腰巾着騎士の冒険譚!――一周回って普通の冒険者?――

読了目安時間:6分

奇人変人

 アレイオンと仲があまり良くないままの受付嬢が、珍しく浮き立つようにその依頼を張り出した。小さくなってしまったギルドでも、上位もいれば下位もいる。反応は様々だが、皆がその依頼が書かれた紙を一瞥していく。読み書きができない者が多くとも、チームの中に一人は頭を使う役割がいるものだそうだ。  数少ない上位の冒険者達はその一見でほとんど興味を失ったようで、肩を竦めて去っていく。  とんでもない大きさの剣を持った戦士とアレイオンは目があった。その男はニッと怖い笑顔を見せて、手を振って壁に背を預けた。アレイオンはそれを後で会おうということだと解釈した。  ようやくに依頼の紙の前から人が引き出したので、アドラスを先頭に一行も依頼の紙を覗く。人が“略奪者ども(レイダーズ)”と呼ぶアドラス達だが、全員読み書きができるという点で、こういう時は面倒な手順を踏まずに済んで楽だった。  依頼の紙はわざわざ他の紙より大きい紙が使われており、これみよがしに目立ちたいと主張している。紙がそう思うのは勝手だが、書いてる内容の素っ気なさは他の依頼とさして変わらず、ついでに胡散臭いので求心力に欠けている。  依頼内容は賊の討伐。ただし領兵の補助戦力の役割を大きく求める。報酬は前金で小銀貨120枚、生存でさらに小120枚。経費は出ない。冒険者の上位、下位は問わない。 「……んん。これがアレイオンの言っていた話か」 「あ、改めて見ると私達の値段に疑問が湧きますね。最近頑張ってたから特に」 「ちなみにアレイオン。この依頼受けた場合って儲かるのかい?」 「拘束期間による。生き残ったとして、馬に乗っていない傭兵を一月雇った場合における金額の、大体3分の1が報酬。食料が支給されないとした場合は考えたくないな。命の値段をどう付けるか……」  ……領主側は多分、この依頼を受けたやつが生き残ると想定していないだろう。領主はもっと出していて、どこかでピンはねされている可能性を否定はできないが……若いが従軍経験のあるアレイオンはそう思う。  補助戦力というのが補助兵だとしたら、正規兵の前に立つ可能性が高いので、さらに酷いことになる。 「よぅ。サー・アレイオン、サー・アドラス」 「エリセオさん」 「やぁ、エリセオ殿。貴方はこの依頼に興味がお有りで?」 「興味はあるけど、受ける気にはなれないねぇ。つーか、スマン。止められんかったし、上位・中位だけの仕事にするのも失敗した。胸糞悪いことになりそうで、神殿に行って祈るしかできん」  止めようとするだけ大したものである。軽い口調とは裏腹に東奔西走したのだろう。狩人帽もどことなくくたびれた印象を受ける。  アレイオンとて、この地にアルゴス国がちょっかいを出す取っ掛かりを作るのを防ぎたい……という程度のものだ。そこに関してはアドラスに頼んだ方が早かったため、アレイオンがしたことと言えばそれこそ兆候に気付いただけである。身でもって参戦する気は全く無い。  席を変えようと、再びあの騒がしい酒場へと移動する。大剣の剣士は後ろから付いてきているが、エリセオが何もしないのであれば彼もこの件を知るものの一人なのだろう。 「で、そっちはどうした? しがない平民としてはお貴族様の力ってのに期待しているんだが」 「周囲の領主に手紙を出しましたよ。兵は余っているので、それぞれの領地の守りは固めてくれるそうで。この地を起点に我らが国が蚕食されるのは、問題なく防げます。ですが、この地に関してはちょっと酷いことになりそうですね」  腰掛けた先から話が始まる。まぁそれは良い。我々の危険ではないし、実は国家の危機になるかも微妙だ。ただ現場に居合わせた者として、大公閣下への義理としてやるべきところはやる。アレイオンはそのつもりだが……彼の主はどう思っているだろうか?  相変わらず騒がしい周囲に気を取られていると、横に大剣使いが座った。 「……紹介して欲しいんですが、エリセオ殿」 「ああ、まぁ話すんならオレたちと同じ偏屈が良いと思ってな。上位冒険者のソテリィス様だ。人型をした相手の首を取るのが生きがいって物騒なやつだ。金にも興味が無いんで、ことが上手く行ったら連れて行こうと思って声をかけておいたんだが……」  無駄だったね、とぼやくエリセオ。  頭は剃り上げられていて僧侶を思わせる外見だが、そんな奇人とは思わなかった……横に座っているアレイオンとしては、若干恐ろしい。対面のレイアは泡を吹きそうな顔になっている。 「はぁ……よろしくお願いします。ソテリィス殿。騎士のアレイオンです」 「ああ」  ソテリィスの目には、曇りが無かった。どうやら下級だとか騎士であるとか、そうした物差しで人を測らない人物ではあるようだった。今回は縁が無かったが、いずれ世話になることも出来るやも知れぬ。  その顔を覚えつつ、アレイオンは話を続ける。 「あの依頼内容だと参加する者自体少ないでしょう? 領主はどれくらい兵を出すやら」 「そもそも相手の正確な数が把握できないからねぇ。100越えたぐらいかね? って相場に関しては騎士様の方が詳しいだろうがよ」 「大公閣下は小勢相手でも全力で潰す方針の方だったので……身分的にもあまり参考にはならないですな」  加えて言えば戦は大体が他領への応援だった。肥沃な土地と、潤沢な資産に、人材まで揃った大公領のやり方が、その辺りの領主と同じなはずもない。そして、助けられた側の兵力を知る機会はアレイオンには無かった。 「そんなもんなのか……ただ、冒険者は出るぞ。正確に言えば冒険者に登録しただけの連中がな」 「そ、それって……路地裏の人たちを無理やり、ってことですか?」  路地裏から出たレイアが複雑な心情のこもった声で言う。しかし、無理矢理とはまるで徴兵だ。領主が農民を徴兵するのは珍しくないが、仮にも冒険者に対してするのだろうか? 役立たずだけを抽出して減らしてもらう計算にせよ、前例を作れば後々余計な争いを生みかねない。 「なるほど……薄々そんな気はしていましたが、ここの冒険者ギルドって領主と……」 「ばっちり癒着してるな。組織なんだしそんなもんなんだろ。まぁ使えない連中を無理矢理送り出して、言われた通りにしましたって顔が出来る支部長の方が面の皮は厚そうだが。後は神殿も似たような感じで鼻つまみ者の修道士ぐらい送るかもな」  世の中とは面倒なものだな。この調子だとギルドは前金もピンはねしそうだ。  国の役人はどれくらい把握してるやら……アレイオンは大公領への報告書に書くことを頭の中で増やした。  路地裏の人間は気の毒なので、何かしてやれることは無いかなと考えていると横から野太い声がした。 「それで……いつ出発するのだ?」 「え?」 「依頼だと結構先だったよ。10日後だったかな」 「そうか、楽しみだ」 「楽しみだねぇ」 「……え?」  今、アレイオンは心底動揺していた。自分の主と奇人が意気投合している。いや、主も変人なのは知っているが。己も、そして多分エリセオも、領主の部隊の結果が出てから山賊もしくはそれに扮したアルゴス兵を少しずつ片付けていくつもりだった。  結果次第で領主の頭ぐらいは変わるかも知れないが、それで片付くはずだ。後は国の仕事の範疇だ。 「……え? 行くので? ……なんで?」  だからアレイオンは阿呆のように疑問符を繰り返した。アドラスが行くということは……アレイオンも行くということだ。

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