腰巾着騎士の冒険譚!――一周回って普通の冒険者?――

読了目安時間:7分

番人の最後

 闇の軍勢(ダークスポーン)には文明があり、彼らは高度な知性を持っている。アレイオンはそう推察している。  奈落口から溶岩まで落ちるような、深穴こそが彼らの建築物なのだ。アリの巣に似ており、一階層に多数の部屋と下へと降りる道が必ず存在している。むき出しの岩でできた地だからこそ、人間の感性では理解し難いがそれが彼らなりの様式だった。  ならばリッパーは2階層の門番だ。まるでおとぎ話のようで笑ってしまいそうになるが、リッパーを倒さねば次へは行けない。アレイオンとエリセオが作った地図によればどう通ってもリッパーのいる広間を通る羽目になるのだから笑うしか無い。 「で、リッパーの倒し方だが……」 「まぁ単純にコレが一番でしょう」  アレイオンが手に持っているのは異常に太い綱であった。それは切り出された岩石と繋がっており、岩はマグマへと落ちる通路に置かれている。要はリッパーにこれを引っ掛けて叩き落とすわけだ。最悪、広間から引きずり出すぐらいはできるだろう。 「問題はリッパーのやつは武器を持っている上に、複数の足を持つ。ヤツの知能がどれくらいかは知らんが、腕を残しておけば自分にかけられた紐をちぎるぐらいは思いつくだろうさ」 「最低条件として両腕を切断し、再生を行わせないこと。面倒なのはリッパーの体液で、床下のハンガーやらが復活してくる可能性があることですね。そのために私とアドラス、そしてソティリス殿がリッパーの相手。不意に備えてエリセオさんとレイアが雑魚を引きつける。コレーが岩を叩き落とす。これが各々の役割になります」  遭遇したエリセオたちによれば、リッパーは扇状のカタールとでも言うべき奇怪な武器を持っている。人外の膂力を考慮すれば絡めた綱を断ち切ってくるぐらいは想像できる。更に足を地面に打ち込んで落ちないよう固定化もするだろう。  ならばそれも当然封じなければならない。刀剣でやれば飛び散った血で骨層の敵も復活する。そして、それがリッパーよりも(・・・)強い可能性すらある。そもそも敵の限界と生態がわからない以上は、考えれば考えるほど準備が必要になる。ある程度は希望を持って区切りをつけなければならない。 「レイアちゃんも戦うわけか。その辺りは心配ね」 「レイアでは大岩を落とす仕掛けが使えませんので、そこはご勘弁を。長い得物を使うので倒される心配はそこまで必要ないかと」 「まぁ……広間の骨層にリッパー以上がいないという仮定での話だがな」  チームの一員なので未熟だからと役割が与えられないことは無かった。  この地形からして岩を落とすのならテコでやるのが一番だ。手先が器用な者がいれば良い仕掛けを知っているかもしれないが、あいにくとエリセオすら知らなかった。似たような設備が歯車遺跡で見つかることもあるようだが、買い取って持ってくるというのはいろいろな理由で不可能だった。  検証の結果体重をかければ岩が落ちるという確証も得られた。 「後は出たとこ勝負というやつだな」 「闘争である以上、それが当然だ……」  それまで口を開かなかったソティリスが不気味に呟く。喋ると異常に雰囲気が重くなる呟きで、緊張感を抱えたまま決戦のために全員が眠ることにした。 /  翌日、全員が叶えられる限りの装備で身を包んでリッパーの広間近くで待機した。  打ち合わせは済んでいる。後は実行だけだった。  リッパーはこちらに気付いているようだが、その場を動かない。それが役割なのだと、中央部で泰然とした姿を見せていた。カマキリの下半身に人型の上半身が繋がっている姿は異様だったが、人の形があることでむしろ倒せるように感じた一行は一気に動いた。  まず岩に繋がれた縄が幾本も広間に投げ入れられた。リッパーはそれに気付いたが、何の意味があるのかまでは理解していないようだった。近くに寄った時はついでに刻むぐらいはしてくるはずだが……縄の正解は本物と予備の二本だけだ。  次は最初の接触同様の接近戦。それにアレイオンを加えて3者でカマキリの足元に滑り込もうとするが……リッパーは身を屈めて獲物が懐に入ってくるのを待ち構えた。勇者達の勢いは止まらない。  そうして近くにわざわざ来てくれた人間たちに、スコップの先に似た刃物を叩きつける。ソティリスは大剣使いなので、武器が痛むことを承知で盾とした。そして、アドラスは……アレイオンのバックラーがリッパーの刃を逸していた。  リッパーも人間たちも互いに距離を取り直す。 「助かったよ、アレイオン。やはり私は君がいてこそだ」 「そうでも無いから、少し戦い方を変えたんだ。才能ある主様が合わせてくれることを期待する」  そして開始される剣戟。  これまで闇の軍勢(ダークスポーン)は一方的に蹂躙される場合がほとんどだった。初の膠着状態は、かつての勇者たちもこうして闇との戦っていたのだろうと思わせる光景だ。  そんな選ばれた者の中に混ざったアレイオンは本来ならばすぐに逃げるか、敗北していなければならない存在だった。なにせ相手は神に愛された騎士と、首刈りの達人を相手に鮮烈な戦いを続けられる怪物なのだから。  無論のこと、それには理由がある。アドラスならばいざ知らず、多少人より優れている程度のアレイオンに一朝一夕で天才の仲間入りが果たせるような要素はない。  それはかつてウェアウルフとの戦いと同じように、徹底して防御に回る動き。しかし、あの時とは武具が違う。バックラーという小型ながらの盾を使ってひたすらに割り込む。元々真正面から受け止めるような盾では無いが、武器と人との間に挟むという使い方が可能になる。  割り込ませる。逸らす。これまで以上に徹底して、アドラスの防護を担う。結果として払いのけようとする動きを何度も受けたアレイオンは打撲傷だらけになるが、一切構わない。  そして賭けはここからだ。天禀によらないアレイオンが自分の才能を無理矢理に叩き出すべく、動き出した。  それはまさしく狂気の沙汰。アレイオンは防御をソティリスの側まで広げた。アレイオンを左に、ソティリスを右に置きながら彼らを襲う暴威を全て防ぎきらんとする。コレーの大盾から得た着想を小盾に応用した動きである。  魔銀のカットラスを盾と見立てて、右を受け流す。バックラーはそのままに左のアドラスへの攻撃を邪魔し続ける。両側とも即座に判断を下せる傑物を前提とした欠陥戦法。  ゆえに末路は定まった。敵の勇者たるリッパーは小物に妨害される屈辱に耐えられない。先にこの邪魔な羽虫から片付けてくれよう、そう思ったのなら……いいやそう思わせることがアレイオンの思惑だ。 「同格相手には我慢ができても、小物は許せない。こちらは傷一つで武勲だからな!」  リッパーの前足で蹴り飛ばされる寸前に、敵の真下へとアレイオンは潜り込む。仰向けになったアレイオンの視界に映るのは灰色の虫の腹しかない。そこに刃を食い込ませると、予想通りにいななく馬のようにリッパーが仰け反りながら後ろ足で立ち上がる。  それを見逃すソティリスとアドラスではない。彼らの剣は見事に両の腕を断ち切っていた。  動揺しながらも先日と同じように地層へ負傷箇所をめり込ませるように動いたが、叩きつけた地面にバックラーとカットラスがあった。もちろん下で這い回っていたアレイオンの仕業である。腹の下で留まってやる理屈などどこにもない。 「今だ!」  エリセオの声が響く。正解の縄二つは近くにいたレイアとエリセオに投げられて、見事にリッパーを輪の中に入れた。  そして、合図を受けて動き出したのはコレーも同じだ。満身の力を込めて、仕掛けに力を込めれば下へと落ちていく大岩。  リッパーが引きずられ始める。その際にわけのわからない叫びを発していたが、気にする一党ではない。  リッパーはその場に留まろうと足を地面に打ち込む。それをアドラスが、ソティリスが、アレイオンが、エリセオが、ことごとく断ち切っていく。漏れ出た体液で地面から崩れかけのハンガーが復活するが、レイアが棒で体勢を崩れさせる。  復活と再生を幾度目にしただろうか、当人達からすれば永遠にも感じられる時間が過ぎていく。  そしてとうとう……リッパーは広場から引きずり出される。下の骨層が無くなったことでより苛烈に攻撃を加える一党を前に、リッパーはなにもできなかった。  ソティリスのかちあげるような一撃を受けて、わずかに体が浮いた途端……大岩と運命を共に下の灼熱地獄へと落下していった。リッパーの人型部分はまだ何かを叫んでいた。その意味が分かることは今後も無いだろう。 「しまった……首を斬るのを忘れていた」  ソティリスの発言で気が抜けた一行は地面に座り込んだ。後は中の死にぞこない共を処理するだけだが、全く疲れていないのかソティリスが駆けていく。  ここに、奈落口2階層は突破されたのだった。

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  • 真田幸村

    鉢棲金魚

    ♡2,000pt 2020年6月4日 12時18分

    酷い末路を見た、と思ったけど、よく考えたら両腕を断たれた時点で、もう勝負ついてるから、何もおかしくなかった

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    鉢棲金魚

    2020年6月4日 12時18分

    真田幸村
  • クトゥルフ

    松脂松明

    2020年6月4日 12時34分

    応援ありがとうございます 腕を再生したところで武器が無いですからね…… まぁ彼ももっと時間があれば団子結びを解けたかも……

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    松脂松明

    2020年6月4日 12時34分

    クトゥルフ
  • 男戦士

    ミノ

    ♡500pt 2020年9月20日 6時50分

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    GREAT

    ミノ

    2020年9月20日 6時50分

    男戦士
  • クトゥルフ

    松脂松明

    2020年9月20日 7時04分

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    ありがたき幸せ

    松脂松明

    2020年9月20日 7時04分

    クトゥルフ
  • カレーうどん

    柊水仙

    ♡500pt 2020年6月5日 19時46分

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    お疲れ様です

    柊水仙

    2020年6月5日 19時46分

    カレーうどん
  • クトゥルフ

    松脂松明

    2020年6月5日 19時57分

    ※ 注意!この返信には
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    ありがてえありがてえ

    松脂松明

    2020年6月5日 19時57分

    クトゥルフ

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