となりの愛しき簒奪者♡

優奈の涙。(挿し絵あり)

   僕達は、例え用の無い脱力感に打ちのめされたまま、トボトボと三人で下校していた。  その道すがら、僕は二人に尋ねてみる。 「……で、これから先はどうするんだ?」 「どうするも何も……」 「まさか時間制限があって、しかも皆さんお行儀よく定刻通りに帰る……なんていうのは、さすがに予想外でしたしね……」 「まったくよね。どうしたものか……あ、そうだ!   ゲンナリした様子の優奈ちゃんと並んで歩くあゆみちゃんだったが、何かを思い付いたように急に元気を取り戻しながら言う。 「ね、これから優菜ちゃんの家で作戦会議をしておかない? 一緒に二人で、これからどうするべきかの対策を練ろうよ?」 「え? いえいえ! そんな急にはダメです! へ、部屋だって散らかっていますし!」  そんな急な提案に、優奈ちゃんは戸惑っているようだが、あゆみちゃんは強引に続ける。 「えー。いいじゃん、女同士だし、下着とかあっても私は気にしないよ?」 「そっちがよくてもわたしが気にするのです! というか、あゆみちゃんの家はどうです? それならOKしてもいいですが?」 ――僕を除外したような女子トークが展開されていく……。  どうやらその会議に僕が加わえられる予定は無いようだ。僕の存在は既に彼女達からハブられているようで、なんだか自分の存在価値というものに対して不安になってしまう僕だった。 「あー。私が住んでるのって、六畳ワンルームのボロい下宿で、部屋の音がダダ漏れなんだよね。なんか、変態じみた大家とかもいるし……」 「そうですか……。あ! そうです! でしたら、たけひとさんの家に集まるというのはどうでしょう? なんだか、たけひとさんの家って意外に片付いていそうな気がしますし……」 「え……?」  まるで相手にされていない状況だったのに、急に話を振られて慌てながら僕は答える。 「まあ、人も居ないし別に構わないけど……。飲み物は水道水しかないし、食べ物もインスタント麺と缶詰くらいしかないよ?」  そんな僕の言葉に対し、あからさまに嫌そうな顔をしたあゆみちゃんとは対照的に、優菜ちゃんは楽しそうに言う。 「ええ。そんなの構いませんので、コンビニでジュースとお菓子でも買って作戦会議と行きましょう。さあ、レッツゴーです!」  敬語を使っている割に、けっこう押しが強い優奈ちゃんの主張により、一行は僕の家へと向かう事になったのだった……。 ** 「……ねえ、テレビ古すぎない?」 「ですね……。地デジにも対応はしていないようです」 「そのうえ、ビデオがVHSだ……。私、実物は初めて見たかも……」  僕の家へと案内し二人を居間に招いた途端、彼女達は何故か思いっきり引いている御様子だった。  地デジ? VHS? 記憶喪失の僕には解からない単語が続く。 「うーん。これは、たけひとさんの部屋も要捜索ですね?」 「は、はい? 何でそうなるわけ?」  女子を自分の家に招き入れた記憶など無い……というか記憶喪失である僕にとっては初めての展開に、何だか動揺してしてしまい物が考えられなくなっていた僕に、優菜ちゃんは言った。 「というか、お友達の家に行った時にはまず、その人の恥部を曝すような恥かしい物を探索する、というのがわたしの流儀なのです!」 「迷惑な流儀だなぁ……」 「むむっ! わたしのレーダーが、たけひとさんの部屋は二階にあると言っています! さっそく向かわなければ!!」 「いや……それは、ちょっと勘弁してほしいかな……って、優奈ちゃん!?」  意味不明にテンションの上がっている様子の優菜ちゃんは、僕がまごついている間に既に前から消えていた。どうやら持ち前のスピードで僕の部屋へと向かってしまったらしい。 「えーと……。僕は記憶喪失なもんで、友人を家に招いた記憶とかも無いんだけれど、友達になるってこういう儀式的な事が必要なわけ?」  僕はあっけにとられつつも、隣に立っていたあゆみちゃんにそう訊ねてみたのだが、彼女は彼女で、うわの空といった様子で一人呟いた。 「そーか……。優菜ちゃんはそういう流儀なんだ。私の部屋に呼ばないで助かったかも……」 ――っていうかあゆみさん。君は何か人に見られるとヤバい物を持っているというのですか……?  そう訊ねようとして、僕はふとある事を思い出す。  己の部屋にある、とんでもない物の存在を……だ。 「や、ヤバい! 〝あれ〟が見付かるとヤバすぎる!!」  それに気付いた僕は、祈るような気持ちで優菜ちゃんを追うように階段を駆け上がり自分の部屋へと向かう。 ――本棚の一番上に置いたままだった筈だから、小柄な優奈ちゃんにはすぐには発見されないだろう! それだけが希望だ!  僕が人に見られるのを危惧している物とは……ブラジャーだった……。  記憶喪失になってから初めて家に帰った時に、自分の部屋で見つけたのだが、どうしてそんな物が自分の部屋に有るのかは、いまだに不明のままだ……。  記憶喪失になってから初めて自分の部屋に帰った時。まず最初に〝それ〟を見付けた時は自分ですら、そんな物を所持していた以前の自分の人格を疑ったものだ。  事故に遭い記憶を失う以前の自分に彼女がいて、その忘れ物だった……とかいうのならばいいのだが、その線は薄かった。  どう検証してみてもかつての僕に彼女が居たという可能性は見い出せない。  これでもし彼女が居たというのなら、それこそ幽霊みたいに形跡を残さない存在くらいしか思い付かないが、そもそも幽霊がブラジャーを忘れて行くというそんなシチュエーションなど、どう考えても思い付かない!  というくらい、この部屋に女子が来た形跡が無いのだった。  そんな非現実的な可能性まで考慮してみなければいけなかったというのも、現実的に考察を繰り返してみてもあまり良い答えが浮かばなかったからだ……。  できれば、それが犯罪的な手法で手に入れたものではないと祈るのみだ。  というか現実的に考えてしまうと、それが僕の部屋に存在する可能性の中で一番穏当な答えが、自分で買ってきたというのはあまりにも悲しかった。その次あたりが、拾ってきた物を着服した可能性だろうか……。  あと考えられるのは、それが母親の物だったというセンもあるだろうが、それを自分の部屋に置いてあるというのも、それはそれで何だか問題がありそうな気がしてならない。  せめて、それを自分で身に付けていたりはしていなかったと信じたいのだが……。  というか、いくらそんな考察を続けた所で――記憶を失う以前の自分の性的趣向的な問題だったりと、すんなりと納得できる答えが得られる気がしない、そんな代物だった。  なので退院後……家に戻った僕はその事実を自分の心の中に留めておくに留め、そんな物は存在しなかったという事にしていたのだったが……。 ――まさか自分の家に客が……。しかもボクの部屋に女子が入るなんて、そんな事態が、現実に起こりえるとは……!  それだけでも想定外なのに、そんな代物を他人の、しかも女子に見られてしまったとしら、一体どのような事態になってしまうのか想像もつかない。というか、さすがに彼女からはもう好意的な感情を抱いてはもらえなくなってしまうであろう事だけは確かだった。 ――そうなる前に、どうにかアレを隠さなければ!  僕はそれだけを考え、部屋へと入る。  しかし目的の〝それ〟は既に優奈ちゃんの手にあった……。それは、確かに僕の部屋に置かれていた物だ。 ――なんてこった!! 真っ先に発見されてしまっていたとは!?  絶望に包まれていると、彼女はゆっくりとこちらへ振り向く。 「うう……た、たけひとさん……」  そんな彼女の、ショックに打ちひしがれたような表情の潤んだ瞳から、涙が零れ落ちる。 「ゆ、優奈ちゃん……」  驚愕と絶望に包まれていた僕の前で、彼女はそのブラを……。  何故か自分の胸に当てていた……。 ――優奈ちゃん、何やってんの……?

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  • れびゅにゃ~

    薔薇美

    ♡600pt 〇60pt 2020年2月10日 8時51分

    何故、ブラを当てて泣く?( ・◇・)?

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    薔薇美

    2020年2月10日 8時51分

    れびゅにゃ~
  • ひよこ剣士

    須江まさのり

    2020年2月10日 14時57分

    ダブルで応援ありがとうございます(´-`*) そのせいで次の回ではタケヒト君が泣く事になるのでした……|д゚)

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    須江まさのり

    2020年2月10日 14時57分

    ひよこ剣士
  • レイ・スターリング(デンドロ)

    高美農四間(玉宮夜彦)

    ♡300pt 〇50pt 2020年3月10日 20時50分

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    応援しています

    高美農四間(玉宮夜彦)

    2020年3月10日 20時50分

    レイ・スターリング(デンドロ)
  • ちびドラゴン(えんどろ~!)

    くにざゎゆぅ

    ♡100pt 2020年2月3日 19時48分

    下校中か…('ω') これからも毎日登校してケンカして、時間がきたら下校するのかな…。 あ、お部屋内に捜査が(;'∀') あ~優奈ちゃん、そっちの悲しみか…。

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    くにざゎゆぅ

    2020年2月3日 19時48分

    ちびドラゴン(えんどろ~!)
  • ひよこ剣士

    須江まさのり

    2020年2月4日 15時19分

    応援コメントありがとうございます(^^)/ 何だかテンションが上がっているようで、感情の起伏が激しくなっている様子の優奈ちゃんなのでした……|д゚)

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    須江まさのり

    2020年2月4日 15時19分

    ひよこ剣士