僕の青。薔薇の青。きみの青。

第三章 秋の考察と擬似兄妹の誕生

とりとめもなくきみをおもう

「行ってきます」ドアを開けて外へ出る。風が動く。冷んやりした空気がシャツの襟元から潜り込んでくる。  カレンダーは十月でも、つい先日まで蒸し暑く感じる日も多かったのに、いつの間にか夏は別れの挨拶も残さないで、彼を待つ国々へと旅立ってしまったらしい。  夏に限らず、春も秋も冬も、季節はいつも静かにゆっくり移り変わってゆく。僕も含めて、人々はそんなもの言わぬ彼らの往来を、ある日ふと気づくのだ。  花や土の、かすかな匂い。琥珀を帯びた太陽の光の色。そして、頬を撫でる風の暖かさや冷たさ。普段はは意識しないような、それらの緩やかな変化に気づいた時に、人は季節の変わり目移ろいを実感するのだろう。  駅前の駐輪場に自転車を止め、電車に乗る。いつものように立ったままドアにもたれ、ガラスの外を流れてゆく景色を眺める。と、河川敷に赤い筋のような模様が見えた。  人間に比べて植物たちは敏感だ。誰も植えていないのに、実家の庭にいつの間にか生えてきた彼岸花は、まだ気温が高い時期にから、ニョキッと目を出して花茎を伸ばし始めた。そして涼しくなり始めた頃に、蜘蛛の足を連想させる(しべ)を突き出した奇妙な花をいっぱい咲かせ満開を迎えた。  早秋を彩るこの花には遺伝子の関係で種ができないと聞いた。だから増やすためには球根を植えるしかないと。球根は種と違って風に乗って飛んできたり鳥に運ばれたりはしない。誰かがそこに植えないと存在しない・・・はずなのに、不思議だ。  寄りかかっていたドアが急に開いた。表示を見たら降りる駅だった。彼岸花の考察を続けながらホームの階段を上がる。エスカレーターは使わない。階段のほうが集中できるからだ。  誰かが、考え事をする時はひたすら歩くと、以前テレビで言っていた。足を動かすと脳が活性化するとか何とか。誰が言っていたのか忘れた。芸能人ではなかったと思う。医師か大学教授か小説家のどれかだ。  僕はいつも取り止めもないことを考えている。彼岸花しかり青い薔薇しかり、そして彼女のこと。誰かの説に従うなら、僕はいつも歩いていなければならないことになる。  歩くのは好きだから苦にはならない。でも食事をしなければ餓死してしまうし、大学に 行かなければ単位を落とすことになる。それは困る。  早希(さき)にこの「歩けば脳活性化およびでもそれでは僕は困る説」を話したらどんな顔をするだろう。いつものように謎めいた微笑みと心地よい声を僕にプレゼントしてくれるだろうか。    僕がどんな話をしても彼女は受け止めてくれる。どんなににくだらないことを言っても彼女は決してそれをくだらないとは言わない。それどころか、僕の提供した話題に新しい考え方やものの見方をプラスしてそっと返してくれるのだ。    それはまた考えるきっかけとなって、僕は・・・「先生!」「えっ」「えっじゃなくて!また考えごとをしてたの?」「あ、ああそうだね」「ああそうだねって、もう!遅いから心配したんだよ。電話しても出ないし、LINE送ったのに反応ないしさあ!」 (つづく)

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