腰巾着騎士の冒険譚!――一周回って普通の冒険者?――

読了目安時間:5分

閣下の御前

 タラオスはゆったりとしているように執務椅子に腰掛けていた。姿勢もやや崩しており、左程に重要な案件ではないと態度で語っている。  しかし、その背後には家紋の入った盾が飾り付けられた壁があった……猛き赤獅子の紋章が刻まれている。  大公の行動には何から何まで意味がある……あるいは意味があると他者は信じている。この場合を解釈すれば国にとっての重要事ではないが、反論は許さない。つまりは決定事項を伝える場であろう。  少なくともアドラスとアレイオンはそう判断した。その判断が正しいとも確信していた。  人の上に立つ立場としてタラオスは腹芸も得意だ。しかし彼の本質は武断派の王であり、身内の側を相手にする場合は裏の裏まで用意していることはない。  意図を読み取るということが部下には必要だと思っているが、それ以上は求めない。それはそれとして深くまで読み通せる人物は重用する。タラオスは切り替えの早い人物だ。そうでなくては大公を真っ当に務めることなどできない。 「久しいな、サー・アレイオン。少し逞しくなったように見える」 「このところ言いつけられた訓練が妙に厳しかったのです。張本人のサー・プロマゴスには先程会いましたが、どちらかといえば借りを作ったようでしたね」  すらすらとアレイオンは返事をした。  これにはアレイオン自身がタラオスと会う度に不思議に思っていることだった。タラオスは威厳が人の形をしたような人物だが、同時に追従する者に誇りを与える魅力を持っていた。  アレイオンとは雲の上ほどの身分差がありながら、気楽に話せるのはタラオスに魅せられているからだ。彼の息子であるアドラスに忠誠を誓っているアレイオンだが、こうしたところは親友には真似できないとも思っていた。 (方向性の違いというやつかな。アドラスの輝きは木漏れ日だが、閣下のそれは真夏の日だ。アドラスは少々清々しすぎるのだろう)  そう思っても、アドラスを修正しようとは思わないアレイオンだ。大公という身分で言えば相応しいのはタラオスの方だが、アドラスの魅力はもっと別の場所でこそ輝くのだという予感がある。 「プロマゴスか。アレは今度の人事に余程腹を立てたと見えてな、噛み付いてきおったわ。ま、許してやれ。お主の身が余程心配だったのだよ、我が身以上にな」 「はっ……」  アレイオンに胃の痛さが戻ってきた。雲上人はどうしてこうも、あからさまなのかと天を仰ぎたくなる。  タラオスは息子であるアドラスよりも、その傘下騎士であるアレイオンに続けて話を振ってくる。意味するところはメラムと同様なのだろうが、騎士や貴族としてというより人として辛い空気になる。  かくいうアレイオン自身が家族とは不仲なので止めることなどできようはずもなく、更に気まずくなる。 「アドラス。来たか」 「はい。閣下」 (俺にかけた言葉より短い……会話も終わった……)  貴公子然とした美しいアドラスの顔には笑顔が張り付いたまま、そしてタラオスは下っ端を見るような険しさのまま。  恐ろしいのはこの空気が自然であるように感じられることだった。つまりはこの二人は常にこうなのだろう。  年に一度は顔を合わせているのだが、大公家ともなると家族というものの概念が違うのか。アレイオンからすれば理解不能であった。 「アドラス。放蕩息子よ。お前に命を下すために、ここへ呼んだ。そしてサー・アレイオンにもそれに同行して欲しいと願っている。しかし、ふむ……」  珍しいこともあるものだ、とアレイオンは表層的な感想を抱いた。  常ならばさっさと言い付けて終わるはずが、タラオスが言葉を濁したからだ。このような曖昧さはどうにもタラオスらしくない。  即断即決する姿を見せることも、人の上に立つ者の仕事だ。そう考えていそうな男なのだ。 「順を追って話そう。先程名の上がったプロマゴスら……我が直参の騎士たちは、“踏査騎士団”へと派遣したのだ。しばらくは帰って来ることも無い」 「は……?」  聞き違えたのか? というような顔をアドラスとアレイオンは作った。  言葉の意味は分かる。  この世界で人間が住んでいる領域は西方に限られており、東方に向けて延々と未開の地が広がっているとされていた。されていた、というのは誰も世界の端など確かめてはいないからだ。  “踏査騎士団”はその地を切り開き、人間が住める領域を広げるための騎士団であり、各領主がそれぞれ僅かにだが手勢を出していた。 「余り熱心であるとは聞きませんが……」 「それも今までの話だ。戦は終わった。そして、これ以上は起こさせん。分かたれて残ったアチラを倒して統一王朝などは狂気の沙汰でしかない」  話しすぎた、という顔でタラオスは一息ついた。厳しい顔に似合わない、疲れたような呼吸音が二人の脳に染み入った。 「……これより先は手詰まりなのだ。分ける地は年々狭くなり、新しき芽を潰そうとする者が増える。ゆえに世界を広くする必要がある」 「なるほど。それで“踏査騎士団”ですか」 「我が代で終わるとはとても思えんがな。しかし、この試みに身銭を切れば大王も余計な気は起こさんだろう。弱っていく我らを見て、向こう100年は大人しくしてくれる」  遅々として進まなかった開拓を一気に加速させる。競争意識をそちらに向けて、熱狂を煽ることで戦から遠ざける。  噂では未踏地域は魔物や蛮人の跋扈する地と聞く。少なからず犠牲は出るだろうが、二大国の衝突よりはマシだと大公は考えているらしい。  騎士と言っても傘下騎士であるアレイオンには、大王との面会の経験が無い。それでも二大国の片方を統べる者が凡庸であるとは思えなかった。  ところがタラオスの言動を汲み取る限りでは野心のある問題児のように聞こえてくる。 (閣下と陛下が不仲……というのは本当のことなのかもしれない。王様と不仲でいられる閣下が異常なのかもしれないが……)  それにしても踏査騎士団への出向に、親衛隊めいた直参騎士の大半を送り込むというのは尋常ではない。彼らは一騎当千とされる戦士であり、同時に部隊指揮官でもある。  それを手放すタラオスが戦を起こさせないという決意の程が窺えるが、それは実際に剣を交えた方が楽な道になるのでは無いだろうか…… 「父上。その……もしや、同じ考えを持った方があちらの国にも……?」 「黙れ、余計な詮索だ」 「あー、つまり我々も派遣されるおつもりで?」  タラオスの考えは単独では成立しない、そう考えたらしいアドラスが控えめに述べるが静かで険しい声に遮られた。  険悪になりそうな親子に割って入るアレイオン。ただの話題転換のつもりであったが、それを受けてタラオスは奇妙な輝きを目に宿らせた。   「行かせようと思ってはいる……が、“踏査騎士団”にではない。お前たち、冒険者という者たちを知っているか?」  

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