サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持―

読了目安時間:4分

エピソード:47 / 58

Section7『闇の奥』~時系列『現在』~

 二〇三八年のこの世界においても、ソーシャル・ネットワーク(SNS)の人と人とのつながりというのは健在である。  誰もが携帯端末(デバイス)一つで過去を探れる時代。動画を見て感情を揺さぶられたり、絶景を写真という思い出として残したり、二四時間年中無休で世界中の人々がネットに集った。  中でも人気を博しているのが通称『アンダー・ログ』と謂われるニュースサイトである。このサイトは世界各地の政府が公にしない情報や事情を知ることのできる革新的なSNSだ。二〇一〇年から起こった人間兵器(ヒューマノイド)問題もこのアンダー・ログからの情報が発端だと言われている。匿名ユーザーによって人間兵器の製造方法(レシピ)が詳細に記録されていたのだ。  ミラ・クラークもジョン・ヒビキがこのアンダー・ログに投稿しているのを何度か見たことがある。ジョンは一ユーザーとして、アメリカの大暴動の有様を、想像をかき立てられる秀逸な文章力で報告していた。  時に面白おかしく、時にいたって真面目に構成される文章を見て、ジョンと同じくたくさん本を読んできたミラは敵わない、と思ったものだった。 ←  ミラは拷問を受けさせられていた。  静脈内注射により投薬され、皮膚を引き裂きたい苦しみに襲われている。喉はからからに渇き、口からは粘ついたよだれがたらたらと出ている。腕は後ろ手で縛り付けられ、どうにかできる問題ではなかった。  拷問室。尋問官が針が槍のように伸び尖った銃型の注射器を指で軽く叩いている。  部屋の薄暗い照明がその注射器の針先を鋭利に照らす。  まるで刃物だな、とミラは他人事のように思っていた。あぁ、自分はまたあのわけのわからん注射をされるのか。いっその事殺してくれれば。  部屋に巨体が入ってくる。巨体は部屋を見渡し尋問官に何事かを聞いていた。  そのやり取りは朦朧としたミラの意識には届かなかった。せいぜい、何かやり取りをしているなととぐらいに思っている。  巨体、バーンズは水の入ったペットボトルを取り出し、ミラのカサついた顔に思いっきりよくぶっかける。乱暴なかけ方ではあったが、それによりミラの意識は半覚醒にまで戻された。 「おいおい、死ぬなよ」バーンズがあざ笑う。 「殺してくれたほうが……よかった」ミラは息も絶え絶えに言った。 「そうはいかん。君を我が戦力として加えると言ったはずだろう?」 「ここで殺せ。あとで後悔するよ」ミラが強い口調で言う。それと同時によだれが糸を引きながら口から垂れる。 「そんな有様になって言うセリフか」 「死んだほうがマシだ」ミラは本心を口に出す。 「君は死を望んでいない」いくらかの間のあと、バーンズが切り出した。  バーンズは立ち上がり、弧を描くように部屋を回り始める。 「本当に、死を望んでいるのであればな……とっくに舌を噛み切って自害していると思うのだよ」 「……!」ミラはハッとする。この男のこういう図星をついてくるスタンスは本当に苦手だ。 「クラークくん、君を突き動かしているのはあの少年と同じ『生きたい』という衝動だ」  あの少年……おそらくジョンのことを指しているのだろう。 「だから彼は命乞いをした。他の者を蹴落としてまでも自分だけ助かろう、自分だけ生き延びよう、生き長らえろうとする生存本能。私は過去に戦場で同じモノを見てきた……」 「あんたにジョンのなにがわかるっていうの? ジョンの方がよほど上等だよ」  バーンズはやれやれと言った感じで苦笑する。 「ジョンはあたしたちの事を記録している。あんた……、バーンズの事もヴィック・バンのことも。世界を熱狂させるカリスマが裏でしていたことを国民が知ったらどうなることだろうね?」 「『アンダー・ログ』のことか」バーンズがつぶやいた。  ミラは意外に思う。バーンズのハイテク嫌いは世界中で有名な話だ。なのになぜ彼の口からSNSであるアンダー・ログの言葉が出るんだろう? 「あんたも見てるの? アンダー・ログ」ミラは驚きを隠せないまま言った。 「私がハイテクな手段は一切使わない人間と思っていたか? たしかに高度な技術はヒトの原始的感性を壊死させるものだと思っているが、使い方によっては武器のひとつにもなる」 「虫のいい理屈だ」 「あぁ、まったくだ」  バーンズは薄く笑ったかと思うと、次の瞬間には真顔に戻り尋問官に話した。 「彼女に『Aナノ』を注射しろ」 「了解」  バーンズはミラに向き直る。 「残念だったな私の()()()()()。君はここで――」  刹那、激震が室内を揺らす。 「ん、来たか。思ったよりも早い」バーンズはまるで予測していたかのように、薄暗い天井を見た。 「『Aナノ』を注射しておけ、急がねばならん」  尋問官に命じると室内を後にする。  今の激震、ミラは直感的にわかった。  そう、彼が再起したことに。そして、自分を助けに来たことに。

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  • みりたりステラ

    中村尚裕

    ♡2,000pt 2020年12月14日 21時53分

    バーンズ、技術に対するこのスタンスがツボに来ますね。 技術はあくまで道具であり、その潜在能力は使い手であるヒトによって初めてモノになるという独立独歩の姿勢と申しますか。なればこそ『カリスマの裏』もまた技術の活用のうち、ともなりそうです。 これからも頑張って下さい!

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    中村尚裕

    2020年12月14日 21時53分

    みりたりステラ
  • みりたりステラ

    玉屋ボールショップ

    2020年12月18日 23時23分

    毎度コメント&PTありがとうございます! 中村先生のその発言は今回だいぶ意識しましたね。これからもよろしくおねがいします!

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    玉屋ボールショップ

    2020年12月18日 23時23分

    みりたりステラ
  • 猫

    アサシン工房

    ビビッと ♡1,000pt 2021年12月26日 14時14分

    《「私がハイテクな手段は一切使わない人間と思っていたか? たしかに高度な技術はヒトの原始的感性を壊死させるものだと思っているが、使い方によっては武器のひとつにもなる」》にビビッとしました!

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    アサシン工房

    2021年12月26日 14時14分

    猫
  • みりたりステラ

    玉屋ボールショップ

    2021年12月26日 21時47分

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    みりたりステラ
  • バビロン(デンドロ)

    金椎響

    ♡100pt 2020年12月4日 21時13分

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    応援しています

    金椎響

    2020年12月4日 21時13分

    バビロン(デンドロ)
  • みりたりステラ

    玉屋ボールショップ

    2020年12月4日 21時39分

    ※ 注意!この返信には
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    これからもよろしくね!

    玉屋ボールショップ

    2020年12月4日 21時39分

    みりたりステラ

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