Angel, Reject, World, Fxxk

読了目安時間:8分

エピソード:15 / 24

北川ちゃん回

He is sweet

翌日、(いつき)とミカとセアレの三人は、あてもなく渋谷周辺を歩いてみることにした。 セアレはルシフェルを退けたい。その為には、ルシフェルに会って話すなり戦うなりが必要になるだろう。そのルシフェルに会うために、まずはルシフェルが操る悪魔たちをどうにかしていこうという話になった。 「本来は悪魔と人間は仲が良かったりするものなんです」 セアレが言うには悪魔という種族は、人間の心に棲むのは変わらないが元はと言えば仲良く共存している関係らしい。 悪魔は人間の負の感情を摂取するのだが、強引に悪い方向へ持っていくのではなく、共感したり発散させたり、時には一緒に解決方法を考えたりしながら長く負の感情を提供してもらう代わりに、何かしらの力を提供するという関係だそうだ。 「それが、いつの間にか悪魔たちは快楽的に人間を陥れて負の感情を摂取するようになっちゃったんです」 そしてその悪魔が人間を襲う関係を築いた犯人は、先日堂々と目の前に現れて自分から成したことを話していた。 セアレはそれを本来の関係に戻したかった。 セアレの話を聞いて、ミカも本来の天使の役割に戻したいと話し始める。 「天使も元はと言えば、人間にちょっとの幸運を与え、時に罰する程度の存在だったんだ。今じゃ悪魔駆逐機関と化してるけどな」 二人の話を聞いて、樹は、自分には今回の件に深く踏み込むモチベーションのようなものが無いのを感じていた。 強いて言うのであれば、自分にやるべきことのようなものが転がってきて、それが非日常的であって、それこそルシフェルが言うように刺激的だっただけなのかもしれない。 そんなことを考えながらよく晴れた渋谷の街を一緒に歩いた。 三人は、とりあえず渋谷のスクランブル交差点までやってきて人々を観察する。 晴れた空の下、大きな交差点を定期的に沢山の人が行き交う。 歩行者向けの信号が青になる度に街の色が一気に賑やかになり、外国人観光客やユーチューバーのような人、地方から観光にきたような高校生たちが写真を撮る。稀にいるしっかりしたカメラを構えた人はデザインや広告を扱う人だろうか。 確かにこの信号の人が行き交う絵面は、写真や動画に収めたくなる気持ちはとてもよく分かると樹は考えていた。 視界に入りきらないほどの範囲で、隙間が無いほどの密度で、四方から人が歩いて来る様子は壮観だった。 「取り敢えず人が沢山見えるって言うとここなんだけど、ここで悪魔に取り憑かれた人間とやらを地道に探すんっすかね」 「他にどんな方法があるんだよ。セアレしか人間に潜んでる悪魔は見れないんだ。ウチらはセアレの目だけが頼りなんだぞ。じゃあセアレに沢山の人を見せるしかないだろ」 「さいですか」 これに近いやりとりも数回した。ぼーっとスクランブル交差点を眺めること1時間ほどだろうか。 成果はあがらず呆けていると、樹のスマートフォンが鳴った。 こんな平日に誰だろうと思ってディスプレイを見てみると、相手は北川凪(きたがわなぎ)だった。 「もしもし、北川?」 「あ、うん。そう......おはよう」 「おはようって時間じゃないけど」 時刻は12時半。おはようの時間じゃないどころか、本来であれば学校に行ってる時間だ。 そのまま黙っていると、北川から回答があった。 「今日、学校を休んだの」 「休んだって、大丈夫かよ。やっぱ昨日何か......」 「ううん。そうでは無いんだけど」 妙な間があって、電話越しの北川が布団を被り直したような音が聞こえる。 北川は、自室のベッドの中で目を覚ましたばかりだった。目を覚ましてすぐに樹に電話したのだった。 「ねえ、今から二人で会えない? 今渋谷でしょ」 提案した北川は、心臓が大きく鼓動しているのを自覚した。布団をかぶっているせいだろうか、汗が吹き出してくる。 生まれてこの方、恋というものに縁がなかった北川は、焦りのあまり変なことを言ってしまわないか不安だった。 布団の中の北川の耳に、渋谷の騒音と共に樹の声が返ってくる。 「別に良いけど、天使関係のことならミカとかセアレが居た方が良いと思うけれど」 そう返ってきて、北川は苛立ちを覚えた。ミカとセアレの名前が挙がってくるとやはり攻撃的な感情や自分に対する情けなさみたいなものを感じて苦しくなる。嫉妬だとすぐに気がついた。 「二人で話したいの」 それとは別に、樹の会話に違和感を覚えた点があった。 「ちょっと待って。確かに天使に会ったって話をしに行こうとしたんだけど、天城にまだその話はしてないわよ」 北川は、昨晩部屋に現れた女性の像のことを覚えていないのだった。その女性の像は、今も部屋の隅からベッドに潜り込む北川を見つめているが、北川にはそれも見えていない。 「はあ? 何言ってんだよ。昨日電話であんなに慌ててたじゃんか」 「確かに慌ててた気がするけど。......そういえば何話したっけ」 昨晩、樹と電話したことは覚えてはいるものの、樹とした会話の内容が思い出せずにいた。確かに何かに恐怖し、すぐに電話をかけたような気がするのだが。 「まあいいや。北川、結局何時にどこにするの?」 樹の声で我に帰る。 「ああ、ごめんなさい。じゃあ1時に渋谷スクエアのエントランスで」 「うい」 約束をして、電話が切れた。 これから樹と会うと思うと、北川は舞い上がった。 急いでクローゼットをかき回す。休日のほとんどを一人でショッピングか音楽制作で引きこもっていた北川は、誰かと出かける用の服なんて持ってたかなと焦り出す。 「好みに合わせると良いとかよく聞く気がするけど、天城の好みって何......」 思えば、天城樹という人間が好きでありながらほとんど彼の事を知らないと思った。 あまりに自分のことを語らない彼が、普段何をして、何が好きで、なぜ自分と仲良くしているのか分からない。 創作部以外の人間関係は、あの天使と悪魔しか思い浮かばない。 分からないことだらけだったが、遅刻するわけにもいかないので、自分が私服として着ていても変ではないだろうと見繕った服を用意してサッとシャワーを浴びに一階へ降りようとする。 部屋を出る瞬間、部屋の隅に一瞬見たことない置物があるのを見た気がしたが、気のせいだろうと通り過ぎた。北川は、あんな木製の女性の像を知らない。 ーーーーー 樹は、北川が二人で会いたがっているということをミカとセアレに説明した。 北川が樹のことを好きであると知っているミカは、ニヤニヤしながら樹を見送った。 渋谷に最近できた商業ビルの渋谷スクエアエントランスに樹は到着する。約束の時間より少しだけ前だ。 待ちながら、樹は、そういえば制服以外の北川は知らないなと思い至る。 樹の入っている創作部では、休日の活動は無い。従って、学校でしか北川と会う機会は無かったのだ。 渋谷スクエアは40階建ての複合商業施設で、低層階にはたくさんのショップがあり、上層階にはさまざまな企業が入っていた。 入っている店舗の印象は、とにかく新しく、お洒落で、やや高価。学生には少し縁遠い施設だった。 少し上の階にはレストラン街もあり、ちょっとお茶をするくらいであればそれなりの値段でちょっと落ち着いて長居ができるスポットではあった。 樹が道ゆく人を眺めながら待っていると、唐突に声をかけられる。 「天城、待たせたね」 北川だ。顔を上げた樹はやや驚いた。普段、制服をピシッと校則通りに着こなす北川凪という生徒からは少し印象が違ったのだ。 黒と白でトータルコーデされた服はいかにも渋谷の若者という印象であった。黒いジャケットは首元が大きく開いた白いシャツと北川の白い肌にメリハリを付ける。外は寒いというのに短いパンツで足を出すコーディネートは、とても普段の北川からは想像できなかったのだ。 うっすらメイクまでしている気がする。 スニーカーも流行りものだ。 「お、おう。北川って随分学校と印象が違うんだな」 「可愛いでしょ」 悪戯っぽく笑いながら近づいてくる。 「さあ、行きましょ。ここの上のどこかでいいわよね?」 北川に連れられてエントランスから渋谷スクエアに入る。 一階は化粧品とジュエルのお店が並んでいた。 「私二階にちょっと寄りたいお店があるんだよね」 北川が登りのエスカレーターに向かいながらそんなことを言い出す。 「そうなのか」 「そうなのかって何よ。寄っていいかって聞いてるの」 「......いいんじゃないっすかね?」 「よし、じゃあ行こう」 樹は、北川はいつもこんなに強引な性格だっただろうかと気になったが、学校では抑えているのかもしれないと深く考えることをやめた。 二人が向かったのは雑貨屋。色々なブランドや個人の作家から、そのお店の雰囲気に合うものを取り寄せて販売しているセレクトショップというやつだ。 ごちゃっと並べられた雑貨は、一見雑多なように見えるがお店全体で見ると雰囲気が統一されている。 「欲しいのは本立てなんだけどね。ほら、また参考書が増えたでしょう。私、漫画も読むからそろそろ整理しようかなと思って」 北川が本立てを見ている。暇になった樹は店内を見て回ろうとしたが、すぐに北川に呼び止められてしまった。 「これとこれどっちがいいかしら」 手には二つの本立て。形は同じで色違い。黒とベージュ。 「いやそれは好きなのにしたらいいと思う。そもそも俺はあんまりそういうの得意じゃないから聞くなって」 「良いからさ」 今日の北川は妙に押しが強いと思いつつ、なんとなく黒い本立てを選んでみた。 「うん、私もいいと思うな」 「さいですか」 上機嫌な北川はレジに向かっていって、1分ほどで戻ってくる。 「お待たせ」 「ういっす」 「それじゃあ上に行きますか」 二人はエスカレーターに乗って上の階を目指した。 「デートみたい......」 エスカレーターに乗ってる途中、北川がぽつりと呟く。 「デートって、いやまあ、デート、なのかこれ?」 樹はそう思い始めるとなんだか少し恥ずかしくなって来た。 「ああなんかやめやめこんな空気。いつも通りにしてくれ。今日は昨日の話をしにきたんだろ?」 樹がそう言うと、北川は見るからに悲しそうな表情をして小さく「うん」とだけ答える。 今の反応が、樹の発言によって昨日のことを思い出させてしまったからなのか、それとも別の理由があってのことなのかは、樹には分からなかった。 北川は、デートがしたかったのだが否定された気がして少し悔しかった。

甘い恋

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