死なずのジャック

タイトルは誤字ではありません。

太魔法使い

 大魔法使いの正体はデブ猫? 「人間の姿を基準にしている時点であんたの見識の狭さがわかるわ。今は多様性の時代よ、多様性の」  猫、いや大魔法使いマッコイ・ドラッグスは俺が差し出した手紙を咥えると、でかいケツをふりふりしながら部屋の奥へと移動した。 「ちょっと読ませてもらうわ」  デブ猫の輪郭がぼやけて広がっていくと、はんぱなくでっぷり太った人間の姿に変じた。男にも見えるし女にも見える。  ふとましさが性別を超越してる奇跡がここにあった。  超ゆったりしたサイズの紫の長衣(トーガ)をまとっている。何メートル分の布が必要だか想像もつかない。  太いみちみちした小指を立てて、召喚(でてこいや)と詠唱するや、巨大スライムがどでーんと瞬間移動してきた。  彼? 彼女? は「ふう」と息を吐くとスライムの上にデーンと横になる。  発声器官のないスライムの「ぎょえっ」が聞こえたような気がした。  あのー、剣や斧でも切れないくらい弾力性をもつスライムが紫のおばけの体重でちぎれそうなんすけど……。  悪党の俺だってスライムに同情する。そんな光景だった。 「この姿だと歩以上歩けないのよね。魔法使うには最適な形態(フォルム)ではあるんだけどさあ」  歩ってトラヴェリングかよ。ちなみにバスケはこの世界にはない。 「ん、ポテチ」  またも太いみちみちした小指をたてて、大きなボウルいっぱいのポテトチップを召喚した。  バリバリバリバリ。  口で食い終わったっていうか流し込んだ。  ポテチは飲み物! 「ん、山のしずく(マウントデュー)」  またも召喚。ダイゴローサイズというこの世界ではオーガーやトロールが使用するサイズのジョッキに並々と注がれた薄黄色のシュワシュワ飲料。  マッコイ・ドラッグスは普通の大人なら本指を通さないと持てない取っ手に太いみちみちした指を本なんとか通して一気にあおった。  ゴキュゴキュ プッハー  使い終わってポイポイ投げ捨てられた皿やジョッキは床に落ちる前に消えてしまう。 「封蝋はそのまま。あんた、マズググローの手紙を盗み見しなかったようね」  呆然としてる俺は 「あっ、はい」  とこたえるのがやっとだった。 「ふーん」  なにがふーんだかわからんが、マッコイは俺たちを無視して手紙に目を通し始めた。 「なあ、コンティニュー。状況を整理したいんだが。簡潔に、俺にわかるように」  この展開にキレッキレの俺の頭も少し追いつけてない。子爵家嫡男の優男に説明してもらおう。 「はい。知っていることは何でも」 「なんで大魔法使いが敵対している子爵家の中にいる。お前は立場的に大魔法使いを探してつかまえる側じゃないのか」  コンティニューは驚いた顔をしてから微笑んだ。 「誤解です。チューボス子爵家と大魔法使いマッコイ・ドラッグスの間に敵対関係はありません。マッコイさんは子爵家のみならずこの街の危機を何度となく助けてくださっている大恩人です」 「それは妙だな。今朝俺たちがマッコイの家に行ったらゴロツキどもに襲われた。それを見届けて走り去った子爵家の馬車は無関係だとでも?」 「はい。それは父チューボス子爵の意向でも、僕の指示でもありません。その馬車に乗っていたのは」  コンティニューは両手を強く握り締めて吐き捨てるように 「セガサ・アタン。国王陛下の勅命によりこの街に政治顧問として派遣された悪しき者です」 「政治、顧問?」  クラリッサが顎に指をあてて首をかしげる。 「王国の各領地は貴族によって間接統治されています。統治者が重病または幼い場合、王都から派遣された政治顧問が貴族に代わって統治を代行するのです。しかし、父は健康状態に問題はなく、街を繁栄させてきた行政手腕の持ち主です」 「王都はあんたのパパが気に入らなくなった。首のすげ替えをしたいのね」  メフィス子が先に結論を言ってしまう。 「陛下はお心変わりなされた。南方辺境に対する軍事出動を最優先とし、この街を前線基地にしろとご命令された。南方とは友好関係を築けているのに、わざわざ血を流すことが必要とは思えません」 「俺は南方から来たが、王国と戦争する機運なんてゼロだったけどね」 「そうです。こちらから戦争をしかける理由がわからない」  コンティニューの柔らかい顔つきが悲痛に染まる。 「父は突然の命令に驚き、王都に事情を聴きに参じました。しかし、国王陛下に目通りを許されないどころか、宰相とその一派から『流血を嫌う惰弱な子爵は統治者に不適任』と嘲笑され、帰路の馬車には宰相の息のかかった政治顧問を同乗させられる屈辱」  宰相。もうひとりの『死なず』か。穏健派の貴族をぶち殺していい気になってやがるな。コンティニューの親父は体をまっぷたつにされなかっただけラッキーじゃね。 「セガサ・アタンはこの街に到着するなり内外から腕のたつ者を招集し、父の憲兵隊に無理矢理ねじ込みました。犯罪者や人間に敵対する亜人(デミヒューマン)もおかまいなしにです。治安を守る者が市民の財産を奪い、貿易の積み荷を掠奪するようになりました」 「ああ、ひどいモラルだよな。俺、昨日そいつらにぶっ殺されたもん」 「殺され……? 今やこの街はセガサ・アタンの虚栄心に蹂躙される街となり果てました。昨日、王都から馬車でセガサ・アタンに宰相の命令書が届きました」 「その馬車って、もしかしてお前ん()の馬車?」 「お恥ずかしながら。セガサ・アタンは子爵家を我が物として好き放題にしています。特に、御者のドーリ・キャスウは公然と『子爵家はもうおしまいだ』とのたまい、王都との連絡役を買って出る始末。父の威光は地に落ちつつあります」 「ドーリ・キャスウ……。覚えとくわ。殺したらすぐ忘れるけど」  昨日のリターンマッチですね、メフィス子さんったらヒロインがしちゃいけない目をしてますよ。 「だいたいわかった」  俺はぶっきらぼうに言った。  タカ派の宰相一派に追い落とされようとしているお人好しのハト派の悲哀。  個人的なリベンジ案件はいくつかあるが、政争は俺に関係のない話だ。  ゲーーーーーーーップ  部屋中に響き渡る下品な音で俺たちの視線は、再び紫色の脂身じゃなかったマッコイ・ドラッグスに注がれた。 「あら失礼。やっと読み終わったわ。マズググローの文章って硬くて長い」 「俺とメフィス子のこと書いてあったろうな?」 「『死なず』の呪い解除と上級悪魔の召喚でしょ。気が向いたらやってくれって」  クソジジイ! 「気が向かなくてもやってくれ。俺たちはその条件でここまで郵便配達したんだからな」 「できないこともないけど」  おっと! 初めてできそうなやつに出逢えたぞ。さすがは大魔法使い。 「あんたの『死なず』の力は昨日見たわ。セガサ・アタンが雇った憲兵ふたりにズタボロに斬られたのも、復活したのも」  あの現場にデブ猫がいたわけか。 「苦痛はガッツリ与えて絶対死なせない的な呪いはマジモンね。あまりの呪いの濃さにあたしの猫毛が逆立っちゃったもの」 「太魔法使いでも解除はできそうにない?」 「術式組むのが難しすぎるから五分五分。それをやるには条件があるわ」  だよな。金か? エグエグの貞操か? どっちでもいいぞ。 「コンティニューちゃんにこの街の状況は聞いたわね」  読者がだれてないといいけど。 「明日午後、セガサ・アタンは街の広場に市民を集めて式典を開くわ。そこでチューボス子爵から街の統治権をムリヤリ譲渡させるつもりなのよ」 「どうしろと?」  聞くまでもないが。 「ぶち壊すに決まってるじゃない」 「あんた、大魔法使いなんだろ。魔法でセガサ・アタンも奴の子飼いの憲兵もやっちまえばいいじゃん」 「とっくにやってみたわよ」  マッコイはドンとスライムソファにぶよついた肉まんみたいな拳を打ちつける。あ、スライムがちぎれたっ。 「でも駄目だったのよ! セガサ・アタンはねえ。『魔法殺し』の祝福を受けた者(ブレスド)なのよ。あたしの魔法は全て封じ込まれるの」  また『祝福』だよ。祝福を受けた者(ブレスド)ねえ。 「魔法使えなかったらお前、ただのデ」  むがががが 「魔法が通じないのはセガサ・アタンにだけよ。あんたを黙らすことはできるのよ」 「街のために立ち上がってくれたマッコイさんを僕の私室にかくまいました。街中を探させているセガサ・アタンもまさか自分の部屋の真上にマッコイさんがいるとは思わないでしょう」 「たしかにセガサ・アタンを倒すのは俺たちの方が向いてそうだ。マッコイが殺されたら俺たちの願いもかなわねえんだ。やってみよう」  一呼吸おいてコンティニュー・チューボスに訊く。 「これって王都に叛旗をひるがえすことになるがその覚悟はあるのかよ」 「何もしなくてもいずれ血は流れます。それなら反乱軍と呼応して立ち向かいます。父は僕が必ず説得します」  セガサ・アタンが強かったら、マッコイを荷車に乗せて街から逃げよう。いや、荷車が壊れるか? 「まあ、街の未来はお坊ちゃまに任せるとして、俺たち悪党は今からやれることをしよう」  クラリッサ、まずはお前の出番だ。

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  • 女神官

    ユキ

    ♡500pt 〇100pt 2019年9月6日 9時19分

    太魔法使いさんのmg並びに垂直抗力、摩擦係数の大きさなどがこれでもかと言うほど伝わってきました^^* これにはスライムさんにも同情を禁じ得ないですね。 そしてポテチは飲み物というパワーワード。 今回は笑いが多かったです^^*

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    ユキ

    2019年9月6日 9時19分

    女神官
  • 女子高生

    鳥越ホクト

    〇10pt 2019年9月4日 1時34分

    セガサ・アタンとドーリ・キャスウが悪者なのはショックなの。しくしく。こうなったらマアクさんに中ボスとして頑張って欲しいの。ところで褐色娘が好きかどうか聞かれてて答えそびれてました。すいません。褐色娘はビキニ水着の日焼け跡とのセットが好きです。カスタムメイド3D2の嫁イドがその仕様

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    鳥越ホクト

    2019年9月4日 1時34分

    女子高生
  • 女子高生

    毒島伊豆守

    2019年9月4日 8時34分

    先になりますがSE○Aだけではありません。わかりやすい特徴ある名前は家庭機かなと思った次第。褐色にご期待ください。ありがとうございます

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    毒島伊豆守

    2019年9月4日 8時34分

    女子高生
  • ユーシャ(えんどろ~!)

    浅田コウタ

    ♡1,000pt 2019年7月27日 20時22分

    今後の展開がとっても楽しみですね! スライムさん可哀想( ; ; ) ゲイム・ボウイさんとかはまだ出てきてなかったですよね? ゲーム機種の名前が出てくるとニヤリとしてしまいます。 とっても楽しいです!

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    浅田コウタ

    2019年7月27日 20時22分

    ユーシャ(えんどろ~!)
  • 女子高生

    毒島伊豆守

    2019年7月27日 20時29分

    浅田さん、スーパー応援ありがとうございます。 鋭いと申し上げておきましょう。

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    毒島伊豆守

    2019年7月27日 20時29分

    女子高生
  • ユーシャ(えんどろ~!)

    那珂 リボン

    ♡1,000pt 2019年7月7日 8時33分

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    にゃかにゃか良い

    那珂 リボン

    2019年7月7日 8時33分

    ユーシャ(えんどろ~!)
  • 女子高生

    毒島伊豆守

    2019年7月7日 11時54分

    那珂リボンさん、多大な応援をいただきありがとうございますっ 評価いただき嬉しいです

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    毒島伊豆守

    2019年7月7日 11時54分

    女子高生
  • 男戦士

    凸助♪

    ♡500pt 2019年7月6日 23時07分

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    いいぞ、もっとやれ!

    凸助♪

    2019年7月6日 23時07分

    男戦士
  • 女子高生

    毒島伊豆守

    2019年7月6日 23時12分

    凸助♪さん、いつもありがとうございます。よい週末を!

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    毒島伊豆守

    2019年7月6日 23時12分

    女子高生