Angel, Reject, World, Fxxk

読了目安時間:4分

エピソード:10 / 24

主人公回

I played the best role

天城樹(あまぎいつき)。16歳の4月生まれで、両親は起業家と大学病院に勤める非常勤医師。大自然に囲まれた場所に大きな一軒家があり、そこが実家となる。 所謂(いわゆる)恵まれた環境に生まれた彼は、幼稚園の頃から学習塾、水泳、茶道、弓道、ピアノ、バイオリン、書道と習い事漬けの英才教育を受けながら育った。小学校に上がる頃には習っていたピアノや書道・習字で賞を取ることが当たり前となっていた。 最初の頃は親も樹の活躍を喜んだ。 しかし年齢と共に活躍にも限界はくる。 樹が賞を受賞するものは、あくまでも同年代の子たちが一斉に応募する地域の小さなコンクールやコンテストなどに過ぎなかった。 地域で同年代を相手に賞を取って、東京で開かれる大きなコンクールやコンテストに行くようになったが、自分よりも年齢が高い人たちに混ざりながら才能を発揮するだけの力は持っていなかった。 親は結果しか見ておらず、樹を叱り付けるようになり、地方のコンクールやコンテストでは褒めないようになった。 そのまま、天城樹という人間の覚醒は無かった。 そうして中学生になった彼は、その覚醒出来なかった才能を持て余しながら、全ての習い事を辞めさせられて勉学に集中させられる。毎日のように塾に通い、ギラギラした中受ける全国模試の様子は、とても中学生には見えなかった。 ギラギラしているのは当然で、彼らは、中学一年生の頃から「行くべき高校」がいくつか決まっているのだ。 その行くべき高校に必要な分だけの点数を常に取り続けなければならない。 天城樹が行くべき高校として設定されたのは、日本でも最高峰の偏差値を誇る高校のいくつか。どれも地元からは通えないので、一人暮らしを高校からすることも決まっていた。 模試の結果でしか名前を知らない全国の中学生とは三年間競争し続けることになった。樹は、全国で一桁の順位を取ることも決して珍しくなかったが、親は一向に褒めたりしなかった。 それどころか、時間が経つにつれ、次第に家がピリピリし始め、家庭内の話題も数年後の受験の話以外出なくなった。 そしてそれはどんどん過剰になり、樹の人間関係を縛るにまで至った。 「自分のやりたいことは自分で決める」 樹は親に話したこともあったが、決まって親はこう答えるのだった。 「今は、お前にその権利はない。これはお前の為だ」 中学校では、お笑い番組が流行っていた。当然樹は見たことがないから着いていけない。小学校の頃仲が良かった友達は、ゲームの話を毎日していてる。別の友達は、サッカーの試合で大活躍だったそうだ。 何も話題に着いていけない彼には「委員長」というあだ名がつけられ、周囲の子どもから浮いていった。 中学三年の冬、塾講師と親との面談で、兵庫県の最難関校の受験は合格する可能性が高くない割に受験が大変だからやめようという話題が出た。その日の夜、樹は両親から殴られた。 「お父さんとお母さんはずっと頑張ってきたのに、お前だけが頑張れなかった結果だ」 罵声は夜遅くまで続いた。当然、謝られることはなかった。 結局樹は、第二志望だった東京の難関私立に合格した。 やっと解放されると泣いた。 春が来て、慣れない一人暮らしに困惑しながらも入学式を迎えた。 入学した高校は、難関校なりに皆が自由に部活動などに励む校風で、樹はこれから始まる青春に心を躍らせた。 新入生歓迎会ではそれぞれの部活動紹介があった。彼が気になったのはその中の創作物。自己表現をしたりかっこいいものを作る先輩に憧れて、樹もやってみたいと思った。 創作部に入部し、帰宅した樹は半ば興奮しながら親にそれを報告した。 「そんな浮き沈みが激しいものを好きになっても、苦労するだけで何にもならないぞ」 この言葉を言われた後、高校一年生が始まったばかりの天城樹が行くべき大学と学部を指定され、毎度の全国模試や校内のテストもその大学を意識するように言われたのだった。 樹は人生で初めて反論した。 「また中学の頃と同じなのか。自分のやりたいことは自分で決めるよ」 回答はこうだった。 「今は、その決定権はお前にはない。これはお前の為だ」 天城樹はようやく理解した。 その「今」というのはずっとやってこない。 周囲の家は違う。 この家に縛られる限り、自分のやりたいことは出来ない。 理解してしまったあとは、心を壊すまで余りに早かった。

彼は役割を演じていた

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