サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持―

読了目安時間:6分

エピソード:45 / 58

Section6『感染』~時系列『現在』~

「常に、最悪を想定して生きろ。絶好の時でも最悪の可能性を忘れるな」エディ・バーンズは父、ヴィクターにそう教えられてきた。  つまり、起きえる事は起きる。その時冷静に対応できるように考える力をつけておけ、ということである。  だからエディのいる孤児院に大きな銃を手にした男たちが来て、自分の身柄を拘束しにきてもエディは少しも動じなかったし、逃げも隠れもするつもりはなかった。 「エドワード・バーンズくんだね? 大人しくしていればおじさん達は何もしないよ」  軍服の男がエディの目線のところまで屈み込み、にこやかに言う。  エディは愛用のおもちゃであるバットマンのフィギュアを抱くようにしながら、「ほんとうにですか?」と聞いた。 「あぁ。もし子供をなにかしたと言うならばたいへんな問題になりかねない。おじさんもそれは望んでいない。ついてきてくれるね?」  笑顔を絶やさないまま、男は願った。 「あの……ぼくは知らない人たちについていく義務はありません。反対に言うなら、おじさん達が何者かか教えてくれるならぼくはついていく権利があります」  男は目を丸くした。しかし、エディはその理由がわからなかった。  後頭をぽりぽり掻き「頭のいい子だな」と独り言ちた男は、次にこう言った。 「リ・アメリカ連合国の諜報部隊、ロバート・ジュア少佐だ。君のお父さんは全世界に多大な影響を与えたテロリストだ。同行を求めよう。エディくん」 ← 「あの子はしゃべったの?」  リ・アメリカ戦闘諜報軍の尋問室にて。クラーク司令は片手にコーヒーのマグカップを持ってジュア中佐にそう訊いた。 「えぇ。曰く、バーンズはときどき会いに来るが、居場所はわからないし自分もどこに居を構えているか訊いていない。とのことでした」 「なるほどね」  クラークはマグカップをジュア中佐に差し出した。 「クラーク司令。入ります」  ドアの奥からジョン・ヒビキ少尉のくぐもった声が聞こえ、クラークはコーヒーを一口すすった後「どうぞ」と返事をする。  戦闘服姿のジョンが入室した。ジュア中佐に目配せし、「中佐、お久しぶりです」と挨拶をする。 「ようジョン。相変わらず冴えない顔だな」ジュア中佐が軽口混じりに返礼する。  ジョンは「どうも」とあしらい、クラークに向き直る。 「あなた達は独自行動を取るんじゃなかったの?」とクラークは再びコーヒーを飲みながら言った。 「えぇ、その前にエドワード・バーンズと話したいことがあって」とジョンは返す。 「いいけど殺さないでね。あなたの恨みがある方のバーンズはヴィクターでしょう?」クラーク司令はにこりともせずに冗談を言った。 「わかっていますよ」と言うとジョンは尋問室の前に立ち網膜センサーを自分の目に当てる。 ジョンが尋問室に入室し、部屋に残ったクラークとジュア中佐が顔を見合わせる。 「何を話すのでしょうね?」とジュア中佐。 「バーンズへの足がかりかしら」クラークも釈然としない顔でつぶやく。 ←  部屋に入ったジョンは子供に向き直る。  父・バーンズの数十倍は小さいであろうその背中を屈めちょこんと椅子に坐っていた。  その前のテーブルにはバットマンのフュギュアが置かれていた。 「エドワードくんだね?」ジョンはなるだけ親しみをこめて訊いた。  エディは目を上げ、興味深そうにジョンを見る。 「お兄さんは?」 「ジョンと呼んでくれ。戦闘諜報軍で働いていて、特殊部隊の隊長さんをやっている」  自己紹介をするとエディの目に不安の色が浮かんだ。 「パパは……なにかしたんですか?」  おそるおそると言った様子でそう訊かれ、ジョンはすべてを話すべきか一瞬迷った。  この子供に対して父親がなにも話していなかったのは親心にあるだろう。そう思った時に、やはりバーンズもありふれた父親でそして目の前のこの子はバーンズの唯一の弱点だとあらためて知覚する。 「ジュア中佐から聞いたとおりさ。君の父親はいわゆるテロリストと呼ばれるモノだ」 「そうですか……」エディは棒読み気味に返事をする。 「すまないね。こんな話を……」  衝撃を受けているエディにジョンは心底申し訳ない思いだった。  そこでふとバットマンのおもちゃが目に入る。  おそらく父親がプレゼントしたであろうそのフュギュアはぼろぼろになるまで使い込まれていた。 「バットマン、好きなんだな?」  まだショックが収まっていない様子のエディに問いかける。  エディはうんと頷き、「スーパーパワーを持ってない所が好きなんだ」と返した。 「彼にもゴッサム・シティを救いたいという信念がある」  ジョンは自分でも驚くくらい自然に言葉が出てきた。エディは視線を上げ、ジョンの目を見る。 「彼は確かにただの人間で、攻撃されれば傷つくし、特殊な能力は持っていない。彼の動機はすべて『街から悪を一掃する』という僕くらいの歳になれば馬鹿馬鹿しいとすら感じさせる願望だ」  エディは黙ってジョンの話を聞いていた。 「そしてその強すぎる正義はより強大な悪を生み、強敵(ヴィラン)も出てくる。それでも彼は折れることなく立ち向かっている。……君の父さんと同じさ」  話しながらジョンはなぜか憎きバーンズの気持ちがわかるようになってきていた。 「僕らはジョーカーやトゥーフェイスと同じ、君の父さんにとっての悪なんだ」 「でも悪役にも目的はある……」  エディは笑いながらそう返した。  ジョンもにやっと笑い、 「そういうことさ」 「ジョンさんは、パパと会ったことがあるんですか?」  エディにそう訊かれ、この子の勘のするどさは父譲りだなとジョンは内心舌を巻く。 「どうしてそう思う?」 「パパと深く関わった人ってだいたいわかるんです。具体的には難しいんですけど、なんとなくわかるんだ。まるでパパの一部が感染(うつ)ったように……」  そういうエディの目はたしかにバーンズと同じ光を宿していた。 ← 「ありがとうございました。クラーク司令」  部屋を出たジョンは司令に礼を言う。 「おいジョン。今の話はなんだ? コミックオタクの無駄話かよ?」  ジュア中佐が素っ頓狂に声を上げる。  ジョンはフッと笑い、 「いえ、いいんです。おかげでバーンズを倒す踏ん切りがつきました」 「踏ん切り? あれがか」 「えぇ。司令『マニアック』の量産許可をいただきたい」  ジョンがジュア中佐から司令に視線を移しつつ言う。 「あれ、なかなかクレイジーなアイデアだけど本当にやる気?」 「「不可能を決めるのは心だ。何かをやれると心で思い描き、己がそれを100%思い描くことができれば、かならず実現する」……」  ジョンは目を瞑り尊敬している人が言い残した言葉を引用する。 「シュワルツェネッガーの言葉ね。わかったわ。あなたにも策があるなら許可しましょう」 「ありがとう、司令」  ジョンは礼を言い、部屋を後にしようとする。  部屋を出る直前、クラーク司令がジュア中佐に言った言葉をジョンは聞き漏らさなかった。 「彼、近い将来バーンズを凌ぐ我が国の驚異となりそうね」

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