初心者にもわかりやすい異世界哲学〜世界最強の職業保持者は相互理解不能です〜

読了目安時間:7分

エピソード:19 / 20

閑話・神

「神について?」 「ええ、教授。貴方は神についてどう思いますか?」 ある放課後、いつものように図書室に、もしくは王都にある王立図書館へと出かけようとする教授を、シスター・テレサは呼び止めていた。 テレサは、普段自分から人に質問するような積極的な性格はしていないが、それでも彼女は気になったのだ。 哲学者という生き物にとって、神とは許容できるべき者なのか。 「我らが神、1柱アルケムを中心とした神々、それらについて、貴方の私見を聞かせて欲しいのです教授。」 そう言うと、テレサは真っ直ぐとした眼で教授を見つめる。 それに答えない(教授)では無い。 「中世哲学において、神を理性的に証明しようとした集団がいた。」 中世以前では、神の存在は自明と考えられていた。 と言うよりも神とは絶対の存在であり、それを否定するということは自分の社会的死を意味する、言い出そうとしても言えなかったのだ。 「そんな中、ヨーロッパの哲学者であるトマス・アクィナスは『神は、自然なる理性においても、その存在や超越的属性が論証可能な存在である』と言い放った。」 神を理論的にいることを証明しようとした集団が過去、確かに存在している。 側から見ても素晴らしい試みだと思う。 「だが、完璧とされる神の絶対証明理論は、ついぞ証明されることは無かった。」 目的論的証明も、本体論的証明も、宇宙論的証明も、道徳論的証明も 全て反論とされるものが確かにあり、神がこの世界に存在するという結論には至っていない。 『神がいる』 このことを断定する証拠は1つも無かったのだ。 だが、これによって神学者は歓喜した。 「何故なら、『神が存在する』ということの証明ができないということは、同じく『神が存在しない』という証明もできないからだ。」 どんなに優れたマジシャンとて、無いものを消すことは不可能だ。 我らが神は、ついぞその正体を明かすことなく、その存在を証明するに至った。 いや、至ってはいないのだが、神学者にとって、哲学者にとって、この情報がどれほど救われたか、わかる人間はいるまい。 まぁ、ぶっちゃけて言えば詭弁なので、自慢にはならないのであるが。 「ちなみに、神の否定というものもあるが、その辺りはまぁカットする。そちらは本筋とは違う意見だからな。」 無神教、まぁざっくりと説明するならば あれだけ哲学者達が頭を捻っても神様がいる証明はできなかった。 ↓ あれ?じゃあ神様いないじゃん! ということなので、語る価値は無いだろう。 「哲学とは疑うものだ、神はいるのか、神はいないのか。このことは数千年もの間人類史において誰も証明できなかったことであり、またこれから先も証明すること自体は難しいだろう。」 「け、結局貴方の意見はどうなんですか?神は、本当におられると信じているのですか?」 「落ち着け。」 テレサが焦るように言うのを、教授は口に手を当てて止める素振りを見せる。 「ここまでは神というものに対する基本的な情報に過ぎない、ここから語るのは僕自身の意見だ。」 「さぁ、哲学の講義を始めよう。」 ◇◇◇◇ 『神は絶対にサイコロを振らない』 「哲学者、アインシュタインの言葉だ、彼は哲学の他にも様々な学部に手を伸ばしていた。」 むしろ、科学者としての方が遥かに有名だった。 そんな言葉を呑み込んで教授は続ける。 「神とは何か、神とは、()()()()()()()()()()()()()()()である。」 「ど、どういう意味ですか?」 神とは、いるとも、いないとも証明できない存在だ。 哲学的に考えれば、そんな存在いないに決まってるじゃ無いか!と断定しそうなものだが、意外とそうでも無い。 少なくとも教授は、神を否定するつもりは無い。 神はいる、()()()()()()()()()()。 神が近くにいるとわかっていて、悪さをする人間がいるだろうか? いる訳が無いだろう。 そう考えると、教授は神を何者にも干渉されない絶対的な存在ということになる教会などの意見とは異なり、どちらかと言えば守護霊的な意味合いとして神を信仰しているということがわかるだろう。 それは、敬虔な神の使徒が多くいる哲学者としてとしては非常に異端な意見であり、それでいて捻くれ者や鼻つまみ者も多い哲学者として見れば真っ当でもあった。 「神は抑止力だ、神は隣人だ、神を愛せ、悪を憎め、神を信じることで人の心は正義となる。少なくともわかりやすい悪に堕ちることは無い。」 「神は教え、と言うことですか?」 「あぁ、まぁそういう言い方もできるな。神は正義の存在だ、神に憧れ、神を信じる者たちは自ら悪事を為そうとはしないだろう。」 つまり、そういうことだ。 道徳心を、誰にでもわかりやすく理解させる為に、神は生まれた。 テレサに言うにはあまりに挑戦的過ぎるが、教授はそのようにも考えている。 今後も言わなくていいだろう。 「少し、安心しました。」 「何がだ?」 「私は、『修道女』です。神の花嫁として生き、神の教えに従って死にます。」 彼女は、不安だった。 自分たちが信じる神は、本当はいないのでは無いかと。 人は道に迷う時もある、テレサにとって、それはほんの少しの信仰心の乱れ。だが、彼女の運命を決めるあまりにも大きな決断だった。 「やはりな」 「?」 そう言って教授は、落ち込むテレサに声をかける。 「シスター・テレサ、やはり君には哲学者としての素質がある。」 「ふぇ!?」 テレサは驚く、テレサにとって哲学者とはつまり教授だ。 教授は、肉体的スペックは幼児並だが、頭脳は王国でもトップクラスの切れ者だ。実際にはトップかも知れない。 もしかしたら意味合いが違うかも知れない、と付け加えて考えるなら、テレサは何故自分がそれに当てはまったのか理解できなかった。 「君は悩むことができる、自らが信じざるを得ないことに対して、それが本当に正しいのか、間違って無いのかと悩み続けることができる。」 それは非常に稀有な才能だった、殆どの修道士、もしくは修道女は、神の存在など殆ど悩まずにその生を終える。 そのことを考えない理由、悩まない理由は、それを否定してしまえば自分たちの存在意義が無くなってしまうからだ。 一体どこの誰が「自分たちは民衆から金を巻き上げるペテン師です!」と言わざるを得ない可能性を証明すると言うのだ。 哲学者の中にも神学者はいたという話をしたかと言うが、それもほぼ全て神はいるという結論に終始しており、正直面白みが無い。 当然だ、神父でありながら「神はいない!」など、明らかに自分で自分の営業妨害をしているのだから。 さて、そう考えるとテレサは少なくとも有望だ。 恐らく彼女はその意味を理解している、自分が恐れ多くも神に対して疑心を感じていることは、自分の首を絞めることだとわかっているのだ。 それでも彼女は、疑う心を辞められない。 「全く、実に素晴らしい!」 教授は、彼女の英断に笑みを止められない。 この問答で、彼女の心に答えが出たかはわからない。 だが、それでも教授は喜んでいた。 この世に生まれた、2人目の哲学者を祝って。 「あぁ、ところで話は変わるが、()()()()()神は絶対いるぞ?」 「全く話変わってないんですけど!」 驚くように、テレサはそう答える。 そう、今までの意見はあくまで教授の元いた世界のことであって、この世界のことでは無い。 「この国、神に対する逸話があるだろう?」 「確かにありますね。」 「他の国にも神に対する逸話があるよな?」 「ありますよ、それがどうしたんですか?」 「それがな、()()()()()()んだよ。」 「へ?」 テレサは、何をおかしなことをと驚いている。 「神の姿が変わらないなど、当たり前では無いですか?」 「いや、違う。世界中にはそれぞれ信仰されている神がいる。」 簡単に言えば、『神と仏理論』だ。 簡単に言えば神は、日本 (と言うかアジアの大部分)に降り立った際に仏様となったと言う理論だ。 神という存在を自分たちも共有したいという感情を元にした浅知恵だが、この大陸にはなんとこう言ったものが無かったのだ。 全ての神、全ての神話、全ての逸話。 統一されている。 そこに各々の解釈の違いはあるものの、その全てはズレていない。 神の見た目 神の性格 そのどれもがどの文献でも一致している。 こんなことはあり得ないのだ。 つまり、そこから辿り着いた仮説は1つ。 神は、我々の世界で言う古代の英雄のように、実際にそこにいた者を真似した存在、または異常なほどの力を持った生命体が、神と呼ばれるようになったという仮説が立つ。 神は、確かにいる。 仮説にしては強すぎる証拠と原理が、そこには転がっていた。 「あの、大丈夫ですか?」 「あぁ、すまない。少しだけ考え事をしてしまっていた。ジャックを呼んでくれるか?」 「何故?」 「話していたから少し疲れた。ジャックに王立図書館まで運んでもらう。」

使い回されたオチ(´・ω・`) お姫様抱っこ!お姫様抱っこ!

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    • 暴力描写あり

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