となりの愛しき簒奪者♡

ピンチのタケヒト。

  「うわぁああっ!? こっち来んな!!」「むざむざやられるかぁ!!」「ぐはぁ!」「やっぱダメだぁ、敵わねぇ!」 『おいこら邪魔だ、女どもへの道を開けんか!!』「番長は飛べるんですから、空から助けに行ってくださいよ!」『あ、そうか……』  そんな喧騒が響く中、リュックを背に仰向けになったまま身動きもできない状態の僕を、不良達が取り囲む。 「さーて、それじゃあじっくりといたぶらせてもらおうか? おっと、そのリュックを外した所でテメエの末路は変わらねぇぜ」  チャラついた金髪を指で掻き上げながらそのリーダー格の男の言葉に、僕は答えを返す。 「どうかな……。このリュックを捨てて君達から逃げ切るくらいの事は可能だと思うけれどな」 「けひゃひゃひゃ、面白れぇ。出来るもんならやってみろや!? その前にボコボコニしてやんよ」  僕には言葉を続ける。 「だけど、僕にだって意地があるんだ。このリュックの中身だけは、何があっても守ってみせなければならない!! これは彼女達が戦い抜くために必須アイテムなんだからな」  仰向け状態で上半身を固定された状態のまま、どうカッコつければいいのかも分からないまま、出来るだけ勇ましい演技でそう宣言するが、相手はそれをせせら笑う。 「けひゃひゃひゃ。そうかよ? だったら、番長のためにもそんなものは処分するしかねーなぁ? 野郎ども!! こいつのリュックの中身を奪ってやれ!」 「おうっ!!」 「くっ、させるか……」  と、僕は必死に抵抗しようとするが、上半身が固定された状態ではどうにもならず、あっという間に手足を押さえつけられ、数人がかりで上体をリュックごと引き起こされた僕の背後では、不良達が歓声を上げながら中身の荷物を取り出しては仲間へと回し、全員掛りでその飲料水を浴びるように飲み始めていた。 「や、やめろ! やめてくれぇ!!」 「何だこりゃ、甘いけど水じゃね? 砂糖水か」 「こっちのポカリは普通だぜ?」 「くっ!! 彼女達が戦うために必要な水分と食料が……」 「けひゃひゃはーーっ!! どーだぁ? あいつらのために用意した飲み物が、あろうことか敵に摂取されてその力の源になってゆく気分は?」 「く……。おのれぇ……」 「俺達に逆らった罰だ、思いっきり絶望を味わってからあの世にいくんだなぁ!!」  苦悶の表情で血の涙を流しながら、彼らが次々とリュックの中の飲料水を飲み干して逝く不良達をただ見ているしかなかった僕は、軽くなった背中を確認してから不意に笑みを浮かべて、彼らに言った。 「あははは。引っかかったな?」 「あん? なんだとぉ?」  僕の態度の急変に、不審そうな表情を向ける不良達に僕は言った。 「そのペットボトルには、強力な下剤が仕込まれていんだよ」  もちろん、そんなのは完全なる嘘だった。  しかし僕は確信していた。  彼らはそれを信じ、下痢の症状を訴えるという事を……。 「な……何ぃ……!? う……、きゅ、急に腹が……」  案の定、彼らは体調の変化を訴え始める。  というのも僕を取り囲んでいる面々は、先日の戦いの中で彼女達とのガチンコ勝負を避けたいがために延々と創作芝居を続けていた……その連中だったからだ。  彼らは僕が虚弱体質な事を知っている。  その上、抵抗も出ない状態の僕はあっという間にノックアウトされてしまうだろう。そうなってしまったのなら、彼らもあの戦いに加勢しなければいけなくなってしまう。もはや人外の戦いみたいなあの戦場に。  かといって彼らは、番長の指示に逆らうわけにはいかない。だから、僕を排除するという役回りを自ら志願したのだ。  先ほどあゆみちゃんが僕を切り捨てるような発言をして、優奈ちゃんがそれに乗ったというのも、彼等から僕に対する殺気を読み取れなかった彼女が、その事を耳元で呟いて教えたからだろう。  つまり、優奈ちゃん達はただ単に僕を見捨てたというわけではなく、僕の安全を確保するためにこの場を離れてくれたのだ。  そうだったという事にしてもらいたい。というか、本当に自分達の見せ場のために見捨てられたのだったとしたら悲しくてやっていられないので、ここはその仮説を信じる以外に無かった。  とにかく僕の処分を志願した連中は、規格外の戦闘力を誇る優奈ちゃん達ともはや人外と化した番長の戦いから逃れる術を求めている。  だから僕は彼等に、この戦場を離脱するための方便を提示してみせるのだった。 「これでお前達は、今日一日はトイレに籠ったまま出て来られないだろう! ずっとそこで戦いの結果を待っているがいい!」 「おおナイス……じゃなくて、なんて事を! それでは、番長様のお役に立てなくなってしまうではないか!」  まるで周囲にアピールするようにそう叫ぶ相手に対し、僕はさり気なく舌なめずりをして自分の口を指差す。  前回の長時間にわたるヒーローごっこのような演技を延々と続けていた彼等は、そんなジェスチャーで僕の意図を読み取ってくれたように目で頷くと、即座に対応した二人が僕の両肩を掴み固定した。 「く、な、何を……?」  と、思い通りに動いてくれた相手に感謝しつつ、形ばかりの抵抗を見せる僕にリーダー格の男は、鬼気迫る演技を見せる。 「ぐ……、貴様にはしてやられたが……しかし、我々とてここで終わるわけにはいかんのだ!」  そうして、手にしていた砂糖水入りのペットボトルを持ったまま僕に掴みかかり、その呑口を僕の口に押し込んだ。 「な、何を!? ぐむっ!!」 ――ていうか、ホントにただの砂糖水なんだなぁ……。  とか思いつつ、無理やりそれを飲まされたという演技をしている僕だった。 「ふははは。これでキサマも我々と同じ運命を辿るというわけだ。トイレの中で唸りながら、あの女どもの無事でも祈ってるんだな!」 「ぐ……。なんて事だ、……ぐあああっ、も、もう効果が!!」  と、逼迫した演技を始めた僕を見て、頃合いを測っていた不良達は言った。 「ようし、これで貴様も戦力にはなれまい。こいつを無力化したとなれば、我々も戦列に復帰しなければならないところだが、番長様の戦場を俺達の排泄物で汚すわけにもいかねぇ! 野郎ども、一刻も早くトイレに向かうぞ」 「「「「おお……うっ!」」」」  と、無駄な演技力を発揮して、力ない歓声を上げながら、今にも漏らしそうな内股で校舎へと向かう一団を、こちらも尻と腹を抑えつつ、一連の小芝居のおかげで軽くなったリュックを背負ったままに立ち上がる。 「く……。僕も、女子達の前で脱糞で脱糞してしまうわけにはいかないんだ……」  と、僕はそんな台詞を叫びながら〝徴兵逃れの愉快な即興演劇団〟と化したヤンキー達の後をふらついた足取りで校舎へと向かう。  しかし僕は、周囲の隙を見てその集団からこっそりと離脱すると、そのまま全力で校舎裏を目指していた。  とある目的のために……。

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