死なずのジャック

引きこもり館の攻防(中編)

「館にこもっていても射殺せるってか。面白れえことしてくれるじゃねえか」  襲撃部隊の中に、凄腕の弓兵(アーチャー)が最低ひとりはいることってわかった。わざわざ教えてくれて助かった。  今の脅し効果抜群の一撃を見て、パニックになったアホは外に飛び出した途端に射殺される。  弓兵もすでに位置を変えているだろう。  次はどの方向から矢が飛んでくるのか、と館の中の俺たちを不安がらせるために。  しかし、弓兵は本命じゃない。あくまで、『館に獲物を閉じ込めておく』ためにいる。  刺客の本命は別にいる。遠くから射殺すのはダメなのだ。  獲物のすぐそばに立ち、命乞いの後に絶望と恐怖を浮かべた顔にさせてから殺すことが重要。  遠い辺境に逃げても、堅牢な館にこ引きこもっても、自分に叛意ある者は必ずこうなるのだと王都で喧伝する必要がある。  つまり死体か生首を大々的に晒す。  それを見た者は、王都から逃げ出すことの無意味さを知り、支配者に屈することを選ぶだろう。  外道の考えそうなこった。  なぜそこまで言い切れるかだと? 俺も『奴』だったら同じことを考えるからだよ。 「しっかし、誰だか知らねえがタイミングの悪い奴らだな」  俺たちが帰った後に襲ってりゃ目的達成は容易。俺は今頃はベッドで気持ちよく寝酒の両得だったのによ。  拾い上げたランタンの光が俺の顔を照らし上げる。 「ボス、今とってもワルそうなお顔してやしたぜ」 「そう? そうかもなぁ」  売られた殺し合いは買ってやる。その代金踏み倒すまでが俺の流儀よ。 「で、あっしはどこに隠れてやしょう?」 「隠れる場所はねえし、今回は逃げたり死んだふりできねえ相手だから」  ヤギヒゲの両眉が垂れ下がる。 「ボスはいまだにあっしが戦闘の役に立つと思ってるんでやすか」 「剣や斧が振るえなくても戦いようはあるだろう。ほら、この最終防衛ラインを死守するのはお前の役目だぞ」 「責任重大じゃありやせんか! そもそもどうやって戦えば」  傍らのワイン樽をコンコン叩く。 「敵が来たらこいつに火をつけると脅せ。中味はワインだが樽に『爆発危険』とでっかく書いといたから、敵さんは追い詰められたおっさんが自爆すると思ってくれるだろ。演技力がものをいうかけひきだからしっかりな」  死にたくない一心で結構時間稼ぎはできるだろう。そこへ俺が間に合えばなんとかなる。  なんとかならない場合についてもレクチャーしておく。紫色のあめ玉を見せる。 「やることやり尽くしても敵がひかなかったら、こいつを噛め。メフィス子特製の毒薬だ。30秒くらい激痛でのたうちまわってから死ねる」 「ひいいいい。思い切り苦しむじゃないでやすか。そんなやばいもんはボスが持っててくだせえ。」 「あのな、どんな死に方でも痛かったり苦しかったりするんだぞ。俺が言うと説得力あるだろう」  貧相なやせっぽちはその場にひざまづいて天を、いやここでは天井を見上げて祈るポーズをした。 「あっしはかみさんや子供、孫たちに囲まれてふかふかのベッドの上でなるべく安らかに逝きたいですや」 「人生設計バラ色だな、おい」  野盗くずれには土台無理な夢だ。  俺はヤギヒゲの目をしっかり覗き込んで言った。 「悪党は殺すか殺されるかの綱渡りしかできない生き物だ、『まだ今日も生きてる』でしかねえんだ。そこ忘れんな」  ヤギヒゲはこの戦いで死ぬかもしれんが、悲しむファンはいないだろう。  俺もメフィス子も一日くらいは忘れないでおいてやる。心配すんな。  さあ、おしゃべりも切り上げだ。戦いは迫っている。 「ボスはどうなさるんでっ」 「ランタン持って警邏。館をまわってくる」  クマママママママ  正面玄関のドアノッカーに扮していた魔法番熊(クマさん)が実態化したようだ。  正面から押し寄せる敵の一部と戦闘に入ったな。  クマッ  クママーッ  クマッシュ  凶暴な番熊と襲撃者の激闘を擬音で表現するとこうなる。  クマの重くて鋭い攻撃に攻め手は手を焼いているはずだ。  昨夜、自分が食らったからこそ言えるんだが、クマの一撃は簡単に人体を切り捌くから基本二撃目はない。  クマ公の出番だけで終わればいいが、敵は馬鹿正直に正面だけから攻めてくるわけがない。  扉裏、地下室へ降りる階段、廊下など各所にトラップを仕掛けながら、俺も移動を開始した。     クッ、クマッ!?  クマッ、クマッ、クマーッ  戦況に変化あり。なんとクマ公がおされている。    敵は相当な人数を繰り出してきたか、クマ公とやりあえる人外か。  クマ公が突破されたら、敵は直接館にとりついて侵入を図るに違いない。  一体どんな奴らだ。まだ敵の姿を目にしていないが騎士団の可能性は除外した。  馬の蹄、いななき、甲冑がこすれる音がまるで聞こえない。  ひたすら静寂に身を包んで押し寄せる敵は。おそらく汚れ仕事専門の傭兵か暗殺者グループ。   「それはついてるかも」  こっちも汚れ仕事にゃ馴れている。相手の出方も予測しやすい。むごい目にあわせてやるよ、ギヒヒヒ。 「ジャックゥ」  階からパタパタと駆け下りて、案の定階段を踏み外したメイド服の少女をキャッチする。 「どうした」 「メフィス子が急いできてくれって」  そういえばメフィス子の派手な攻撃魔法の音は一切聞こえてこない。  奴の身に何かあったのか。俺はガブ理恵を抱えたまま階段を駆け上がる。  マズググローじーさんの寝室。鎧戸を最小限に開いた隙間から館の外を見ている悪魔娘は、苛立ちと困惑のふたつの感情にはさまれていた。  入ってきた俺を見るや、忌々し気に近づいてきて「へへへー」と俺の腕の中で甘えるガブ理恵をじーさんのベッドに投げ飛ばした。 「どうした。ヒロインレースはまだ始まったばかりだ。まだお前にも勝ち目はある」  ぱちーんと頬を張られた。 「メタってないで外を見ろ!」  剣幕に圧されて鎧戸の隙間から外をうかがう。星明りのない夜でも職業柄、夜目は利く方だ。 「なに……」  魔法で殺る気満々だったメフィス子が攻撃をためらわせ、ステゴロ上等のクマ公がほぼ無抵抗のまま槍や矢を突き立てられ横たわる。  館の周囲を整然と取り巻いている静かなる襲撃者たちの姿を俺は見た。  ミルクと茶を注文した俺たちを歳児と笑った初老の農夫  賭け事に興じていたよく肥えた男  その相手をしていた猫背のじいさん  市場で安物のアクセサリーを値切ってたおばはん  神殿警備の衛兵  冷たいレモン水を売り歩いてた元気な娘  ごま塩頭の宿屋・酒場の主人  その他大勢(パンイチブラザーズ含む)  日の滞在中に見た顔、知らない顔。いずれも感情をなくしたうつろな顔はジョバン村の人々だった。  手に手に農具や武器、たいまつをもってしずしずと館に近づいてくる。  その先頭に立っているのは小さな赤いフード姿の少女。大きなバスケットを引きずっている。 「おじいちゃぁぁぁぁぁぁん、カーシャだよ。扉をあけてぇぇぇぇぇ」  しんと静まり返った館の前庭に、そしてかたずをのむだけの俺たちの耳に、その声は響き渡る。 「おじいちゃぁぁぁぁぁん、今日のご飯(・・)はおじいちゃんの手足の串焼きとねえ」 「おじいちゃんのおなかの中身で作ったシチューとねぇ」 「おじいちゃんの脳みそのパテだよぉ」 「きっとおいしいんだろうなぁ。カーシャ、食べたいなぁ」 「だから早く扉をあけてぇぇぇぇぇぇぇ」 ズッ ズッ   何人かが投石し、ガラスが割れる音が続く。だれもとがめない。だれもきにしない。  だって中にいるのは今夜のごちそう。みんなでおいしくいただきましょう。  魔少女に率いられた群衆は正面玄関の扉に迫る。

次回、「ヤギヒゲ食われる」にご期待ください。

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  • 女神官

    ユキ

    ♡400pt 〇50pt 2019年8月16日 12時26分

    ヒロインレース? ヤギヒゲの圧倒的勝利では? 少なくともヤギヒゲが死んで悲しむファンがここに一人いますよー^^*

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    ユキ

    2019年8月16日 12時26分

    女神官
  • 女子高生

    毒島伊豆守

    2019年8月16日 17時03分

    ユキさん、ありがとうございますっ 物語中ではロクな目に遭わないヤギヒゲ、読者の方にはウケがいいようです。 実は一番まともだからですかね。まともなほどファンタジーの世界では生きづらいかもです。 多大な応援深く感謝します

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    毒島伊豆守

    2019年8月16日 17時03分

    女子高生
  • ユーシャ(えんどろ~!)

    浅田コウタ

    ♡1,000pt 2019年7月15日 0時11分

    クママママ! ……うーんこの文章、クセになりそうです!

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    浅田コウタ

    2019年7月15日 0時11分

    ユーシャ(えんどろ~!)
  • 女子高生

    毒島伊豆守

    2019年7月15日 0時22分

    浅田さん、ありがとうございます!  クママママは熊の表現をどうするかと悩みに悩み抜いた結論でした。

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    毒島伊豆守

    2019年7月15日 0時22分

    女子高生
  • 男戦士

    凸助♪

    ♡600pt 2019年6月25日 23時52分

    戦闘描写が、隆慶っぽいですな。 次回、城之内死す ネタかな?

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    凸助♪

    2019年6月25日 23時52分

    男戦士
  • 女子高生

    毒島伊豆守

    2019年6月25日 23時56分

    それは誉め言葉!

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    毒島伊豆守

    2019年6月25日 23時56分

    女子高生
  • 女子高生

    Lance

    ♡500pt 2019年6月25日 19時03分

    ひえええ、何とという展開でしょうか! ヤギヒゲとジャックの会話も面白いし、ジャックの「悪党は~~」の台詞どこか説得力がありました。

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    Lance

    2019年6月25日 19時03分

    女子高生
  • 女子高生

    毒島伊豆守

    2019年6月25日 20時30分

    悪党は~は割とうまく書けたセリフかなーと思います(おお、自画自賛) 応援ありがとうございます。

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    毒島伊豆守

    2019年6月25日 20時30分

    女子高生
  • ファイ(えんどろ~!)

    彼岸明

    ♡500pt 2019年6月27日 20時32分

    ダークな展開はお手のものですね! シリアスな中にコミカルさあってドキドキしつつも笑いました やりにくい手を使う敵、ジャックどう出るか楽しみです!

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    彼岸明

    2019年6月27日 20時32分

    ファイ(えんどろ~!)
  • 女子高生

    毒島伊豆守

    2019年6月27日 21時21分

    ちょっと夜鷹風味だったかもしれません。つい地が出てしまったというか。ありがとうございます。

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    毒島伊豆守

    2019年6月27日 21時21分

    女子高生