腰巾着騎士の冒険譚!――一周回って普通の冒険者?――

読了目安時間:6分

姑息な企み

 レイアは目覚めた。未だ華奢だが奇妙なところで図太い気質のレイアは常に快眠だ。  まぁ路地裏と比べれば寝心地は比較するのも馬鹿らしい。宿屋で余っていたベッドを借り受けて、衝立で覆った一角が彼女の空間だ。アレイオンもアドラスも、こうしたところではレイアを女性らしく扱う。  奇妙なことだ。レイアの思うところ、騎士というのは口より先に手が出ないだけで野盗とさして変わらない。商家にいた幼少時も、僅かな期間過ごした神殿も、最近までいた路地裏でも印象は変わらない。  二人がおかしいのか、出会ってきた騎士がおかしいのか。分からなくなる。  安価な夜着からいつもの布鎧とローブに着替えたレイアは、少し意外な光景を目にした。机に向かっているアドラスだ。起きる時間に書類仕事をしているのは大体、アレイオンの方であり、この美男が処理しているのを見たのは初めてだ。 「お、おはようございます……珍しいですね。アレイオン様じゃなくてアドラス様がお仕事されてるのは」 「ああ、おはよう。何かひどい誤解を受けている気もするが……アレイオンには別の仕事を任せたんだ。私が行くよりも、彼が行った時がいいこともある」 「ひ、人付き合いですか。大丈夫なんでしょうか」 「アレイオンもひどい誤解を受けているな」  苦笑して、アドラスは書き終えた束を袋にまとめた。  レイアは毎朝考える。なぜ、冒険者が書類仕事をしているのか? 冒険者には……冒険者に限らずでもあるが……無学な者がほとんどだ。読み書きすら怪しい。例外は魔術師ぐらいだろう。  そして、その仕事をレイアは手伝わせて貰えない。出来る限り楽に生きたいが、手持ち無沙汰が過ぎるのは苦痛だ。生まれが生まれなので読み書きが出来る希少な人物、レイアは冒険者になったときもその旨告げた。仕事が回ってきたことはなくとも。  ……二人の騎士には何か隠していることがあるのは明白だ。ただ不思議なことに後ろ暗さが伴っていない。いずれ分かる時が来ると良いな、とレイアはそう思うのだ。 「食事にしよう。昨日奪ったビスケットとスープでね」  とりあえず、レイアはこの美男子の顔を独占できる機会を堪能することにした。 /  街で一番騒がしい酒場で相手は待っていた。アレイオンは周囲の騒がしさに閉口しながら、どうにか相手の元までたどり着いた。後ろ暗い話をするのに最も良いというはなるほど、と思えるのだが、朝っぱらから度が過ぎた飲酒をしているこの連中はなんなのだろうか? 「いよぅ! 略奪者(レイダーズ)の小僧! 先にやってるぜ!」  略奪者というのは我らが一行のあだ名だ。最下級の新人でありながら山賊や盗賊を専門に斬り殺して、強奪する。悪党殺しの悪党。こちらとしてはあくまで下積みとしてそうしているだけで、そもそも他の連中も相手が何であれ金目のモノは奪うだろうに……アレイオンは不思議に思うのだが、不快な呼び名というわけでもないと考えている。 「エリセオさん。お待たせして、申し訳ない」 「もう少し遅くても良かったぐらいだ。なにせ、下級から酒を奢ってもらった男は珍しい。堪能しなきゃな」  心底酒に喜んでいるようだが、その目は素面のまま。肌も酒焼けしていない。刈り上げられた髪と髭は、無骨さを強調するように見えて、定期的に整えているようだ。癖者を気取る癖者……アレイオンは主君が会うように言った訳が分かると思った。  既に最前線ではなくなった、この町では珍しい高名な冒険者だ。通称、“助っ人のエリセオ”。単独で活動し、人員が欠けたチームに補充の形で入ることを専門としている。階級は中堅だが、頼まれれば上位の穴埋めさえこなすという。  高名なのは腕だけでなく、その奇妙なプライドにある。彼は助っ人として入ったチームに相応しい活躍しか(・・)しない。下級に混ざれば下級相応に、上級に混ざれば上級相応に働く。手を抜いていると嫌われることもあるが、出しゃばら無いとも言えて一目置かれていることに間違いはない。  それがアレイオンが調べ上げたエリセオの評判だ。相談相手としてアドラスが選んだのも分かる。 「見て欲しいものはコレです」 「ん。一見して普通の量産された剣だな。兵とかにとりあえず渡される類だ」  片手は陶杯を持ったまま、もう片方の手で、器用に剣を回し見る。その目が次第に真剣味を帯びてくる。 「柄の拵えが南方風……鍔は四角型……刃は直作りで鋳造式……どっかで見た……そうだ。アルゴスの一部地域の正式剣に似ている作りだな。この辺じゃちょいと珍しい。ガラクタよりは高く売れるが……どこで手に入れたんだ?」  我らがテーバイ国の南に位置する大国アルゴス。  現在は和平が結ばれているが、潜在的な敵。ただし、双方が小国を残らず吸収してしまったためにこの二国でもう戦は起こらない。世間ではそう見られている上に、タラオス大公が戦を起こさせない決意であるとアレイオンは知っている。   「先日、山賊の巣穴で。おかしなことに、10本分捕った剣の内でコレ含めて6本が全く同じ形でした」  エリセオの耳が動いた。陶杯に手酌で酒を注ぎ入れて、口に含む。  飲むというよりは口元を隠すような動きだった。 「なぜ気付いた?」 「さらに、その前の仕事で奪った剣を売ったのですが、その中にも一本あったのです。それと……最近賊達のねぐらで分捕った保存食の堅焼きが全て同じ形だったので、これはもしやと思い」 「俺に相談した、か。やるじゃないか、サー・アレイオン。大公領の上位騎士だけあって、目端が利く」  怖い人だ。光り輝くアドラスならともかく、俺の素性まで調べていたか。急ぐために、目立たないようにという方針を変えたとは言え、あくまで一騎士の俺まで警戒したのか。  アレイオンがそう考えていたのが分かったのか、エリセオは唇を歪めた。 「そう怖い顔しなさんな。公からの目付けじゃないかと疑っただけで、今は気にしていない。知っての通り、下級冒険者はクズが多すぎる。腕が立って、上に登るであろう後輩を少なくとも俺は歓迎する」 「……それはどうも」 「それで、お前が掴んだこのネタだが……これは良くないな。アルゴスからの嫌がらせで横流しされたっていうお前の推測を俺は支持する。前線のハルキダじゃなく、ここドロシアなら監視は緩い」  披露してない推測を先読みされるが、アレイオンはそう悪い気はしなかった。年長者のお墨付きは、心強く、気分がいい。  だが、続く言葉でその気分は暗くなる。 「しかし、後手に回った。近々、大規模な山賊討伐が計画されている。領主も兵を出すが、その矢面に下級冒険者を使う予定だ」 「それは……盾として、そして役立たずの選別を兼ねて?」 「ああ……だが、その山賊にアルゴスの正規兵がある程度混ざっていたら……逆に食われるぞ。こりゃ飲み代は俺が払うべきだな。どこまで修正できるかは分からんが、中位と上位の冒険者をできるだけ混ぜるよう働きかける」  エリセオは内心はどうあれ、落ち着いた姿勢を維持して立ち上がる。  狩人帽を目深に被り、さも酔っていると主張するような足取りで店を出ていく。  こんな冒険者もいるのか。アレイオンは感銘を受けて、敬意と共にその姿を見送った。

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