『復讐者達』
彼らは、王都に多数のアジトを作っていた。
なんの変哲も無い商店街にある店の1つ、その地下に極秘に作られた研究室も、そんな彼らの居場所である。
研究室にあるのは、多くの魔物のしたい、人間の死体、亜人種の死体。
数え上げればキリが無い死体の数と、異臭。
そして、実験対象の悲鳴、これがこの研究所にある日常だった。
そんな研究所の奥、復讐者達のリーダーであるガラゾフの部屋には1つの大きく丸い机と、5つの椅子があった。
それは、ある意味円卓にも似ている、主人も含め、ここに座る全ての人間が平等であるという証。
かつてガラゾフが求めた平等の精神を上手く表していると言えよう。
あくまで形だけのもので、その本質はガラゾフを絶対的主人と見て信奉する信者の集団こそが復讐者達の正体なのだが、それはそれとしてこの椅子には確かに意味があった。
そして、そこには既に、4人の悪魔が座っていた。
1人は長身、フランケンシュタインを思わせるように彼の体はツギハギで、かつその手には戦鎚を構えていた。服はボロボロで、浮浪者にも見えるが、その巨大な体が、彼がただの浮浪者では無いということを証明している。
体躯は3メートルを超えており、この部屋のドアが異様に大きいのは、彼の体躯に合わせた証拠とも言われている。
『破壊者』 ドゥルガ
彼はそう呼ばれていた。
2人目は女性、娼婦を生業にしているかのような厚い化粧と肌を露出させすぎなその衣装は、挑戦的に見る男を引きつける。
ブランドの髪と、豪華な宝石を身につけた彼女は、どんな貴族の夫人なのだろうかと思わせるほどの上品な色気を漂わせつつこの場にいた。
『娼婦』ヴェイダ
彼女はそう呼ばれている。
3人目は少年、赤いペストマスクを被ったその子供は、ぶかぶかな上着を楽しそうに弄んでいる。
足をせわしなくぴょこぴょこと動かし、まだ10代であるだろうその未成熟な体は、しかし一眼見て近づき難い雰囲気を体から発していた。
『悪医者』ゾルダ
彼の2つ名はそれだった。
最後は老人、彼女は見た目だけならごく普通の一般人だ。現に普段は商店街におり、名物老婆として子供や街のみんなに慕われている。
年齢は60代ほどだろうが、この時代の寿命から考えると十分に長生きと言える彼女は、それでもまだまだ元気であり、曲がった腰とその笑みは見る者を安心させるのだ。
だが、その本質は血に染まっている。
『???』アルメア
この4名こそが、集団の核であった。
「ねぇ、リーダーはまだ来ないの?ボクもう待ちきれないよ。」
「もう少し待ちなさい、リーダーはすぐ来るから。」
そう言うゾルダを、ヴェイダが優しく嗜める。
「あの人はいつも遅れて来る、そういう性分なのさ。わかってあげておくれよ。」
「・・・・」
アルメアがそう言うと、ドゥルガも同意するように頷いた。
「そっかー!リーダーが来たら何しよう〜ボクねぇ、最近良い亜人を見つけちゃってさ!良い泣き声なんだーソイツがさぁ!ボクもう我慢出来なくって出来なくって、みんなにも聞かせてやりたいんだよ!」
「そう?それは楽しみねぇ」
「ムチを打って!背中を焼いて!水に浸して!あぁあの子がキレイになっていく様をみんなに見せたいよ、そして、ボクはキレイになったあの子を見てそれを抱くんだ〜あぁその時が楽しみだよぉ!」
「・・・・」
ゾルダは、狂ったように叫び続ける。
明らかに集団の目的とはズレた行為ではあったが、敢えてそれを止めるような人間もいない。ここにいるのは異常者ばかりだ、人を殺し、人を貪り、人を犯す集団の末路。
リーダーが止まればそれは止まるだろうが、リーダーたるガラゾフはそれを遥かに超える悪逆を行なっているのだ。わざわざそれを止める意味も無いだろう。
そして、そんなリーダーは4名の前に現れた。
骨と皮だけの悪魔の男、彼は、いつもの姿で4人が座っている席に腰かけた。
ゾルダも、空気を読んだのかピタリと発狂を止める。
「お久しぶりでございます、ガラゾフ様。」
「これだけのメンツが揃うのっていつぶりなんだろうなぁ〜あ、ボクは入りたてだから関係ないか!」
「シンアイナルガラゾフサマ、ゴキゲンウルワシュウ」
「どういった要件でしょうか、全ての幹部を集めるなど。」
アルメアも、ヴェイダも、ドゥルダも、彼らにとっては珍しく、自らの主人に恭しい態度をとってそれを迎えていた。
主人からの要件は1つで、それも至ってシンプルなものであった。
『魔術学院を襲撃しろ』
それだけ。
「誰を殺しても構わん、魔術学院の生徒、教師、守るべきものは1つも無い。未来の可能性を潰せ、後々の禍根を絶つのだ。」
そう言うガラゾフの前に、4人は歓喜に満ち溢れたような手でそれを見ている。
「ん〜〜!!良い男がいるかしら!」
「ワレハハカイシャ、ナレバアナタサマニイワレタトオリコワスノミ。」
「ねぇねぇ!魔術学院に良い玩具がいたら持って帰って遊んでも良いかなぁ!いいよねぇ!」
「老骨にムチ、打たせて頂きますぞ!」
満足した、そんな顔をしながらガラゾフは面々の顔を見て頷く。
「あそこで起こることは何があったとて不満にする、行くぞ、戦士達よ。我らが悲願の為に!」
「「「「我らが悲願の為に!!!!」」」」
かくて、戦士たちは立ち上がった。
目標は、魔術学院。
目的は、不明。
襲来は、もうすぐ。
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