死なずのジャック

書いててのってしまったので中編と後編にわけましたがどちらもクライマックスです。

虚栄の式典(中編)

 階から跳び、手ごろな屋台の上で前回り受け身。止まることなくひょぃっと石畳の広場に着地。  窓辺のおっさんは、ジャック様の流れるような軽業に目を真ん丸にしている。  北側の演壇に向かう。  市民たちは混乱に巻き込まれないよう逃げるもの、踏みとどまって子爵に声援をおくるもの、野次馬根性で演壇に近づこうとする者とさまざまだ。  東、西、南の道は広場から出ようとする群衆と、広場に駆けつけたい憲兵たちがもみ合いになっている。  混乱は起こるべくして起きる。  俺の視界の隅っこを、老婆を背負ったヤギヒゲが走っていく。  事前の指示どおり通常の屋台より頑丈につくらせた牛乳屋のあたりに女子供を誘導しながら、けが人や老人をおぶってピストン輸送に忙しい。  戦闘で役にたたない男の使い道として最適だ。貢献にはいろんな形があっていい。  「ジャックって悪党を自称してるのにいい人」と指摘されることがある。冗談だろ。これから戦場になる場所で足手まといか人質にしかならない奴らを最初から一箇所にまとめておくと楽なんだよ。  ひとりにつき安全保障料名目で銅貨(ブロズ)くらいいただくつもりだからな。勘違いするなよ。俺は営利目的でやってるんだ。  再び演壇の上、実直を絵にかいたような憲兵隊長がセガサ・アタンの両腕を後ろにまわして手枷をはめようとしたのが見える。  捕縛寸前の危機にあるセガサ・アタンは演壇近くを警備していた子飼いの憲兵たちに視線で何かを合図した。  その視線に呼応したごろつき面の憲兵が石弓に矢をつがえた。狙いはチューボス子爵。10メートルちょっとの距離を外すことはない。  俺とは別方向から演壇に向かって走るのは息子のコンティニューの姿があった。 「父上、伏せてください!」  ダメだ。コンティニューに目を向けた分、チューボス子爵の反応が遅れた。  シュドッ  コンティニューが演壇にたどり着く前に、矢はチューボス子爵の胸を貫通。  息子に何かを託そうとしたのか口をぱくぱくさせたが言葉が出ないまま子爵は仰向けに倒れた。 「父上ーっ!」  演壇によじ登ろうとするコンティニューの襟首をハーフトロールの憲兵ザワーグが掴み、後方へ放り投げた。石畳に背を討ったコンティニューを憲兵達が取り囲む。あとは誰の刃を振りおろすかの些細な問題だけだ。  セガサ・アタンは公然と武力による権力簒奪に舵を切りやがった。  宰相からの裏命令書に子爵家を皆殺しにしろとあったのだから、実行が少し前倒しになっただけ。秘密裡にやる予定だったが目撃者(ギャラリー)が多少増えただけ。口封じは簡単だ。そのために憲兵隊の半数近くを自分の子飼いにしたのだから。  背後に忍び寄っていたハーフオークのフトーチョに蹴り倒された憲兵隊長が演壇から転げ落ちた。  趣味の悪いケバケバ衣装をまとった簒奪者は誰に遠慮することなく哄笑した。 「フハハハハハハハ。古きチューボスは死んだ。憲兵たちよ、そこに虫けらのように転がる未熟なチューボスも耄碌親父のあとを追わせてやれい」  街の規律と市民を守る憲兵隊まで卑劣な権力強奪に(くみ)した。  セガサ・アタンの凶行、王都の野心をとめる正義は(つい)えた。その通りだ。  正義はな。なら悪党はどうだ(・・・・・・)?  俺は腰に吊るしていたランタンを手に掲げて、赤黒い愚者の炎を大きく燃え上がらせた。  これは逆襲の合図。お前らキビキビ動けよっ!  死にかけのチューボス子爵の傍らに金髪の小姓が片膝をつき、重ねた白い両手を貫通口にあてて、少年のわりに高い声で叫ぶ。 「えーい、治癒っ!」  ぽわわわわわん  やわらかい光に包まれた子爵が上半身を起こす。 「わし、天界に昇ってたんだけど」  小姓が子爵に立つように促す。 「もうちょっと生きなさいっていう天使(わたし)の思し召しだよ」  小姓がウィッグをとると、より美しい金色の長い髪が小姓の背中に流れた。  よくやった、ガブ理恵。  狙われるのがわかってればこの配置は当然だよな。  憲兵がもう一度矢を放とうとする。  演壇の陰で様子をうかがっていたふとましい猫が  シャーーーーッ  と威嚇すると、憲兵は石化してゴトンと倒れた。  「石のように冷たく(ストーンコールド)」  マッコイ・ドラッグスは太猫フォルムから人間フォルムに変じた。演壇が途端に手狭に感じるほどのボリューム。 「魔法殺しの祝福にびびってたなんて大魔法使いとしてかっこわるいじゃない」 「おお、マッコイ様だぞ」 「我らが街の大魔法使い!」 「マッコイ様、そのインチキ政治顧問をカエルにでもしちゃってください」  へえ、市民に慕われてんのね。 「あたしの出番は今日はここまで。あとはこのワルそうな小僧がどうにかするわよ」  マッコイは正確に歩だけ進んでチューボス子爵とガブ理恵をむちむちした腕でハグし、 「歩きすぎて疲れたからあとよろしく。うんこもしたいし」  と消えた。  正直に『魔法殺し』に自分の魔法は効きませんと言わんか。  いくつもの悲鳴が上がった。ヤギヒゲが集めた女子供老人のいる場所をならず者系憲兵が武器を抜いて囲んでいた。ヤギヒゲはひしゃくを振り回して威嚇しているつもりのようだが、包囲網の嗜虐心を高めただけだった。  そうな、人質とるよな。でもな。 「ギャバァァァァァァ」  ババくさいスカーフで頭を覆い、黒縁の分厚いメガネの女が黙っちゃいない。 「むごたらしく死ね」  今日のメフィス子さんはたぎっております。  彼女の首に後ろから巻き付く鞭。 「ぐっ」  虚をつかれたメフィス子は鞭をゆるめようとするが鞭はますます首に食い込む。  魔法に集中した瞬間に頸骨を折られる。 「ここで手柄をたてれば俺もこの街の支配者よ」  子爵家の御者から政治顧問の犬にジョブチェンジしたドゥーリ・キャスゥは得意の鞭を手足のように操る男。  メフィス子がマジでピンチなのは間違いない。悪魔とはいえ『死なず』じゃないのだ。  しかし、俺は演壇から助けにはいかない。 「本物はここ。あんたが絞めてるのは幻術のあたし。馬鹿な男」  ドゥーリ・キャスゥの耳元で女の声がした。 「なにっ?」  振り向いた先には誰もいない。そして、 「でやぁぁぁぁぁぁすっ」  死角に回り込んだヤギヒゲが両腕で持ち上げた牛乳缶でドゥーリ・キャスゥの後頭部をぶん殴った。反射的に頭に手をやる。 「この野郎、そんなよわっちい攻撃で俺がやられるとおもっ」  ピュヒッ グギュギュギュ  ドゥーリ・キャスゥのそれよりも早く、強く、サディスティックに彼の首に巻き付いた黒光りする鞭。 「クラリッサ、ヤギヒゲ。あんたたちのしょっぼい時間稼ぎに対してとーっても忌々しいけどお礼を言うわ」   味方のはずのヤギヒゲの腰がぬけてその場にへたるほど、怖い目をした悪魔が近づいてきていた。   「作りたくもない借りを作った怒りと、お前の全細胞に対する憎しみはこれから晴らすとしようか」  演壇の上に上がってくるならず者憲兵達を次々と蹴り落としながら、俺はこれから起こる残酷絵巻(R-18)から目を逸らした。  一方で、コンティニューはならず者憲兵に囲まれて絶体絶命だった。俺が助けにいくとしたらこっちか。  武装した荒くれ集団に華奢な少年一人がかなうべくもない。彼らはそれぞれの欲望をぶつけ合い始める余裕さえあった。  「子爵の嫡男だか知らねえが弱っちい面してんな」  「おめえのかみさんよりは美人じゃねえか」  「ちげえねえ。ガッハハハハ」  「おい、こいつ殺す前にヤッてもいいか。そこらの商売女よりよさそうだ」  「待て待て。この肉はやわらかくてうまいそうだから食うぞ」  「湯がこうぜ。骨からキレーに肉がはがれる。」  「げ、これだから亜人(デミ)は。首斬ってからにしてくれよ。俺っちはセガサ・アタン様からいただくボーナスだけでいいからよ」  どの憲兵の手にゆだねられるとしてもコンティニューを待っている運命はむごたらしいルートしかないだろう。  これがダークファンタジーだよ! だからコンティニュー、もっと恐怖に顔をゆがめるんだ。  ……そういえば、ヒロイックファンタジーってジャンルもあるじゃん?  それになりそうなンだわ。    哀れな子爵嫡男をどう扱うか言い合ってたならず者系憲兵の首が次々と、発泡性ワインの栓みたいに飛んでった。  ぶしゅーっと噴きあがる赤や緑の血を浴びないよう高速這い這いで逃げ出すコンティニュー。 「簒奪者に尾を振り、主君のご嫡男に無礼をはたらく外道ども。エグベード・ヤッチマイナーの剣は本気で怒っておるぞ」  憲兵隊の制服を鎧の上から着こむ鎧フェチ。その兜の奥からのぞく双眸には多勢に無勢なにするものぞ、の光が宿ってる。  30人ほどのならず者系憲兵がエグエグを数で押し潰さんと迫る。気合だけでどうにかなる数じゃねえ。 「チューボスの街に忠誠を誓う憲兵たちよ、逆臣の靴を舐めるクズどもから偽りの隊服をはぎ取るのだ!」  憲兵隊長の号令一下、子爵家に元から仕えている憲兵たちが鬨の声をあげて、悪しき新参兵たちに襲い掛かった。  乱戦である。強力な亜人を擁するならず者系やや有利。 「大陸最強のウィザード、ジャック様の魔法を味わいな!」  演壇の上から剣をぶつけあう戦士たちに最強の魔法を発動させた。  牛乳を腐らせる魔法。  ならず者系の奴らの半数近くが腹を押さえ、尻に手をあてたり、両腿を固く閉じ始めた。  武器をふるう力は半減、防御する力はもっと減退した。  なにせ下っ腹が緊急事態だからなあ。  ヤギヒゲがふるまった牛乳は戦いの帰趨を決めた。  一方的な展開になった。腹を下さなかったならず者系憲兵、いや今やただのなららず者たちも敗色を察知するや広場から逃亡していく。追う子爵派憲兵たち。  お、フトーチョとザワーグは残念、生きて逃げ延びやがった。    ヒュン  数度目の突きが目にもとまらぬ速さで迫り、同じスピードで戻っていく。  こうしていろいろな実況をしながら、セガサ・アタンのレイピアのお相手をしていたわけで。  もう自分の戦いに集中してもいいだろう。  魔法殺しの祝福を受けたもの(ブレスド)、セガサ・アタンの野望を打ち砕く時がきた。

次回、虚栄都市編完結。 10万字超えてたデス。

この作品をシェア

Twitterでシェア Facebookでシェア このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


  • 女子高生

    鳥越ホクト

    〇20pt 2019年9月10日 7時23分

    ガブ理恵さんNice boat. 作者さんすらも忘れていたように見せかけていたのはこの為だったのですね! 敵を騙すには味方から騙せってことですね。納得しました。

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    鳥越ホクト

    2019年9月10日 7時23分

    女子高生
  • 探偵

    毒島伊豆守

    2019年9月10日 8時05分

    ありがとうございますホクトさん! 伏線は拾わないと気が済まない性分なので

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    毒島伊豆守

    2019年9月10日 8時05分

    探偵
  • 女神官

    ユキ

    ♡100pt 〇10pt 2019年9月11日 11時42分

    あのスタンプ続くと中々ホラーなのでは……と思いながらも投下。 合間合間に読んでいるのですが中々追いつく兆しが見えませんね。 もっとゆっくり書いてくださってもいいのですよ?^^*

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    ユキ

    2019年9月11日 11時42分

    女神官
  • 探偵

    毒島伊豆守

    2019年9月13日 1時00分

    ユキさん、3連続応援感謝です! 話数多くて恐縮です。ゆっくり読んでくださってもそれだけでありがたやなのです!

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    毒島伊豆守

    2019年9月13日 1時00分

    探偵
  • ユーシャ(えんどろ~!)

    浅田コウタ

    ♡1,000pt 2019年7月29日 20時00分

    バトルシーンが軽快かつそれぞれの魅力がしっかり出ていて、読んでいて楽しいと感じました! ガブ理恵もメフィス子も特技を発揮していましたね。 さあ、最後はジャックが活躍する番でしょう。楽しみです! 話は変わりますが、伊豆守さんは電王お好きですか?^ ^

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    浅田コウタ

    2019年7月29日 20時00分

    ユーシャ(えんどろ~!)
  • 探偵

    毒島伊豆守

    2019年7月29日 21時27分

    いつ打ち切りになってもいいように全力で書きます!ありがとうございます! 平成ライダーは大好物です!! 電王はディケイドの次に好きです(他にも同率2位がたくさん)

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    毒島伊豆守

    2019年7月29日 21時27分

    探偵
  • ファイ(えんどろ~!)

    彼岸明

    ♡500pt 2019年7月9日 21時59分

    牛乳にそんな使い道が! ジャックの魔法、なんてピンポイントで嫌がらせみたいな魔法なんだ…w これはたまったもんじゃないw

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    彼岸明

    2019年7月9日 21時59分

    ファイ(えんどろ~!)
  • 探偵

    毒島伊豆守

    2019年7月9日 22時09分

    KOEIのゲームにあるような火計の術みたいな感じで兵力半減みたいな効果です

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    毒島伊豆守

    2019年7月9日 22時09分

    探偵
  • 男戦士

    凸助♪

    ♡500pt 2019年7月9日 19時47分

    牛乳を腐らせる魔法!今日食らっちまったよー ノーコンティニューでクリアできなかったぜー(意味わかんねー

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    凸助♪

    2019年7月9日 19時47分

    男戦士
  • 探偵

    毒島伊豆守

    2019年7月9日 22時02分

    お大事に! 感謝です

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    毒島伊豆守

    2019年7月9日 22時02分

    探偵