となりの愛しき簒奪者♡

タケヒトの決意。

  ――いくらなんでも、あの数の不良達を全て意識不明の状態にするなんていうのは、無理だろう。  悪魔の力を手に入れて現れた番長が現れた時に僕は優奈ちゃん達に対し、周囲の不良達を倒しきればいいなどという作戦を提案したものの、それは単なる時間稼ぎのハッタリだった。  僕が向かった先には職員室へと繋がる五重塔があり、その最上階には職員室へと繋がる扉がある。 「どうにか職員室まで辿り着いて教師の誰かを呼び出す事ができれば、優奈ちゃん達がこの学校の生徒で、正当な理由で校内に居るのだと証明してもらえる。それで番長はあの力を行使する事ができなくなる……はずだ」  そう言い切れるのも、大魔王様は僕らが最初に職員室を目指していたあの時、教頭からの「彼らは通していい」という指示に従っていたからだ。  そうならば、門番の力を分け与えられたという番長さんだって同じはず。教師から、「その二人はこの学校の生徒だから、校内に入る権利がある」とでも宣言してもらえれば、番長はもう与えられた悪魔の力とやらも行使できなくなるのだ。  それが、今の僕に出来る優奈ちゃん達への唯一の援護だった。  ただ、そのためには番長よりも強力な力を持っている大魔王様を、どうにか突破してみせなければいけないのだが……。  それ以前に、そこに至るまでも各階には猿人間達が待ち構えていて、それを突破しなければいけない。  それこそ、優奈ちゃん達ならば一人でも猿軍団は突破できるのだろうが、それだと相手にこちらの思惑がバレてしまい、番長直々に妨害されてしまうだろう。  まったく戦力として認識されていない僕であるからこそ、こうして戦いを抜け出す事が可能なのだ。  それと同時に、全く戦闘力が無いからこそその挑戦は、果てしなく無謀な挑戦ともいえるのだけれど……。 「さて……。とにかく最上階まで辿り着いて、暇そうな大魔王様に門番としての役目を果たさせてあげようか」  そう呟きながら僕はその扉の前に立った。  その行為はもしかすると命すら落としかねない危険な行為だったが、僕は躊躇の思考などは不思議と湧かなかった。  優奈ちゃんの為なら命を掛けようと、ただそう思うだけだ。 「そんなに性格が良いとも思えないし、見た目的にもちょっとばかり幼くて恋愛対象としては胸が小さすぎるんだけどなぁ……」  そんな軽口を呟きながら、ドアに手を掛ける。  一階の門番はゴリラ人間だった。あゆみちゃんの馬鹿力によって右手を粉砕されたのは二日前。いくらなんでもあれがすんなりと治るとは思えないし、動かせるようになっていたとしても元通りとはいかないだろう。  それに、元々そいつは、ちょこまかと動き回る相手は面倒だと言っていた。 「できたらその怪我で欠勤でもしてくれていたら嬉しいんだけれどね……。ま、最悪の場合、完全復活していたり他の代役が居るかもだけど、だとしても何とか突破してみせるさ」 ――でもやっぱ、怪我で休暇を取っていて誰も居ないというのが一番望ましい……。  そんな御都合主義な展開を願いながら、その扉を開ける。 「ん、侵入者だと?」  しかし、そんな希望的な憶測はあっさりと外れ、ドアを開けた向こうには見覚えのある猿人間が待ち受けていた。 「あれ? テメーは一昨日(おととい)の……」 「ま、まさか警察に通報したのではあるまいな?」 「お前の次の台詞は、『ってか、よりにもよって、なんでいきなり四人揃ってんだよ!?』だ!」  そこにはタンクトップゴリラ、全身タイツ猿、軍服猿、イケメン猿といった改造猿人間全員が揃っているのだった……。 ――というか、こっちの想定していた最悪の状況をはるかに上回ってるんですけど!? 「いいや、こいつはもう何も言えねえよ! その前に俺があの世へ送ってやるからな!」  一階の番人、ゴリラオッサンはそう言うとギプスによってガチガチに固められた右腕をこちらに向ける。その白いギプスから、黒い銃口のようなものが生えているように見えた。 「がははは! 先日は痛い目に遭わせてくれたが、これで相手がどんなにちょこまかと動き回ろうが、このワシの攻撃から逃れられんぞ! 喰らえっ!!」  ズガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!  と、まるでマシンガンの発射音のような音が響く。というか、そのギプスにはマシンガンが取り付けられているらしかった。 「うわぁああっっ!! って、完全復活ではないにしろ、何いきなり物騒なパワーアップしちゃってんだぁ!?」  機関銃の銃声響く中、頭を抱えて横っ飛びで床に体を伏せながら叫ぶ僕の上を、壁を削る着弾音が通過してゆく。 「だから、相手にもうちょっと間を与えて絶望感を演出しましょうよ!!」  少しでも攻撃の手を鈍らせようとした僕のそんなツッコミは、ゴリラ人間の悲鳴でかき消された。 「うぎゃあああああああああっっ!!」  と、マシンガン付きの腕を抑えながら痛そうにもんどりうっているゴリラ人間を見て、全身タイツ姿の猿人間が言った。 「何事だぁ? あいつが何かやったのか?」  それを受けて、イケメン猿は予知ではなく現状観察で答える。 「というかマシンガンを撃ったその振動が怪我に響いているのだろうな……」 「まあな。銃ってのは撃ってりゃそれなりに腕や肩に負担が掛かるもんだしな。複雑骨折したばかりの手にそんな負荷を掛けたら、そりゃ痛てぇし狙いも定められねぇわな。あれだけ撃って一発も当たってねぇ」  なんだかもう、問答無用でいきなり生命の危機的状況に追い込まれたと思ったら、矢継ぎ早にその危険が回避されてゆくという……。  そんな、演出もクソもあったものじゃない急展開の連続に思考が追い付かず、空白状態の頭を抱えて伏せる事しかできなかった僕は、俯せ状態で身動きも取れないままそのやり取りを見つめていた。 「ってか、そんなリスクは最初から説明しておけ! イタたたたた……。無理……、もう戦えない! 今から病院行ってくる!」  あてつけがましいそんな台詞に、軍服姿の猿人間は言い訳がましく答える。 「うーむ……。頼まれたから、急遽取り付けてはみたものの……。私は自分が武器を扱うための能力は備えているが、人に操作法を教えたり相手に相応しい武器を選ぶとかいう才能は無いらしいな」 「今更なんだよ?」 「まあ、我々も世界征服を目的としているとはいえ、実情は日々バイトに明け暮れる生活で、実際の戦闘経験など皆無だからな……」 「ってか、お前! こうなるんだったら、せめて予知しておいてくれたら良かったのによ!」  そんな指摘を受けたイケメン猿は、沈痛な面持ちで答えた。 「それなのだがな……。先ほどから何故か我の予知能力が働かなくなっているようなのだ……」

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