  それは裕之の元に降り立ち、彼を抱き上げる。 「……ワズン……」  その名を呼びながら、裕之は意識を手放した。    ——その日、「僕」は「俺」になった。    語り終えた裕之はそのまま全身に炎を纏い、床を蹴る。  対して、剣に氷を纏わせたヒサエが迎え撃つ。炎と氷がぶつかり合い、爆ぜた。両者は距離をとり、改めて向き直る。 「キイネ、手伝って」  ヒサエは裕之から視線を逸らさずにキイネを呼ぶ。  ……だが、キイネは動かなかった。 「私……この方とは戦えません……」 「キイネ?」 「悲しすぎます」  彼女は涙を零していた。  周りを見れば、シンも戦闘態勢を解いている。 「お前の短刀が刺さっていたからお前が殺したと思っていたが……俺様はお前の事、何も知らなかったんだな……」  無防備に歩み出すシン。裕之が投げつけた炎をもろに受けよろめくが、前に進む足は止まらない。 「すまなかった」 「く、来るな……」  彼の行動に裕之は動揺を見せる。数歩後退りしながら炎を放った。  やはりシンはそれをただ受ける。 「お前、本当は戦いたくないんだろう?」 「同じ過ちはもう、しないと決めたんだ」  炎が再び飛ぶ。だがそれはシンの脇をすり抜けていった。 「もう、苦しみたくない!」  炎は自らの意思で逸れていっているようである。シンは大きく一歩を踏み出すと……裕之を抱きしめた。 「辛かっただろう」 「……っ」  裕之の身体から力が抜ける。その場に崩れ落ちた。  恐る恐る見上げた先に……手を差し伸べるシンがいた。 「すまん裕、お前を誤解していた。許してくれ」  裕之は肩を震わせる。涙が溢れてきた。 「もう一人にはしないぞ」 「……シン様……」 「お前は俺様の……ハヤトの大切な仲間だよ」  ハクが駆け寄り、優しく頭を撫でる。  裕之は小さく、頷いた。 「……はい……」    一連の様子を眺めることしかできなかったキュウであったが、穏やかになった裕之の表情に、ほっと胸を撫で下ろす。隣のジュンも同様で、両者は頷き合うと……魔王に目を向けた。  キュウの両親を殺した魔物、その親玉、魔王アイレス。その表情は鋭く、この場に目を向けていた。  アイレスは戦いの気配を感じ取ったのか、重そうなコートを脱ぎ隣のフォースに手渡すと、 「手出しはするな」  そう言って一歩前に出た。何もない空間から剣を取り出し、 「ハヤトの孫……よくぞここまで来た」  構える。  キュウも刀を抜き払い、正眼に構えた。  互いに床を蹴り、飛び出す。ギンッ……強く打ち合った。 「ふっ……」  剣を交えたものの、キュウはすぐに身を引く。手がじんじんと痺れる、アイレスの力は相当のものだった。  すると今度はジュンが駆ける。剣を入り身で躱すと、アイレスの懐に潜り込み、掌底をぶつける。アイレスがすぐに後ろに跳ぶ所へ、キュウが迫った。  ガッ……! 再び刃が交わる。アイレスの剣が僅かに刃こぼれしたように見られたが……すぐに元どおりになる。この剣、アイレスの力そのものらしい。  キュウとアイレス、間合いを計りながら左右に動き相手の出方を探る。  ——と、アイレスが剣を下ろした。キュウを誘っている。  ここはジュンが駆けた。今度は槍を持ち、横から回り込んで腹に一撃を繰り出す。シュッ、掠った。アイレスの身体から僅かに黒色の血が流れる、だが彼はダメージを受けた素振りは全くなく、片手でジュンを払った。 (やはり急所以外は厳しいな……)  かつての戦いのことを思い起こしながら、ジュンはアイレスの懐に飛び込む機会を探る。  一方のアイレスは、ジュンの事は最低限にとどめ、キュウに意識を向けていた。爪先から頭の先までじっくり見、その動きを計りとる。まるで、試しているかのように。  刀の先に力を込めるキュウ。淡く光を放つ刃を振り下ろせば、光の塊が飛び出す。それは鳥のように姿を変え、アイレスに迫った。更に追撃とばかりに自身も駆ける。  光の鳥はまるで生きているかのように旋回しアイレスの背後に回り込み、キュウと二方向からの攻撃となる。  ドン! と煙が上がった。 (感触はあった……どうだ!?)  数歩下がったところでキュウは改めて刀を構える。  煙の中から……何かが上に飛び出した。慌てて目で追うが追いきれず、それはキュウの背後に着地する。一閃しながら振り返るキュウだが、僅かに間に合いそうにない。唇を噛み締める。  そこに影が飛び込んできた。ジュンだ。彼は振り下ろされようとする剣を握る手を掴み、何とか押しとどめていた。だが強い力を受け、腕はだんだんと下がってゆく。  しかしこの状況はジュンがアイレスの動きを止めている、とも言える。振り返ったキュウが駆け抜け……アイレスの脇腹に一撃を与えた。   「やった!」  戦いの様子を見守っていたウィンが声を上げた。 「キュウを助けなくちゃ!」  そして彼女はシン、ヒサエ、キイネそしてハクを呼ぶと、キュウの側へ飛んでいった。 「裕、一寸行ってくるぞ、そこで待っていろ」 「……シン様、どうかご無事で……」  腕を回しながら、シンも歩き出した。彼を追うようにヒサエが動き、ハクを抱いたキイネは裕之に頭を下げてから、二人を追った。こうしてキュウに一同が合流する。  流石に手数の差が、とフォースが一歩前に出かけたが、アイレスが視線を送ると元の位置に戻り戦況を見守る。 (ここでは魔物とヒトが一緒にいるけれど……)  キュウは思い返す。両親を殺した魔物を。ウィンを襲った魔物を。ハクの親を殺した魔物を。港町に現れ人々を困らせた魔物を。 (魔物は……許せない!)  駆けるキュウ。彼を追うようにシンとヒサエが魔法を放つ。  火と水の塊が彼を追い越しアイレスの元に到達する。アイレスが腕を払いそれらを散らしたところに、キュウの斬撃が注がれた。  するとアイレス、右手でキュウの刀を掴む。微かに血が飛び出るが、気にせず刀身を握った。刀を折るつもりだろうか。キュウはとっさに柄から手を離し、大きくさがる。  彼の行動は意外だったらしい。アイレスは刀を投げ捨てると丸腰のキュウに迫る。続けざまの攻撃を躱す事だけに集中し、身を捩るキュウ。刀は遠くに落ちていた。  彼の危機に動いたのはジュンとキイネ。アイレスを撹乱させるべく駆ける。 「ふっ……!」  繰り出される槍の一撃が躱されれば、大剣の斬撃が続く。  二人がかりでアイレスの動きを止める中、ヒサエが後ろに回り込み、刀を取り上げる。 「キュウ!」  駆けつけるキュウに手渡し、彼女はまた魔法を唱えた。稲妻がアイレスに注がれる。まともに受けるアイレスであったが……変わらぬ表情で立っている。にやりと口元に笑みを浮かべると、腕を振り上げた。  途端、彼を中心に衝撃波が生じる。  大きくさがる一同の中、アイレスが狙ったのは……一番近くにいたジュン。 「おじさん!」  横に一閃。ジュンの腕から血が吹き出す。 「っ……大丈夫だ」  腕を押さえながら彼は叫ぶ。酷く深くはない、すぐに治療ができれば問題ないだろう。……だが今は戦場、その時間はあるのか。 「ちょっとシン、あんた凄腕の魔法使いなんでしょ、何とかしなさいよ!」 「待て待て、回復魔法だけは手順が違ってだな、俺様は使えないんだ」 「ええっ! 何でそんな大切なものを!」  ウィンとシンが言い合う。……と、 「あたしがやるよ」  口を開いたのはヒサエであった。 「一応勉強したから、傷口をとじるくらいなら、できる筈」  こうなれば彼女を頼るしかない。ジュンを彼女に任せ、シンは改めて魔王に目を向ける。……アイレスは自信に満ちた表情をしていた。かつて刻まれた傷は完全に癒えたのだろう。  一方でキュウは、 「はあっ!」  ジュンの分も、と気合十分で刀を振り下ろしていた。  ガッ……何度目かわからない打ち合いの中で、初めてキュウが僅かに押した。刃を交えたまま、彼は刃に力を込める。淡い光が刀身から溢れ出し、彼の全身へと伝わっていった。ぐぐぐ……キュウは更に押し込む。僅かにアイレスの身体が退がった。 「はあっ!」  その時、キュウは全身の力を解放した。彼を中心に光が弾ける。 「キュウ!?」  一瞬皆の視界が光に染まった。  そして光が収まった時、そこに立っていたのは……キュウ。そして腹を抑えるアイレスの姿であった。                     つづく

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