Destiny×Memories

Past.03 ~焔の揺らめき~

 ――まあまあ、緋灯(ひあ)ったら。火が怖いの?  ――仕方がないわね……。ほら、火はもうないわ。  ――ふふ、大丈夫よ、火はあなたの名前なんだから。  ――あなたを傷つけたりなんて、しないわ。 「……母さんは、嘘つきだ」  ふわりと意識が浮上する。いつの間にか眠っていたらしい。  起き上がり辺りを見回すと、ドアに寄りかかって立っているソカルがいた。  ……どうやらオレはまだ、異世界とやらにいるようだ。 「やっと起きたね、ヒア」 「おー。……ここは?」  ドアの方からオレが座るベッドまで近づいてきたソカルに、オレは尋ねる。 「修道院の部屋の中。君、あれから意識を失っちゃったから」  あれから……? ああ、そうだ。  そういえばオレは、目の前に居るコイツと『契約』とか言うものをしたんだったか。 「……なあ、『契約』したらどうなんの? なんか効果とかあるのか?」 「まあね。基本的には戦うときにお互いの感情に呼応して戦力が上がる、と言われてる」  た、戦うんだ、やっぱり……。 「……ん? 基本的には……ってことは、例外もあるってことか?」 「らしいよ。僕も詳しくは知らないけど……前にいた“双騎士(ナイト)”がそうだったらしい」 「前にいたって……じゃあそいつらがカミサマと戦えばいいんじゃん……」  なんでオレがわざわざやらなきゃいけないのだろう。  先代がいるならそいつらに任せればいいじゃないか。だってオレ、一般人だし。  内心で思わずそんな愚痴を零してしまうオレ。 「……うーん、それができるなら今頃やってるんじゃないのかな……」  先代についてはよく知らないらしいソカルもため息をついた。 「……でさ、ソカル。契約したら次はどーすんだよ?」  とりあえずため息ついていても埒があかないので、今後の予定を聞いてみる。  確かこういうのはボスを倒せば元の世界に戻れるとか、そういうオチなはず。 「神に会うために……王都を目指さなきゃいけない」 「王都? って県庁所在地みたいなあれか。カミサマはそこにいんの?」 「実際にそこにいるわけじゃないけどね。王都にある“神の祭壇”……そこに行けばいいらしい」  “神の祭壇”というまた胡散臭いワードに思わず顔をしかめてしまう。 「結局お前もよくわかんねぇってことか」 「仕方ないだろ、僕だってこんなの初めてだし」  まあそうそう体験できることではないよな。小さくため息をついて、オレはベッドから降りた。 「……んじゃー今から行くか……って、もう外真っ暗じゃん……」  窓の外を見ると、完全に日が沈んだ後だった。……オレ、どれだけ眠ってたんだよ……。 「出発は明日の朝だね」 「……だな」  ああ、何かやる気半減だ。元からそんなになかったけれど。  はあ、とふたたびため息をついて、オレはベッドに座る。 「寝ようにもさっきまで寝てたしなー」 「……それは眠れないね……。……じゃあ、聞いてもいいかな」  オレのぼやきに返事をしてから、ソカルはそう言った。 「何を?」 「さっき寝言で……」 「寝言!?」  うわ、オレ何言ったんだろ。慌てるオレを横目に、彼は続けた。 「……『母さんは嘘つきだ』って。……何かあったの?」 「え? ……あー……そういや今日は久々にあの夢見なかったな……」  代わりに見たのは幼い頃の夢だ。火を怖がるオレに、母さんは笑って火を消してくれた。  優しかった、母さんの夢。 「……あの、言いたくないなら別に」 「えっ!? あ、いやそういうつもりじゃないんだけどっ」  急に黙ってしまったからソカルは勘違いしたらしくて、オレは急いで首を振る。 「えーとな、ガキの頃の夢を見たんだけど……。オレ、ガキの頃火が怖くてさ。火を見るたびに泣きじゃくってたんだ。  それで母さんはオレがいるときは火を使わないでくれて……。火は怖くない、オレを傷つけたりしないって言ってくれて。  でも……母さんも父さんもその数年後、交通事故で……」  奇跡的に助かったオレは、燃え盛る車の中で焼け死んでいく両親を見ているしかなかった。 「その時思ったよ、やっぱり火は……怖いんだって」  よく見るあの夢でも、火は『オレ』の大切なものを奪っていくから。 「そう……。ごめん、何か……」 「え、いや、いいって! 気にするなよ! そうやって気を使われる方がオレは嫌だし」  急にしおらしくなったソカルに、オレはまた慌てる。  死神と言いつつ意外と人間味のあるコイツに、少し好感が持てた。 「ってか、オレはさっきまで寝てたから良いけど……お前、そろそろ寝ろよ。明日持たないぞ?」  オレがそう言って笑うと、ソカルも少し微笑んで頷いた。 「そうだね。そうする。おやすみ、ヒア」  もぞもぞとオレの隣のベッドにもぐって、ソカルは挨拶をする。 「おー。おやすみ」  オレはそっと笑って、電気を消してやった。  風力発電だというこの村にある風車の音が、静かになった部屋に響いていた。  +++  そして、次の日の朝。 「うーん、良い天気!」 「そうだね。絶好の出発日和だね」  清々しく晴れた空に、オレは思い切り伸びをし、ソカルも頷く。 「ほらこれ、お弁当。しっかりやるんだよ!」  そう言って二人分のお弁当を渡してくれたのはリーサさん。どうやら見送りをしてくれるらしい。  そのリーサさんの背後には修道院に住む子供たちもいて、みんな手を振ってくれている。 「がんばってねー!」 「カミサマなんてやっつけちゃえー!」  思い思いの言葉を口にする子供たちに、オレとソカルは笑いかけた。 「おー、がんばるがんばる。行ってきます!」  リーサさんと子供たちの声援を受け、オレたちはどこまでも続く草原を歩き出した。最初はとりあえず次の街に行くらしい。  二人旅って不安だけど……まあ、なんとかなるだろうな。  オレはひどく軽い気持ちで、前を歩くソカルの後を追った。  +++ 「――異世界の勇者が動き出したか……。アズールめ、余計な真似を」  どこかの場所で、黒い影が呟いた。 「どうしますか?」 「……ふっ。我らが手を下すまでもない。その辺の魔物に食われるだろう」 「ですが……勇者を守るために『奴ら』が現れないとも限りません」  別の黒い影の言葉に、リーダー格らしい影は笑った。 「それはそれで好都合だ。『奴ら』が……“守護者”どもが出てきた時……それが我らが動く時」  影は椅子から立ち上がり、言った。 「さあどう出る、【太陽神】の守護者ども……。くく……『神戦争』の始まりだ!!」  焔の少年は、揺らめいて。 (きみへ。そのキオクを、疑って)  Past.03 Fin.  Next⇒

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  • ユーシャ(えんどろ~!)

    絵村得留虎

    ♡300pt 2019年6月21日 20時16分

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    これは期待

    絵村得留虎

    2019年6月21日 20時16分

    ユーシャ(えんどろ~!)
  • 女子高生

    創音

    2019年6月21日 20時36分

    スタンプとポイント、ありがとうございます!期待と言っていただけて嬉しいです〜がんばります!

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    創音

    2019年6月21日 20時36分

    女子高生

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