腰巾着騎士の冒険譚!――一周回って普通の冒険者?――

読了目安時間:5分

宮廷雀はどう動くか

 アドラスとその配下達が新たに見出した光を練磨しつつ、タラオス大公の居城へと急ぐ間にも無情な時間は過ぎていく。馬鹿げたことのように思えるが、長兄が倒れた以上は遥か遠くにいたアドラスも充分に怪しい(・・・)のである。関わっていないことを示さなければならない。  ……そんな運命に愛された者の到着を待つほど、俗世は暇ではない。既に話は広まり、事態は極めて陰湿なものとなっていた。  大公家の跡継ぎが亡くなったということは、席が一つ空いたということで血だけが連なる有象無象どもの暗躍を引き起こしている。恐るべきことに既に刃傷沙汰にまで発展した例もあるが、これは明らかに乱痴気騒ぎの部類だろう。  しかし、事態がここまで大きくなるのも無理はない。2大国の一つテーバイの重鎮たる公爵家の席順が変わるのだ。別に後継者になりおおせる必要すら無い。一つ繰り上がるだけで財宝が転がり込むようなものだ。それほどの身代をタラオス大公は所有している。  タラオス大公自身は息子の死に関して、純粋な悲しみを抱いている。だが、それはそれ(・・・・・)。公人としてのタラオスは私人としての自分がどれだけ嘆こうとも、機械的に事態を処理するように動いていた。  もし、彼が動けなくなったとしてもスチュワード・メラムがどうにかしていたであろう。大公領自体は大公自身の死であるならともかく、継嗣の一人ぐらいで揺らぐようなものではなかった。 「わが手に余るほどの広さ……それでも作らねばならぬ。この程度(・・・・)で揺らぐことの無い領邦()を、我が寿命が残されている内に」 「御意に。されど人前でそれを口になさらぬよう。今はどこに蝙蝠がいるか分からぬ時勢ゆえ」  分かっていると、タラオスは腹心に手を振った。  仮にも後継者の死をこの程度と表現してしまっては、人心を失う。要らぬ勢力の立ち上げさえ誘発しかねないほどに、タラオスは巨大な勢力であり過ぎた。王者のごとき裕福さに縛られ、あらゆる物をその手に掴んでいるタラオスはさながら身動きのできない巨人といったところか。 「願わくば、あの子らには己の才覚にあった存在となって欲しかった。……この悔恨も行き過ぎか?」 「執務室の中でなら、聞き流せる程度です。どうぞ、ご自由にお嘆きください」  タラオスの男子は3人……家の規模として考えると小さいが、全員が健康体であり周囲も自然とそれを受け入れた。そもそもタラオスが自分の子がネイスタイの全てを受け継ぐ必要も無いと考えていたのを想像するのは、余人には難しいことだっただろう。  長男、メキステウスは穏やかだが芯があり、曲げぬべきときは曲げぬを心得た人物だった。欠点と言えば、血を流しすぎる戦にやや嫌悪感を持っていたことだろうが、正当な戦いは別だと考えていたようで後継者として相応しい人物と言える。  次男、アリストは快活というよりは硬骨といったところだ。柔軟性に欠けるものの、得意な力押し以外にも敬意を払えるぐらいの度量は持っていた。まずまず悪くない人物だ。  そして、三男アドラス。これに関しては考えるだけ無駄であった。あらゆることが得意で、人格面も非の打ち所がない。しかし、長所しか持たないというのは既に異物であり怪物だ。大公としても恐らくは完璧になれるだろうが、それゆえに大公にかえって相応しくないとタラオスは考えていた。  他の者にとって広すぎるネイスタイ領が、アドラスには狭すぎる恐れがあり、それゆえ一家を別に立てさせる手配を進行させていた。ごく低い次元で見ても、アドラスはそのほうが幸せだろう。 「長男が家督を継いで平和を保つ。次男は武断派をまとめて、補佐に徹する。そして三男が象徴的存在になる。……こうなると甘い夢であったな。わずかな期間でネイスタイは火薬庫と化した」 「左様で……今のところは各陣営の動きは追えていますが……」 「ああ、世の中はこういう時、恐るべきバカが出てくる。思考も行動も何一つ読めない者たちがな。アドラスの帰還が波紋を広げる一石になれば良いのだがな。まぁ大王の干渉が無いことだけは救いだ。こちらの不幸を浅い頭で喜んでおるだろう」  領内が不安定になる理由は、各騎士や代官達の派閥争いだ。俗に三人揃えば派閥ができるという。  第一王子に付いていた者達は、主君を失いかえって頑なになってしまっている。メキステウスによって騎士号を叙勲された者達にとっては、己の生活が明日も続くかというような状況だ。  第二王子側はこれ幸いと、家督を次ぐようアリストに詰め寄るだろう。放っておけば勝手になるものに、わざわざ火を点けに行く愚かさだ。  そして、第三王子……決まった派閥こそ無いものの、溢れる魅力があぶれ者達の受け皿として機能してしまう。  継承問題に関係しようと画策せんとする人々……その人数たるや膨大な数となってしまう。繋がりをたどればきりが無いのだ。 「さて、宮廷の雀はカラスとなる。我が息子の死骸をついばもうとする輩共、それすら受け入れなくてはならない身分に連中は本気でなりたいのか? 葬儀は明後日だというのに、今からはしゃぎ立てる」 「それは真面目にやろうとすればの話。自分一代を豪奢に過ごそうと考えれば、たまらない魅力でしょうな」 「バカどもめ」  思わず吐き捨てる。世界は広く、タラオスも全容は把握できていない。  気の毒になるのは大貴族の兄弟でありながら、兄弟の絆を確かに持っていた息子達だ。あの子達は人の醜さをこれから見せつけられることになる……いや、アリストは恐らく既にそうなっていよう。  葬儀の準備と並行して、タラオスはあらゆる人材を集めておくことにした。

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