Destiny×Memories

Past.17 ~知りたがり~

 水中の空間で、うずくまる少年を見ていた。  ――ヒア……?――  そっと名を呼べばぴくりと反応を示すその身体に触れようと、手を伸ばす。 『……だれ、なんだろう』  しかしその手が届く前に、ぽつりと彼が呟いた。  ――……?――  きょとんと首を傾げれば、彼は再度言葉を紡いだ。 『オレの身体を乗っ取ったの、だれ……なんだろう。……お前じゃないのは、わかるけど』  そう言って顔を上げた彼の瞳は、かつての自分のように光をなくしていた。  ――ヒア―― 『なあ、お前は知ってるんだろ? あいつのことも、ソカルのことも……オレの、ことも』  思わず名を呟けば、ヒアは濁った瞳のまま真っ直ぐに見つめてきた。  夕陽を閉じ込めたようなその目は、少しだけ潤んでいるように見える。 『知りたいんだ、オレは。何も知らないまま身体乗っ取られて……そんなの、嫌だ』  だけど、痛いんだ、怖いんだ。そんな感情をこぼして、そのまま彼はまた俯いてしまった。  ――……だめだよ、ヒア――  ふわりと彼に近づいて、その紅い身体を抱き締める。  ――思い出せば、知ってしまえば、きみは壊れてしまう――  知らなくていいなら、知る必要などないのだ。傷付いてしまうくらいなら、いっそのこと目を塞いでしまえばいい。 (やっぱり世界は、誰にも優しくない)  そっと閉じた瞳に、オレは、まだ……――  目覚めには、至れない。  +++  不意に意識が浮上して、オレは辺りを見回した。 (何度目だろうなぁ、こういうの)  目の前には、オレンジ色の頭。……どうやらオレは、イビアさんに背負われているようだ。 「お、起きたか、ヒア」  相変わらずからから笑うイビアさんの声に、仲間たちが一斉に駆け寄ってくる。……ちょっと、怖いです。 「ヒアさんっ!! 大丈夫ですか!?」 「アーくん起きてよかったです……!」 「ちょっと、大丈夫なの?」  リブラに、フィリに、ナヅキに口々にそう心配され、イビアさんの背中から降ろされたオレは苦笑いを返す。  ふと黙ったままこちらを見ていたソカルと目があった。 「……気が付いてよかった、ヒア」  そっと笑う彼に、オレも曖昧に笑い返してからそっと視線を外した。  ……あれ? そう言えば。 「ってお前、怪我大丈夫なのか!?」  唐突に気を失う前の出来事を思い出し、慌てて死神を見やる。彼は驚いたような顔をして、こくりと頷いた。 「まあ、うん……。大丈夫、だよ」  僕は【死神】だから、人間より傷の治りが早いんだ。  そう言って苦笑いを零した彼に、オレはほっと息をつく。確かに彼は今普通に立っているし、どこも痛そうにしていない。  そう安堵してから次に思い出すのは、彼が呼んだ名前だった。 (あれは……誰だったんだろう? オレは……だれ、なんだろう……?)  ぐるぐると廻る思考に溺れていたら、一番近くにいたナヅキがオレの顔を覗き込んだ。 「……アンタ、ちゃんと起きてんの?」 「だ、大丈夫だって! ……心配かけてごめん」  怪訝そうにオレを見る彼女に、オレは笑いかける。  大丈夫ならいいんだけど、と歩き出したナヅキたちの後ろをついて行って、改めて気が付いた。 「……どこだ、ここ」  オレが気を失っている間に、どうやら場所を移動したようだ。辺り一面草原だったのが、いつの間にやら深い森に変わっている。 「見ての通り、森だなー」  隣を歩くイビアさんが、のんびりとした口調で答えてくれたけども。 「いや、それは見たらわかるッス。……まあ、どの辺とか言われてもさっぱりッスけど」 「だろうなー」  ははは、と笑う先輩にため息をつきかけた、その時だった。 「いいいい、イビアさああああんっ!!」  女性陣と一緒に前を歩いていたはずのフィリが、泣きそうな顔でオレたちの元へ駆けてきた。 「どうしたんだ?」  きょとんと首を傾げるイビアさんに、フィリはわたわたと前方を指差した。 「ひひひ、ひと!! 人が倒れてるですよぉぉぉっ!!」 「……えっ」  そんなのさすがにオレもどうしようもないんだけどなー、なんてぼやきながら、フィリに引っ張られてイビアさんとついでに黒翼が、人が倒れているという場所へ連れて行かれた。  オレは何となく離れた場所を歩いていたソカルを横目で見やる。どこかぼんやりとした風の彼は彼なりに、何かを考えているんだろう。  オレが知らないソカルのこと。ソカルが知っている『オレ』のこと。  思えば思うほど、知りたいし、同時に胸が痛くて仕方がなかった。 「……ソカル、あのさ……」  意を決して彼に話しかけようとした、瞬間。 「何でお前がここにいるんだよぉぉぉぉっ!!」  イビアさんのものと思わしき絶叫が、森に響いた。  何とも言えない空気になって、オレたちは顔を見合わせた後みんなの元へ走り出した。 「い、イビアさん? どうしたんスか大声出して」  仲間たちの元へたどり着けば、ぐったりしている茶髪の青年の肩をイビアさんがすごい形相で掴んでいた。  当然、ナヅキたちは引いている。黒翼もなんとも言えない顔をしている辺り、もしかしなくてもこの青年は。 「……お知り合いッスか?」 「あー、まあ、うん……」  遠い目をする先輩に首を傾げつつも、死にそうな顔をしている青年に目をやる。 「あの、その人どうしたんスか? 死にそうな顔してますけど……」 「……お腹、空いた……」  オレが青年を指差したのと同時に、彼がぽつりと呟いた。  ……つまり、どうやら彼は行き倒れらしい。  +++ 「迷子になった挙句行き倒れとか、お前なんていうか……意外とバカなんだな」  あれからオレたちの食糧を分けてあげ、少し元気を取り戻したらしい青年にイビアさんが辛辣な言葉を投げかける。  ……もしかしなくても、仲はあまりよろしくない感じなのだろうか。 「バカとは失礼だね。迷ったことは認めるけれど、仕方がないだろう。  こんなに深くて複雑な森なんて、生まれて初めてなのだから」  何とも独特な口調で話す青年に、イビアさんと黒翼さんは揃って盛大にため息をついた。 「ため息なんて吐くと、幸せが逃げてしまうよ?」 「だ・れ・の・せ・い・だ・よ!!」  飄々と言ってのける青年の頭を叩こうと、イビアさんが手を振り上げた、その次の瞬間。  ――ドォォォン……!! 「……ッ!?」  青年を囲むようにして座っていたオレたちの背後で、巨大な雷が落ちる。  驚いて振り向けば、離れた場所で黒焦げになって倒れている魔物の姿があった。 「……やれやれ、この森も物騒だね」  その声に視線を青年に戻すと、いつの間にか立ち上がり片手を前に出すように構えた彼は、困ったように笑っていた。 「……物騒なのはお前もだけどな、相変わらず」 「嫌だなあ、僕は君たちを守ってあげただけじゃないか。  そこの吸血鬼くんはともかく、君たち、あの魔物に気付いていなかっただろう?」  イビアさんのツッコミに、青年は今度はからから笑って言い放った。  どうやらあの魔物を倒したのは、この茶髪の青年らしい。  ……よくわからないけど、魔物を一撃で倒すって、相当強いんじゃ……。  呆然と彼を見つめるオレたちに気付いた青年が、ああ、と手を叩いて微笑んだ。 「自己紹介が、まだだったね。……僕は、ラン。ランナイア・グロウ。  ……よろしく頼むよ、新人“双騎士(ナイト)”諸君」  ……そう名乗った青年に、オレの中にいる《彼》もまた、微妙そうな反応をした気がした。  Past.17 Fin.  Next⇒

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 嘘つきな僕と残念な幼馴染のじれあま物語

    ♡19,200

    〇155

    恋愛/ラブコメ・連載中・1話 時雨オオカミ

    2020年4月22日更新

    画家を目指している『僕』こと『斎宮 雪春(いつき ゆきはる)』はオタクである。しかしそれを隠してただの地味な男子生徒を演じている――そう、幼馴染以外には。 そして幼馴染『雪染 蒼葉(ゆきぞめ あおば)』もまた、クールで容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と完璧無比さの裏に隠した不器用さとポンコツさを皆に隠している――そう、僕以外には。 互いの秘密を知っているが故に二人きりのときにだけは気を許す。 幼馴染ゆえに距離感が近く、なかなか両片想いしていることに気がついてくれない彼女になんとか自覚してもらいたい。 一方、彼女のほうも距離が近すぎて、異性として意識されていないだろうと思っていて……? お菓子のシェアは当たり前。あーんするのも当たり前。一緒の登下校も当たり前でなにも言わなくても意思疎通ができてしまう。 でも、『まだ』付き合っていません! そんな二人の共通認識はただひとつ。 「報われなくてもいいから、ずっとそばにいたい」 これは、「早く付き合え!」「結構式場が来い!」「どうしてお前ら付き合ってないの!?」と言われる嘘つき男子とちょっと残念な少女のじれあまな恋物語。 *1話だけ先行公開! 本編は裏で書き溜めが完結次第投稿開始致します。ご了承くださいませ! *現在書き溜め20話目まで完了。

  • ■私が傭兵として生きる理由:追加しました

    ♡242,600

    〇10,750

    異世界ファンタジー・連載中・158話 美風慶伍

    2020年6月4日更新

    【注:序文、第1章第1話をより読みやすく改訂しました】 【注:第1話:哨戒行軍任務/私が傭兵として生きる理由、追加!】 ■個性的な傭兵たちとのチームワークで少女傭兵ルストが人々のために勝利を掴み取る爽快冒険戦記ファンタジー 《主人公一人称形式:幕間/別幕と表記は三人称視点/1エピソード:1000字〜2500字/毎日午後7時更新》 ■国中を騒然とさせたモーデンハイム家令嬢失踪事件から2年後 ■17歳の少女ルストは屈強な男たちに囲まれながら傭兵として生きていた。だが初の隊長職を一人の不良傭兵に邪魔され、さらには彼女のプライドを傷つける事件が―― 「あたしの誠意とメンツを傷つけたなら、あなたの傭兵としてのメンツを叩き潰してあげる!」 不良傭兵と果し合い勝利したルストは、二つ名『旋風のルスト』の名と新たな任務を手に入れた。 西方辺境・ワルアイユ領。そこでのミスリル鉱石の横流し疑惑の極秘内偵任務。だがルストたちがそこで見たのは、領主の不慮の死と、対立領主からの妨害と、生活に困窮する領民たちの姿―― 塗炭の苦しみの領民たちを救うためルストたちは戦いに身を投じる。だが敵は想像を超えていた。 絶体絶命の窮地を前にしてルストは決意をする。そしてそれは人々を勝利へと導く偉大なる傭兵少女の誕生の瞬間だった。 ―傭兵の少女ルストは今、7人の仲間たちと共に勝利への道を歩み始める― 【本作品では、読者様キャラ化企画で造らせていただいたキャラが多数登場します。各話前文にてアナウンスします】 ■お知らせ 『【旋風のルスト】〜副読本 & ファン交流〜』を開始しました! 作品URL:https://novelup.plus/story/258792089 ・設定等を公開しています

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • めおと転生と読みます(゜∀゜)

    ♡112,900

    〇2,110

    異世界ファンタジー・連載中・40話 安東門々

    2020年6月5日更新

    一色善右衛門(九十三歳)十八年前に妻のリヱ子に先立たれ、そして、今日大好きな家族に見守られ息をひきとろうとしていた。 彼には願いがあった。 もし、生まれ変わることができれば、もう一度妻と一緒に暮らしたいと。 その願いは聞き届けられ、無事に生まれ変わることに成功した。 しかし、生まれ変わる直後、神は妙なことを善右衛門に持ちかけた。 「お主の妻は、手違いにより別の世界へと生まれ変わってしまった」 驚いた彼に対し、神はある提案をする。 「もし、もう一度一緒になりたいのならば、急ぎそなたも異世界へと向かってくれないだろうか?」 その言葉に善右衛門は力強く頷くのであった。 生まれ変わった善右衛門は、子どもとしてではなく、落盤事故で命を亡くした青年の体を借りることになり、急ぎ妻を探したが、誰が妻なのかわからない。 しかも、善右衛門が知っている世界とは違い、モンスターや魔人が存在し、人々を襲っていた。 そんな中、森を彷徨っていると旅の商人の一行が襲われているのを発見する。商隊はモンスターの脅威に太刀打ちできなかった。 一人の少女が必死に抵抗するも破られそうになっている。 しかし、善右衛門は手元に落ちていた木の棒を握り少女の前に立つ。 「援護頼めるか?」 「え?」 表紙絵 @concon777 きゃらこん/CaraCorn 様 ※ えっと、性的描写とか得意ではないので、あれですが、ぶっちゃけあまり出てきません笑 表紙と一話目のノリでは、絶対進みませんが、何卒ご理解していただけると幸です(*´ω`*) ※転載箇所※ こちらの作品は下記サイト様でも連載しております。 カクヨム 小説家になろう

  • シンプルに面白い設定を目指しました。

    ♡0

    〇0

    異世界ファンタジー・完結済・5話 富士加遊糸

    2020年6月5日更新

    性が生命エネルギーとして必要不可欠な世界で中性的な少年クリスは姉を女嫌いの男たちの集団WKM(women killing Mens)に殺害され、仇討ちのために世界を旅することを決める。