Destiny×Memories

Past.48 ~災厄の日~(★)

 部屋の外が騒がしい。  そのざわめきに目が覚めたオレは、一緒の部屋で眠っていたソカルが武器を構え、外を警戒していることに気づいた。 「そ……」 「ヒア、静かに。 ……外で戦闘が行われているみたいだ。  詳しい状況はわからないけど……天使と【神】のチカラを感じる」  緊張した面持ちの彼に、オレも自然と全身に力が入る。 「……と、とりあえず……みんなと合流しないと」 「……だね。 ここでじっとしてても事態が好転するわけでもないし……」  ドア、開けるよ。 そう言ったソカルに頷き、剣を構えて不測の事態に備える。  そうして慎重に開かれた扉の先からは、微かに煙のにおいがした。 「っ!!」 「……これ……は……燃えてる……!?」  驚愕に目を見開くソカルの隣で、オレは焦燥感に駆られる。  燃える。 消える。 尽きる。  紅い、紅い、紅い……―― 「ヒア!!」  記憶の海に沈みかけたオレを引き上げたのは、焦ったようなソカルの声。  そのまま腕を引っ張られて、オレはハッと現実に戻った。 「っ!!」  先ほどいた場所に振り下ろされる剣先。  ソカルが助けてくれなかったら……とゾッとしながらも、オレは攻撃者に視線を向ける。  感情を宿さないような、機械的で冷たい瞳。 二対の翼を背に携えた天使が、こちらを見ていた。 「“双騎士(ナイト)”……破壊対象……処分開始」  剣をオレたちに向け、淡々とした声を発する天使。  先に動いたのは、ソカルだった。 「――“深淵よ,その業を以て彼の者を貫け! 『アビスドゥーイヒ』”!!」  闇色の魔法が天使を貫く。  けれど彼は痛覚がないのか、少しよろけただけだった。  間髪入れずにオレが斬り込むも、天使の剣でいとも簡単に受け止められてしまう。  それでも何度も剣を振るっていると、不意に新たな羽音がオレの耳に届いた。 「“双騎士”……破壊……」 「――っしまった、増援か!」  それは、戦闘音を聞きつけ集まってきたらしい他の天使たちだった。 みな目の前の天使同様に光を宿さない瞳をしている。 「これも……【神】に強化された、ってやつ……?」 「多分ね。 ……さて、どうしたものかな……」  背中合わせで言葉を交わすオレとソカル。  相変わらず趣味が悪いな、なんて呟いて、オレは得物を握り直した。  どうやって切り抜けるか。 ソカルに強めの魔法を使わせたらいいのだが……囲まれている今、オレ一人で詠唱中の彼を守り切るのは不可能だろう。  他に何か手は、と考えた……その時。 「――“閃光よ! 彼の者を焼き尽くせ! 『センテレオ・フィロー』”!!」  光属性の魔法が、オレたちの前方にいた天使の集団を薙ぎ払った。  そちらに視線を向けると、ディアナが【神剣】を構えながらオレたちの元へと駆けて来た。  それと同時に、オレンジ色の閃光が、オレとソカルの背後にいた天使を突き飛ばす。 「ったく、どうして城の中に天使がいるのよ!」  オレンジ色の閃光……つまりナヅキは、見事なドロップキックを決めて着地しながら、突き飛ばした天使を睨んでそう吐き捨てた。 「ヒアさん、ソカルさん、大丈夫ですか!?」  更にディアナの後ろから、リブラとフィリが顔を出す。  仲間たちの無事な姿にほっと息を吐いていると、ディアナがオレの隣に並び立った。 「外から【神】のチカラを感じる。 おそらく【神】と……夜が交戦しているようだ」 「夜先輩が!?」  襲いかかる天使を切り捨てながら告げられた言葉に、オレは目を見開く。  何としてでも合流して、彼を助けよう。 握り締めた剣を今一度振るって、みんなにそう提案しようとした……けれど。 「……っ!!」 「炎が……!!」  天使たちの相手に手こずっていたからか、いつの間にか炎がすぐ近くまで来ていた。  ……燃える、燃える。 焼け落ちる城、遠くから響く剣戟の音、誰かの悲鳴。  それらにいつかの情景が、重なって……―― 『クラアト様!』  女の子のこえ。 走り去る彼女に、手を伸ばす。  行ってはいけない。 行かないでほしい。 死なないで、お願い……!!―― 「ヒア!!」  名を呼ばれ、ハッと我に返る。 ソカルがオレの肩を掴んで、心配そうな表情をしていた。  ゆるゆると辺りを見回すと、いつの間にか天使は消えていて、オレは床に座り込んでいた。 どうやらみんなが倒してくれたらしい。  ごめん、ありがとう、と言おうとするが、喉を空気が通るだけで音にならなかった。 「……立てる、ヒア?」  すっと差し出された相棒の手を握って、オレは立ち上がる。  ……息が、うまくできない。 「……とにかく外に出るぞ」 「炎は任せてくださいです!  ――“水よ,飲み込め! 『アクア』”!」  歩き出したディアナに頷き、フィリが水属性の魔法で前方の炎をかき消すのをぼんやりと眺める。  ……と、ソカルが握ったままだったオレの手を繋ぎ直した。  震えてるのは、オレなのか……それともソカルなのか。 「行こう、ヒア」  それでも彼は気丈に微笑んで、繋いだ手はそのままに足を踏み出す。  彼に引っ張られながら進むオレだったが、ふと先ほど脳裏に過ぎった少女を思い出した。 「あ……アメリ……」 「え?」  張り付く喉をむりやり動かして、オレは精一杯叫ぶ。 「アメリ……アリーシャ陛下、アリーシャ陛下は!?  助けないと……だって、だってまた……アメリ、アメリが……!!」 「落ち着いて、ヒア!  ……アリーシャ陛下なら大丈夫。 騎士の人たちが守ってくれるから」  オレの腕に手を当てて、真っ直ぐに見つめてくる紅い瞳。  ……燃える。 熱い、痛い、怖い……でも。 「ヒア、辛いだろうけど……今は耐えて」  相棒が、震えながらもそう言うから。 遠い過去を思い出して辛いのは、オレだけじゃないって……わかるから。  オレは彼に頷き返して、待ってくれている仲間たちの元へと駆け出したのだった。  +++  ――キンッ!!  剣と剣がぶつかり、甲高い音を出す。  【識神(しきがみ)】ミネルの攻撃を受け止め、オレは瞬時に距離を取った。 「……【魔王】……蛹海(さなうみ) (ヨル)よ。 なぜ人間などに加担するのです?  貴方もまた、人間を忌み嫌う者でしょう!」 「……勘違いしてもらったら困るな。  オレは確かに人間は好きじゃないけど……守りたい人たちもまた、人間……“ヒト”なんだよ」  ミネルの解せない、という言葉に、睨み返しながらそう答えるオレ。 「戯言を!」  けれどミネルは剣を振り上げ、無詠唱魔法を発動させた。  幾重もの光が落雷となって、オレに降りかかる。 「“ダークエンド”!!」  咄嗟に無効化魔法を放ち、(いかづち)を“破壊”していく。 (……まずいな)  【識神】ミネルは押さえられているが、他の【神】や天使たちは逃してしまった。  お兄ちゃんたちやヒアたちが対処してくれているといいけれど……。  そこまで考えて、オレは目の前の【神】に集中することにした。  お互い沈黙を保っているが……何らかの詠唱をしているのは間違いないだろう。  手に持つ【魔剣】スターゲイザーに魔力を込め、オレは青色を帯びた漆黒の翼を動かした。 「――“煉獄の闇,全てを破壊する剣となれ! 『フェーゲフォイアー』”!!」 「――“轟け,雷鳴! 『ブリッツ』”!!」  魔法を撃ったのは、同時だった。 しかしミネルの術の方が強かったのか、オレの闇色の魔法は光に飲まれてしまった。 「っ!!」  上空に飛び上がることでその魔法をかわし、体勢を整える。  そんなオレを見て、ミネルが嘲笑った。 「……所詮は元人間。【魔王】のチカラを上手く発現できていないのでは?」 「……そうかもね。 でも……そう思わせているだけかもよ?」  言いながらも、オレは手に力を込める。 「ディアナに……“オレ”を殺させたくないからね」  けどまあ、出し惜しみしてる場合じゃないか。 そう独り言ちて、オレは集中するために瞳を閉じた。  その隙をついて【識神】が雷の魔法を放ってくるが、それらは全て“破壊”されていく。  ……“性質・破壊”。 それは、【魔王】が持つチカラの象徴。 触れるもの、近づくもの全てを“壊す”チカラ。 (大丈夫……制御できる) 「っ【魔王】め……!!」 「――“終焉に紡ぐ鎮魂歌,我が魂によりて,彼の者の生命を……消し去れ! 『フィニス・ウィターエ』”!!」  【識神】の罵倒に耳も貸さず、オレは詠唱を完成させた。  最上級魔法ではないが、【魔王】のチカラを乗せたそれの威力はじゅうぶんすぎるほどだろう。  けれど、【魔剣】から真っ直ぐに放たれたその闇に染まった魔法を、ミネルは自身の魔法で覆い隠した。 「――“深き闇に閃光を,昏き暁に雷響を! 『ライジング・レイ』”!!」 「……咄嗟にそれだけの魔法が撃てるなんて……さすがは【十神(じゅっしん)】だね」 「お褒めに預かり光栄ですよ、【魔王】」  オレの賛辞を受け取り微笑んだミネル。  だが、お互いに武器を構え直し、オレたちは再度剣をぶつけ合ったのだった。  +++   「ヒア!」 「はあああッ!!」  ソカルの呼びかけに、オレは剣を振るった。 それは天使の体を貫いて、肉を斬る感触が剣を通して伝わり眉を顰めてしまう。  けれどすぐに気を取り直して、オレは別の天使へと斬りかかった。  背後からソカルの魔法が放たれて、オレを掩護してくれる。 「っていうか、キリなさすぎだろ!?」  あまりにも無尽蔵に現れる天使たちに、つい口から文句が漏れてしまった。  離れたところでは、ナヅキとフィリが天使と交戦している。 (誰かが囮になって……残りは夜先輩の元に行く……? でも、そんなの……)  思いついた作戦に、誰も犠牲にしたくない、と首を振った。  ……と、その時。 「【神殺し(ディーサイド)】……足止め……命令……」 「……えっ……!?」  天使の一体が、虚ろな目のままそう呟いた。  流れるように繰り出された剣撃を飛び退くことでかわして、オレは体勢を立て直す。  すると、近くでリブラを守っていたディアナが声をあげた。 「……ヒア! こいつらの狙いは僕だ! お前たちは先に行け!」 「ディアナ、でも……っ!!」  そんなのは嫌だ。 燃え尽きる炎の城の中に、誰かを残していくなんて……―― (『あの時』と、何も変わらないじゃないか!) 「……ヒア」  ふと、ソカルがオレの隣に並んで、剣を持つオレの手に自身のそれを重ねた。  伝わる感情。 恐怖と……それをも飲み込むほどの、信頼。 「ディアナなら大丈夫。 僕らが……僕らだからこそ、信じてあげなきゃいけない」  ……本当はわかっていた。 それが最善だと。 現状オレたちが取れる一手だと。  まっすぐオレを見つめる相棒の紅い瞳に頷いて、オレは全員に指示を出す。 「ナヅキ、ディアナ! オレたち三人で前線維持!  ソカルとフィリはリブラの傍で詠唱を! なるべく強めのやつを、前方の天使たちに向けて放ってくれ!  その直後、ディアナ以外は戦線離脱する! いいな!?」 「わかった!」 「了解!」  仲間たちはそれぞれ頷いて、指示通りに動き始める。  ちらりと横目でディアナを見ると、心配そうなリブラに話しかけられていた。 「……ディアナさん。 どうか、無茶はしないでください……」 「……約束はしかねるが……大丈夫だ。 僕は死なない」  だから、お互い生きて合流しよう。  そう言ってリブラの頭をぽんぽんと撫で、彼は前線へと走り出した。  オレは眼前の天使の攻撃を受け止めながら、ディアナに笑いかける。 「死んだら許さないからな!」 「それはこちらのセリフだ」  フッと笑みを浮かべながら、彼は天使の一体を切り捨てた。  それにしても、数が多い。 オレは逸る心を押さえながら、剣を構え直す。  ……すると、ソカルとフィリが同時に声を上げた。 「詠唱完了! 退いて!」 「同じく、です! いきます!」  二人の報告に、オレとナヅキ、ディアナは射線上から離れる。  瞬時に放たれる、闇と風の魔法。 「――“……生命(イノチ)の灯火,墜落せよ! 『テネブリス=アニマ』”!」 「――“……疾風,爆ぜよ! 『フルトゥーナ』”!! 」  それらは闇色の隕石のように、あるいは嵐のように、天使の軍団を一掃していく。  オレは声を張り上げた。 「今だ! みんな行くぞ!!」  それぞれ了解の意を返し、走り出すオレたち。  不安そうなリブラの手を、ナヅキが引いている。 その横にはフィリがついていて、後ろにソカル。 「……ヒア」  ふと、ディアナがオレを呼ぶ。 慌ててそちらを見やると、彼は薄く微笑んでいた。 「……リブラを、頼む」  告げられた想いに、オレの足は一瞬躊躇する。  けれど、その恐怖を押さえて、オレは「もちろん」と頷き返した。 「……ちゃんと生きて合流して……自分で伝えろよな!」  ディアナから伝わった感情は、きっとクラアトがアメリに抱いていたものと同じ想いで。  だからオレは、それだけを叫んで走り出す。 涙が自然と零れてしまった。 (ああ、だってあんな、今生の別れみたいなことを言うから!)  遠い過去に亡くした少女も、同じ言葉を告げていた。  いなくなってしまったら……もう、誰にも伝えられないのに。  +++ (自分で伝えろ、か)  ディアナは見えなくなった“双騎士”たちに安堵しつつ、はあ、とため息を吐いた。 (全く、余計なお世話だ)  天使たちの攻撃を受け止め、流し、反撃していく。  リブラという戦う力を持たない少女を守りながらでは……いや、ヒアたちの様子を見守りながらでは、十二分に動くことができなかった。  だから、天使たちが自分ひとりを狙っているのは好都合だった。  【神殺し(ディーサイド)】という“魔王由来の能力(・・・・・・・)”を、存分に発揮できるのだから。 「僕を“ひとり”にしたこと……後悔するなよ?」  【神剣】デイブレイクを握り直し、ディアナは薄く笑む。  そうして天使の一体を切り捨てながら、魔力を込めて詠唱を開始した。 「――“其は宵闇を照らすモノ,万物を灼き尽くす終焉の光焔……”」  天使がディアナに殴りかかる。 それを喰らいながらも、彼は呪文を唱え続けた。  たらり、と顔面から血が流れる。 けれど、青の瞳は輝きを増していた。 「……“祈りよ,救いなき世界に光あれ! 『フィランディウス』”!!」  それは、“破壊”を司る【魔王】をルーツとするチカラ。  目を焼くほどの閃光が、天使たちを“破壊”していく。  やがて誰もいなくなった廊下に、ディアナの荒い息だけが響いた。 (……さすがに、あれだけの人数の相手はキツいものがあるな……)  けれど、すぐさま息を整えた彼は、【神剣】を携えたままヒアたちのもとへ急ごうと足を踏み出した。  ……その時だった。 「……さすが、【神殺し】……。 あれだけいた天使を、倒しちゃうなんて……」 「……っ【森神(もりがみ)】アルティ……!!」  突如彼の背へとかけられる声。  ディアナが振り向くと、そこには緑髪の少年神……【森神】アルティが気怠げに立っていた。  +++  ディアナと別れたオレたち現“双騎士”組は、無事に城の出入り口まで辿り着いた。  道中で何度か天使に襲われたものの、これ以上誰も欠けることなく突破することができた。  出入り口のホールには、甲冑姿の騎士たちがいた。  ほっと安堵の息を吐いたオレたちに、不意に声がかけられる。 「君たちは……“双騎士”の方々ですね。 ご無事で何よりです」  そこにいたのは、夜先輩よりも濃い青の髪を頭上でまとめた女性だった。  身に纏う制服がフェリーネさんたちに似ているので、恐らく城の関係者だろう。 「えっと……あなたは?」 「自己紹介が遅くなりました。 私はキオ、と申します。  宰相ジルヴェスター・ロマネーナ卿の部下です」  首を傾げたナヅキに、彼女は「以後、お見知り置きを」と頭を下げた。 それに慌ててオレたちも自己紹介をし、情報を交換する。  キオさんが言うには、騎士団の人たちは城下町で民間人を守っているらしく、深雪先輩たちもそちらに向かったそうだ。  この玄関ホールにいるのは、戦う力を持たない使用人や文官たちで、いつでも外に逃げられるようにここに固まっているのだとか。 「外に逃げた方がいいんじゃないの?」 「外では四方八方から天使に襲われる可能性がありますからね。  これだけの非戦闘員をたった数人の騎士団員で守るのはさすがに限度が……」  ほら、と彼女が指差した先には、円形に固まる非戦闘員たちを守るように、その外側で周囲を警戒する甲冑姿……騎士団員の姿があった。  けれど、その数はあまりにも少ない。 優に百人は超えそうな使用人や文官たちに対して、騎士団員の数は十人ほどだ。 「……あ、あの、オレたちも……!」  そんな現状が不安で仕方なくなって、オレは思わず「ここで彼らを守る」と言いかけた。  けれど、キオさんはゆるゆると首を振って、オレの背中を思いの外強い力で押したのだった。 「君たちには君たちの使命があるでしょう。 それは、ここに残って彼らを守ることではなく、一刻も早く天使たちを退けること。  ……違いますか?」  まっすぐにオレたちを見つめるキオさんの紫色の瞳。  ……そうだ、オレたちが天使たちを倒さないといけない。 ここで天使を迎撃するのではなく、その根本を……【神】を、倒さなくては。  違わない、と頷いたオレに微笑んで、彼女は左側の通路を指し示す。 「あちらに城下町へと続く隠し通路があります。 この玄関ホールの扉は開けることができませんから……そちらから、城下町へと向かってください」 「わかりました!」  案内します、と言ったキオさんに連れられて、オレたちはその隠し通路の前に移動した。  彼女がステンドグラスで装飾された窓に触れると、魔法陣が描かれて……足元に、地下へと続くらしい階段が現れる。 「……私の案内はここまでです。 さあ、行ってください」 「ありがとうございます!」  オレたち現“双騎士”たちはそれぞれ彼女にお礼を言って、その階段を降りていった。 「あ、あの……っ! アリーシャ陛下は!?」  しかし、追手が来ないように、と再びカモフラージュ用の魔法が施されていく中、オレは振り返って彼女へと問いかける。  キオさんは笑って、「大丈夫ですよ」と答えてくれた。 「陛下には優秀な護衛がついていますから」  その言葉を最後に、キオさんの姿は見えなくなった。  +++  螺旋状の階段を降りると、その先は薄暗い洞窟になっていた。  控えめにランタンの明かりが揺らめいていて、フィリやリブラが怖そうに身を縮めている。 「そういえばさ」 「ひっ!」 「ひゃっ!?」  だからオレは、あえて関係のない話題で彼らの気を紛らわそうと声を出した。  しかし唐突すぎたせいか、フィリとリブラに短く悲鳴をあげられてしまう。  ソカルからジト目を向けられ、ナヅキに小突かれながら、オレは二人にごめん、と謝罪した。 「……で、何よ急に」  つまんないことだったら怒るわよ? なんて言いながら握り拳を作るナヅキ。  両手を上げて降参のポーズを取り、オレは「たいしたことじゃないんだけど!」と話を続ける。 「……この五人だけになるの、なんか久々だなって思っただけなんだけど……」  恐る恐るそう発言をすれば、リブラが手を胸元で合わせて「確かにそうですね」と同意してくれた。 「黒翼さんやイビアさんが加わるまで、私たち五人だけでしたものね」 「それから二人と入れ替えに深雪さんやソレイユさん、ディアナが加わったし……」 「朝先輩と夜先輩、それからマユカさんも加わって、いつの間にか大所帯になってたです」  それにナヅキとフィリも乗ってくれて、オレはうんうん、と頷く。 「だから、最初の五人だけってほんとに久しぶりだよな」  そう締めくくると、なんとなく全員が同時に視線をそれぞれに巡らせた。  伝わる感情、想い。 この先への恐怖や不安はあれど、みんな比較的落ち着いている。  それはきっと、一人ではないから。 先輩たちが、ディアナが、そして何より目の前のみんながいるから。  だからオレたちは戦える。 前へ進める。 「……行こう、城下町へ。 先輩の元へ。 そして……。  【神】を倒して、この街を救おう!」  ソカルを、ナヅキを、フィリを、リブラを順番に見回してそう告げれば、彼らはそれぞれの言葉で首肯してくれた。  歩き出すオレたち。 その胸に、決意を宿して。  +++  オレたちの話し声と歩く音以外は響かない、静寂が満ちる洞窟は、半刻もしない内に終わりが見えた。  木製の扉の隙間から、外の光と喧騒が漏れている。  オレは仲間たちに頷いて、それをそっと開けた。  ……途端に溢れ出す、耳を劈くような怒声。 泣き声。 悲鳴。 燃える音、戦闘音。  扉の先はメインストリートではなく、裏路地のようだった。  洞窟から出たオレたちは、物陰に隠れて大通りの様子を伺う。 「……なんか、想像以上に大変なことになってる……?」 「こんな明け方に戦闘が起こったからな……。 逃げ遅れた人も多いだろうし……」  顔色が悪いナヅキにそう答えるオレ。  本来なら昨日のように穏やかな朝を迎えるはずだった人々は、いきなり天使や【神】から攻撃されて混乱しているのだろう。  仲間たちに目配せをして、オレたちはメインストリートへと躍り出る。  瞬間、すぐさまこちらに気づいた天使が襲いかかってきた。 「っ!!」 「――“漆黒よ,彼の者の姿を飲み込め!! 『ニーゲル・シュルッケン』”!」  それを受け止めたオレの背後から、ソカルが咄嗟に魔法を放つ。 その闇色の術は、言霊通り天使を飲み込んで消滅した。  ナヅキとフィリもそれぞれ現れた天使の相手をしている。  リブラはというと、道端で倒れている人々に回復魔法をかけていた。  その彼女を狙うように、天使の一体が動く。 オレは走って天使の背後へと剣を振り下ろした。 「っ大丈夫か、リブラ!」 「は、はい……っ! ありがとうございます!」  怪我一つない彼女にほっと息を吐く。 そのままリブラには怪我人の治療を頼み、オレは襲い来る天使たちに剣を向けた。  ……しかし、そんなオレたちにふと声が降り注ぐ。 「あらまあ、今日は随分と少ないんやねえ、かわいい“双騎士”さん」  ハッと顔を上げると、微笑を湛えた女性が宙に浮かんでいた。 「っ【愛神(あいがみ)】アーディ……!」 「お久しゅう、この間はどうも。  あかんなあ、私の“性質”上、どうしても人間さんには優しくしてまうねんなあ」  心底困ったように眉を下げる彼女……【愛神】アーディに、オレは警戒したまま話しかける。 「だったらこんなことやめろよ! 無関係な人たちまで巻き込んで……っ!!」  だが、アーディはその言葉にはあ、と深くため息を吐いて告げた。  ……オレたちが知らなかった事実を。 「……あんなあ、今までそうしてたんやで。  無関係なヒトを巻き込まんといてって、私が無理を承知でゼウス様に頼んでたんよ。  ……けど、そんなこと言ってられんくなった。 君らがアイレスを、セシリアちゃんを、上位天使たちを倒すから」  言いながら、彼女は手に持つ杖をオレたちの方へと構える。 「やから、堪忍な。 こっちもなりふり構ってられへんのや。  君らは君らの使命を果たしたらええよ。 私は私の役目を果たすだけやから」  ひゅっと息を飲んだのは、ナヅキか、リブラか。  向けられる静かな敵意に、オレは無意識に後退ってしまった。 「戦おか、“双騎士”。 もう君らのこと新米やとか馬鹿にせんからさ。  ……お互いの使命の下、勝ったほうが正義や」  わかりやすいやろ? と微笑む【愛神】に、オレたちはそれぞれ武器を構え直す。  緊迫した空気が、朝特有の肌寒くも澄んだ大気と共に、王都を包み込んだ。  それは長い長い一日の始まり。  立ち向かうのは、過去と現在(いま)。  Past.48 Fin.  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