死なずのジャック

悪魔娘の決意

 黒土の道に刻まれた最も新しい馬の蹄の後を追うと、やはり祝福の神殿に入っていったようだ。  入口付近まで来たところでメフィス子が急に止まった。悪魔の身体能力は人並み外れてる。これくらい駆けたところで息があがるわけないんだが。 「正門焼き落として破壊活動(カチコミ)やんねえの?」  銀髪の悪魔は苛立ちを隠さずに爪を噛んだ。 「苦手なの」 「あ」  忘れてた。悪魔は神々の加護を得ている神殿や聖域を嫌い、足を踏み入れたがらない。 「ガブ理恵(あの子)たちを攫われてカッとなって来たけど、この中じゃあたし無力よ」  当然悪魔の力は極端に制限される。神殿内に入るだけで人間以上に心身を消耗するのだ。  ほら、あんたも経験ない?   どうしてそんなに陽気なの?ってなパリピだらけのクラブに放り込まれて分で帰りたくなったこと。  野球やサッカーで、敵チームサポーターが占拠するシートに陣取ってしまった時のいたたまれなさを。  そんな感じ。違うかな。まあ判断は任せる。こういうの、難しい問題だからね。  俺が言いたいのはメフィス子が神殿に入るのは相当の覚悟、下手すると存在が維持できるかわからんリスクがあるってこと。 「大丈夫?おっぱい揉む?」 「誰のよ」 「俺もお前(どっち)もないから無理か」  やめて火球は。熱いからやめて。電気もイヤっ。 「正直無理させたくない。ガブ理恵とジョナは俺と」  ガシャン ガシャン ガシャン ズデン 痛っ ガシャン ガシャン 「あいつらで取り返してやる」  エグエグが引っ張ってきた荷車の上にはヤギヒゲだけでなく、パオロとカトリオナの強張った顔もあった。 「あんたらさぁ」 「ジョナは私たちの大切な一人娘です。宿で待ってるなんてできません」  カトリオナが俺の拒否を想定して先手を打ってきっぱりと言い切る。 「はっきり言うけど、あんたを人質にでもとられたらやりづらいんだよ。それにジョナの、ガブ理恵もそうだが……安全を確約はできねえよ」  言いづらいことは先に共通認識にしとく。世の中そんなに甘くない。ましてやこれはダークファンタジーだ。 「だから早く行きましょうって言ってるんですよ」  荷車から飛び降りたカトリオナは俺の横を獣のような速さで通り抜け、正門を守っていた神殿戦士に近づくや、 「キエエエーイッ」  バキッ   と飛び廻し蹴りをきめた。  危ないと思い、彼女のあとを追った俺たちはぼーぜん。  唯一人、驚かなかったパオロが戦士から斧槍と盾を奪い取り、ヒュッヒュッヒュと斧槍を使い慣れた様子で手になじませた。 「ジョナが生まれるまではわたしら傭兵やっとりまして」 「はあ……」 「腹は出ましたがまだまだやれますよ」  十数年前の荒武者の面影がチラリと浮かぶ。 「ヤギヒゲ」 「はい、ボス」 「お前の出番食われるぞ」 「あっしも同じことを考えてました」  メフィス子の繊手が静かに俺の肩に置かれる。 「あたしも行くわ。このメンツ、物理攻撃しかできないじゃない」 「でも悪魔的には、『駄天使も幽霊も退場してヒロインはあたしだけになるのね。ホーホッホッ』じゃないのか。いや、俺個人としては複数ヒロイン制がいいに決まってる……じゃない、悪魔が神殿に入るなんて自殺行為だ」  端正な悪魔の美貌……これに人間はコロッと騙される。今のその顔は騙し無く、理不尽な拉致への怒りだけが刻み込まれていた。 「今晩限定でMに転向したのよ。魔法の発くらい撃てるけど、もし途中で動けなくなったら遠慮なく置いてって。放置プレイ体験してみたいから」  悪魔娘の決意。逆らえる雰囲気じゃなかった。

よりライトな文量でサクサク読めるように心がけていきます。 引き続きよろしくお願いします。

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