孤高にして最強の剣士、保護した記憶喪失の少女に懐かれる

読了目安時間:7分

魔将の軍勢を前にして

「これは……」  鐘の鳴った東門で監視に当たっていたアランは、遠くに広がる景色を見て言葉を失くしていた。  通常、魔物の襲撃は全ての魔物が散り散りに接近してくるもの。魔物には知性が無いため、本能的な行動しか出来ないからだ。結果的に包囲網を敷く行動になるようなことはあるが、ただ『人を喰らう』という本能だけに動かされている以上、より効率的な動作や協調的な行動は不可能。  しかし、今は違う。前回の襲撃にも劣らぬ数の魔物が『何かを守るように』円状に配置され、そこから一歩も動かない。 「アランさん。何が起きてるんです?」 「すまんが、俺にも分からん……」  分からないのは、周囲の若い戦士達も同じ。ただ一つ言えるのは、何かがあそこにある、ということだけ。 「ヴァンドラムからの応援がいて助かったな……」  欲を言えば『剣聖』にもいて欲しかったが、あの大国No.2の実力者が応援に来るなどあまりにも都合が良い妄想だと、アランは自分を戒めた。  ヴァンドラムから来た応援は、上級同士のコンビが六組と、片方が特級のコンビが二組。何れも得難い戦力で、向こうからしても大盤振る舞いのつもりだろう。  今まで凶戦士に頼り切りだったが、今回はそうならない。()()()()()()()。 「ん……」  アランは魔物の群れの中に、何かが接近しているように見え、望遠鏡を覗き込んだ。その瞬間、包囲の外側にいたスパイダーが糸を吐き出したのを確認した。魔物が動いたというのは即ち、人が接近してきたということ。直後、スパイダーの胴を黒い閃光が貫いた。 「おいおい……」  はっきりと見えたわけでは無いが、彼はその黒い閃光の正体を確信していた。  * 「ヴィルハルトが魔物の群れに突っ込んだ!?」  東門に急いで向かったアリナは、そこでアランを含む監視の戦士から現況を聞いた。彼女の横にはロイドと、ヴァンドラムから来た二組のコンビがいた。 「そうなんだ。どうしてあんなに早く出られたのかは分からないが……あれだけの数の魔物を相手にすれば、幾らアイツでもマズイ」 「……ねえロイド、これってもしかして……」 「ああ。『魔将』のお出ましだな」  彼らの言葉に周囲がどよめく。アランが鬚を蓄えた顎を撫でながら呟く。 「成程な。確かにアレは過去に魔将が出現した時の話に似ている」 「我々もその話は知っている。では我々は今、かの英雄無しにあの魔将を討伐せねばならないということか」 「そうね。あっちが何するか分からない以上、早めに動いた方が良いかも」  白い鎧を纏ったヴァンドラムの戦士が、やや不安げな声を出すのを、アリナは強気な言葉を返した。 「しかしだ、魔将の出現はアルマイレどころか世界規模の危機。|我らが祖国(ヴァンドラム)も直ぐに追加の人員を送るはず。それまで待つのは駄目なのか?」 「それまでっていつまで? 二日? 三日? 一週間? むしろ守りに徹してくれている今こそ、突破して包囲の中心を確かめるべきじゃないの?」 「待て待て、お前ら。さっきも聞いたろ、もうヴィルハルトが出て行っちまってるんだ。仮にアイツがジュリウスさんに匹敵するとしても、魔将相手に一人じゃ勝てる保証は無い」  門前で作戦会議が始まるが、初めて体験する状況故に、なかなか意見が纏まらない。  その状況を打破したのは、アランだった。 「ここアルマイレで一番戦士歴が長いのは、俺だ。だから、指揮は俺が執りたい。実際、今まではそうしていた」 「……良いだろう。ではアラン殿、指示を」 「ヴァンドラムの精鋭は、ウチの戦線を支えられる貴重な戦力。出来るだけ無駄にしたくはないが、全員で攻撃して、今大人しくしてる魔物連中が街に来た時に対応出来なきゃ本末転倒だ。だから今いるアンタたち二組は、俺と一緒に東門の防衛についてくれ。後で残りのヴァンドラム組も来るはずだから、そいつらが来たら魔物の群れに向かうよう伝えて欲しい。それから――」  アランがロイドとアリナを見る。 「アンタたち二人は、確かヴィルハルト・アイゼンベルクの知人だったろ? なら、アイツの所に真っ先に向かって包囲を突破してくれ。周囲の連中も、後で俺の所に来てくれ、一組ずつやることを伝えていく」  それを聞いたアルマイレ組の戦士たちは、即座に威勢よく返事を返した。 「アランさん、僕たちはどうすれば良いでしょうか」 「お前たちは小型を相手にして、実力のある連中が大型に集中出来るようにしろ。絶対に大型には近づくな」 「アランさん、ワタシと彼は……」 「リリーとロウは、俺と一緒に門の前で待機だ。中型以上の相手は、黄雷で牽制して俺を援護してくれると助かる。お前の魔術行使の早さが頼りだ」  アルマイレの戦士や魔導士に対し、アランは一人一人の特性に沿った行動を指示していた。指揮能力の高さもさることながら、誰一人として渋る様子さえ見せないのは、彼らとの間に高い信頼関係があるからに他ならない。この様子を見たロイドが、呟くように言う。 「アルマイレの戦士は練度が低いらしいが……こういうのが一人いれば助かるだろうな」 「現場指揮が出来る人材がいるのといないのでは大違いだからね」  アランが東門の戦力の過半数に指示を与えた辺りで、大量の馬が東門に届けられた。 「来たか。よし、魔物への攻撃を行うものは馬に乗って直ぐに戦場に向かってくれ。急がないと、凶戦士がやられるかもしれん」 「あんだけの数だからな。万が一ってのがある。行こうぜ、アリナ」 「ええ。あんな雑な守り、さっさと突破するわよ」 「急ぎましょう。こうしている間にも、ヴィルハルトさんが独りで戦ってるんですから」 「そうね、エレインちゃ……ん!?」  いつの間にか、エレインがアリナの後ろに乗っていた。移動用の馬は鍛えられている上にエレイン自体も軽いので平気そうだが、そういう問題ではない。 「ちょ、ちょっと、何で来たのよエレインちゃん! 今はちょっと危ないから避難してないと――」 「ごめんなさい! その、どうしてもヴィルハルトさんを行かせたままにしておきたくなくて……!」 「そんなこと言われても……」  まさかここにいるとは思わず、アリナは驚いて馬から落ちかける。姿勢を持ち直した後、彼女に少し強い口調で注意しようとするも、彼女の瞳から放たれる真っ直ぐな意志にたじろいでしまう。  魔導士としての常識に照らし合わせれば、幾ら才能があるといっても正式に魔導士になっていない女の子を連れていく訳にはいかない。だが、相手は兄でさえ、魔導士なしでは苦戦を強いられる『魔将』。ヴィルハルト一人でも勝てないかもしれないし、自分たちが行ってもどれだけ戦力になれるか。 「面白ぇ」  アリナが迷っていた時、横のロイドがニヤリと笑っていた。 「エレインちゃんは、オレたちが感覚的にしか掴めない魔力の存在を目視出来る。つまりそれは、魔力の塊である魔物の核の位置が分かるってことだ。な?」 「え、は、はい。確かに前に魔物を見た時も、それらしいのが見えました」 「なら話は早い。この娘がいれば、わざわざ核の位置を探るような真似をせずに済む。魔物の討伐も、今までの比じゃねぇ効率が実現出来るな」 「な、何言ってんのよアンタ!」  アリナが慌てて口を挟む。 「あんな所にエレインちゃんを連れていくなんて駄目よ! 自衛の手段なんて持ってないのよ!?」 「それならオレたちで守ってやりゃあいい。核の位置さえ分かれば、オレたちでもサーペントぐらいならどうにかなる。それに、だ……」  ロイドは門の向こうを見た。その視線の先には、魔物の群れが黒い線となって見える。 「エレインちゃんがヴィルハルトの調律に成功すれば、魔将だって倒せるはずだ。前から言ってる通り、オレはこの娘に賭けたい」 「ロイド……」  アリナは顔を顰めて考える。  エレインを連れて行けば、確かに魔物戦闘はかなり楽になるかもしれない。魔力の流れを読める彼女なら、何らかの理由で調律が不可能なヴィルハルトとの調律も可能かもしれない。  だが、危険過ぎる。魔導士としての自衛の手段を身に着けていない彼女が魔物に襲われれば、あっけなく死んでしまう恐れが大きい。  リスクとリターン。二つを天秤に掛け、どちらに傾くのか。それを考えていた時――エレインが、後ろからアリナを抱きしめた。 「大丈夫です、アリナさん。だって私、まだ短い期間ですけど、アリナさんの弟子なんですから。アリナさんが教えてくれたこと、毎日ちゃんと復習して、ちゃんと覚えてます。だから、ヴィルハルトさんとの調律だって、絶対に成功させます」  記憶が無いからこその純真さ、ひたむきさ。いや、或いは記憶関係なしに生来の気質かもしれない。エレインの曇りなき心を聞いたアリナの天秤は、『感情』という重しによって壊された。 「分かったわ。でも、私がいいって言うまで絶対に前に出ちゃ駄目よ」 「……ありがとうございます!!」 「ちょ、ちょっとエレインちゃん? 抱きつくまではいいとしても、もう少し力緩めてくれない?」  エレインの決意に折れたアリナを見たロイドが嬉しそうに笑うと、後ろからアランの声が聞こえた。 「攻撃する連中、準備は出来たな? よし、じゃあ――出撃!!」

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